第八十六話 以心伝心のチームワーク
久々に更新しました……!
お仕事も一旦ひと段落着いたのでまた安定したペースでの更新を目指します!
「なんにせよ……だ。このダンジョンは、お前のひいじいちゃんが持っていたっていう宝の地図に書かれていた宝の在処ってことで間違いないんだな?」
ひとしきりドルカに報連相の大切さを懇々と説教し、気持ちを静めた所でアッシュはもう何度目になるかわからない確認の問いを投げかける。
「だからそうだってばー! もーアッシュ君ってば心配さんなんだからー! この私がちゃんとこの目で確かめたんだから間違いないよ!」
「それを確認したのがお前だけだから心配してるんだろうがっ!」
まだ出会って5日という短さにも関わらず、その間予想の斜め上を突き抜けていくようなことだけを仕出かし続けているドルカの信用は完全に地に堕ちてしまっていた。
「ひどい! アッシュ君ひどーい! 私だってやる時はやるんだぞー! うぉー!」
そんな、微妙にかみ合ってるんだかかみ合ってないんだかわからない言葉で怒りを表明するドルカを黙らせる目的で無造作に右手をドルカの頭の上に置いたアッシュは、その手をドルカが両手ではっしと掴んで自分の頭に嬉しそうにこすりつけ始めたのを横目に、マヤリスに話しかける。
「……ってことらしんだが、マヤリスはどう思う?」
「そうねぇ……。可能性は十分、いや十二分にあり得るわね。わたしが思うに、このダンジョン……」
「ねぇねぇっ! わたしはっ!? アッ君わたしには聞かなくていいのっ!?」
当たり前のように自分を無視して真面目に話し合い始めたアッシュとマヤリスの姿を目の当たりにして、あせあせとぴょんぴょん飛び跳ねながらオリビアが横から入って来る。
「オリビア……。もしかして、貴女も何かわかったの?」
「あっ……。その、ほら、あのぉ、ねっ……? えっとぉ……」
「話に混ざりたかっただけかよ……」
図星を指されたオリビアは、一瞬で顔が真っ赤になり「ううぅうぅうう! だって、だってぇ!」等と言いながらまた蹲り始める。その直後、まるでこうなることを分かった上で待ち構えていましたと言わんばかりにドルカの鞄からぴょこぴょこと飛び出してきたアレクサンダー達が、蹲ったオリビアの身体をよちよちとよじ登っては背中を滑り台にして遊び始める。
「……で、マヤリスはボス部屋とこの部屋を見て、一体何を掴んだんだ?」
「ええ、そのことなんだけれど……」
――……アアアァアァアッ!
オリビアが「ああぁあぁあ……。アレクサンダーちゃん達がわたしの身体を登ってるぅううぅう……っ!」と嬉しそうに身悶えし始めたのを見て、最早何も言わず、何事も無かったかのように話を続けようとしたアッシュとマヤリスであったが、その言葉を遮るようにダンジョンコアルームの外、ボス部屋の方から叫び声が聞こえる。
「魔物か……!?」
「……いや、心配しなくても良さそうね。あれは……」
――ドルカ=ルドルカァアアァアアァアアッ!
バン! と勢いよく扉を開けながら部屋に飛び込んで来たのは、つい数時間前、このダンジョンの前でぱったり出くわした勇者アレクサンダーその人であった。その目は怒りで血走り、その右手には何やら紙が握り締められている。
「ドルカ=ルドルカァッ! 君は、君って奴はぁっ! よりによって僕のご先祖様の足跡になんてものを貼り付けてくれるんだっ!」
そう言いながらバッと見開いた紙には、でかでかととんでもなく下手くそな字で『ハズレ』と書かれている。
「あー! 私がせっかく書いて貼っておいたのにー!」
当のドルカが怒られていることなどそっちのけで自分が一生懸命書いて貼ったメモを剥がされた上にしわくちゃにされたことに抗議の視線を送ってきたことで、更に怒りがヒートアップした勇者アレクがわなわなと震え出したのを見て、アッシュは呆れた顔でドルカにツッコミを入れる。
「……ドルカ、お前そんなことしてたのかよ。……って、ご先祖様の足跡!? ってことは……」
「このダンジョン、過去に人間の手によって攻略されていた、って言うつもりだったのだけれど……。それがまさか勇者様とはねぇ……」
誰に言うでもなく、独り言のように呟いたマヤリスの言葉に、勇者アレクが反応する。
「そうだっ! さっきの部屋に真横に一閃されて倒れていた大木があっただろう。 あの太刀筋は間違いなく僕の一族に伝わるものだ。それも、この初代勇者から代々受け継がれている聖剣サンダーソードを使った一閃に違いない。……だいぶ朽ちてしまっていて断言が出来ないのは歯がゆいが、あれ程の鋭い剣閃。僕は初代様のものだと考えている。その偉大なる、この500年の間、誰にも気付かれずひっそりと遺されていた偉大な足跡の根元に君はっ! よりによって『ハズレ』とはなんだ『ハズレ』とはっ!」
なるほど、どうやら勇者アレクはアッシュ達からワンテンポ遅れたタイミングでこのダンジョンに挑むこと数時間。ようやくたどり着いた最奥部で予想外にも初代勇者の残した痕跡を見つけて喜びのあまり大興奮。その興奮の矢先、ふと足元に目を向けるとそこにはでかでかと下手くそな字で紙に書かれた『ハズレ』の文字が……、ということらしい。
そりゃあ怒るよなぁと思いつつ、アッシュが考えていたことはただ一つであった。隣にいるマヤリスに目配せをすると、マヤリスもまたこちらを見て、コクリと頷く。
――勇者に宝のことは言わないでおこう。
よくよく考えればわかることである。
『宝の地図』があるということは、その宝を『隠した人間』がいる。そして、この宝石樹の洞窟は、比較的浅い層こそ果実狙いの冒険者達によって安全に潜れるルートがいくつか確立されてはいるものの、それ以外の所謂ダンジョンとしてのお宝に関しては、発見された当初からダンジョンの機能が停止しているということでそんなものがあるなどと誰も思いもよらないだろう。よしんば思いついた冒険者がいたとしても、この洞窟に潜るのであれば、あるかどうかわかりもしない財宝よりも宝石樹の果実を狙うのは自然の道理である。なにせ、果実であれば宝石樹が全て枯れ果てない限り一定のサイクルで実るのだ。宝石獣達との奪い合いに負けて手に入らないこともあるにはあるが、そもそもダンジョンアタックなど財宝を持ち帰ることが出来る幸運にあり付けるのは数十回に1回。ダンジョンとは、出くわす魔物の素材やドロップ品狙いで潜るものであって、一攫千金の財宝狙い等というのは英雄譚や冒険者達の自慢話を聞かされて冒険者になったばかりの新人の儚くも脆い夢物語なのだ。
そんな財宝が、ショイサナという街の歴史の中では前人未到扱いとなっていた洞窟の何処かに隠されている。そして、そのダンジョンの最奥に、初代勇者が居たと思われる痕跡が見つかったとくれば導き出される答えは一つ。
――この洞窟に宝を隠したの、初代勇者じゃね?
目の前で得意げに初代勇者の痕跡について朗々と語っている16代目勇者アレクサンダー。こいつに初代勇者のものかもしれないお宝があるなどと知られてしまっては、絶対に面倒くさいことになる。
無言で頷きあったアッシュとマヤリスは、一番の懸念材料であるドルカをどう黙らせておくかについて考え始めるのであった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
次話の投稿は近日中の予定です。
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