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第八十五話 冒険者においても報連相はとっても大事

「……なあ、流石にもうそろそろ気が済んだんじゃないか?」

「……もう一回。もう一回呼んでくれなきゃやだ」

「このやり取り何回目だと思ってんだよっ! いい加減俺達も探索手伝おうって! オリビア『お姉ちゃん』もベテラン冒険者ならわかるだろうがっ!」


 どうにかこうにか『お姉ちゃん』を連呼することでオリビアを宥めることに成功したアッシュは、度重なるオリビアの『お代わり』の要求にげんなりしていた。既にマヤリスは大粒の宝石樹の果実の採集に成功し、部屋の中の探索を開始しており、せっかくダンジョンの中で魔物に狙われるプレッシャーから解放されたアッシュは自分も探索に混ざりたくてしょうがなくなっていたのだ。

 ドルカはというと、ちゃっかり拗ねたオリビアの駄々こねから抜け出した後、しげしげと倒れて朽ちた大木を眺めてみたり、その上を大根と一緒にバランスを取りながら歩いてみたり、懐から取り出した紙にふむふむと何かをメモしてみたり、切り株から細く伸びた、果実が成っていた宝石樹の根元にその紙を張り付けたりとマヤリスの真似をしてそれっぽい探索ごっこをしながら実に楽しそうに遊んでいる。せっかく産まれて初めて潜ったダンジョンで前人未到と思われる最奥部にまで到達したのに、何故自分はオリビアにお姉ちゃん呼びを繰り返して機嫌を取っているのだろう。アッシュは、つい先ほど咄嗟の判断でオリビアが命を救ってくれたのだということを棚に上げてそんなことを考えていた。


「うううぅううぅうぅう! わかった、じゃあもう一回だけお姉ちゃんって呼んで、『一緒に探索しよ?』って言ってくれたらする」

「あぁもうっ! 『オリビアお姉ちゃん、いつまでもこんなことしてないでさ、一緒に探索しよ?』これでいいんだろっ!?」


 もうこれで何十回目のお姉ちゃん呼びであろうか。1回2回ならまだしも、このやり取りだけで既に数十分が経過している。相手が命の恩人であったとしてもうんざりしてしまうのは致し方ない話であった。


「んふ、んふふふぅ……! お姉ちゃん頑張るぅ! アッ君、お姉ちゃんが何でも教えてあげるから気になる所やわからないことがあったら言ってねぇっ!」

「アッシュちゃん、それにオリビアも。この部屋の探索は一通り終わったわぁ。奥のダンジョンコアの部屋に行きましょ?」

「……ふぇっ?」


 恐らくタイミングを狙いすましていたのであろうマヤリスの無情な言葉に、やる気とドヤ顔と笑顔でいっぱいだったオリビアの表情が再び固まる。


「この部屋に入ってから何分たったと思ってるの? 何も収穫が無いと分かった以上さっさと次の部屋に向かいましょ? ほらほらアッシュちゃんも早く」

「……本当に容赦ないよな、マヤリスって」


 ちらちらと視界に映っていたマヤリスの様子から、薄々そんな気がしていたアッシュは、この部屋のあれこれを自分の目で検分するのは帰りにしよう、と頭を切り替えてスタスタと次の部屋に続く扉へと向かうマヤリスに早足で追い付いていく。


「リビ姉ー! ぼーっとしてたら置いてかれちゃうよー! はやくはやくー!」


 そう言いながらアッシュの左腕目がけて走って飛びついていくドルカの鞄から、見るに見かねたアレクサンダー達がぴょこんと飛び出し、棒立ちしていたままであったオリビアの足に纏わりついて、後ろからよちよちと押してみたり、正面に回って首? を傾げてみたり、ぴょんぴょんジャンプして存在を主張し、『一緒に行こ?』とアピールをし始めた。


「うううぅううぅう……! アレクサンダーちゃん達やさしいよぉ……! わたし、頑張るぅ!」


 なんだかんだでちょっとだけ後ろを気にしながら先に進んでいたアッシュは、後ろから大根と一緒にかけてくるオリビアの足音を聞いて思った。やはりこの残念美人はチョロ過ぎる、と。


「……見事に何もないな」

「なんだーここもハズレかー」


 ドルカがそう言いたくなるのもしょうがないほどに、本来ダンジョンコアが鎮座していたであろう部屋はがらんどうであった。縦横の幅が両手を水平に伸ばした人間二人分程の正方形の部屋。その中央に据えられた台座はで空っぽのままうず高く埃が積み上がり、それ以外の物は何一つ存在しない。


「……これではっきりしたわね」

「……こんな何もない部屋を見て、何かわかることがあったのか?」

「この部屋というよりは、さっきのボス部屋と合わせての結論ねぇ。私が思うに……」


 探索……と言えるほどの時間もかからず壁や台座の確認ではあったが、それでもマヤリスは何か得るものがあったようである。そう尋ねたアッシュに、マヤリスが答えようとしたその横で、何もないとマヤリスが宣言した小部屋の中にドルカがとことこと入っていく。


「おかしいなー。なんで無いんだろうなー。なーななーおっかしーいなー」


 途中から自作のよくわからない歌まで交えながら部屋中の壁や台座をぺたぺたと触ったドルカは、自分なりに検分して初めて渋々ではあるが納得が出来たという表情で、懐から取り出した紙をぺたりと台座に張り付ける。その紙にはでかでかと『ハズレ』と書かれていた。


「……お前はさっきから何を探してるんだ?」


 思わずマヤリスの言葉を遮ってドルカに質問を投げかけてしまったアッシュであるが、当のマヤリスもドルカの振る舞いが気になり特に咎めることもなく、その成り行きを見守っている。ちなみにその間オリビアは、同じベテラン冒険者であるはずの自分がさっぱり何もわかってないのにマヤリスが何かに辿り着いたという事実に打ちのめされて涙目になっていた所を大根達に慰められていた。


「やだなぁアッシュ君、こんな洞窟の奥まで何しに来たと思ってるのー? お宝だよお宝! ひーじーじの宝の地図! 一番奥にあると思ったんだけどなー」

「……は?」

「……え?」


 そのあまりにも予想外の言葉に、アッシュだけでなくマヤリスまでもが思わず聞き返してしまう。なお、オリビアは自分の身体一生懸命に葉っぱと足を駆使してよちよちとよじ登って来るマンドラ大根達を見て恍惚とした表情を浮かべてトリップしており、全く話が耳に入っていない様子であった。


「ほら、あのしてんのーと戦った時に失くしちゃった宝の地図だよアッシュ君! あの地図にほーせきじゅ? の洞窟って書いてあったの覚えてないのー? だからここに来たのに、アッシュ君ってばうっかり屋さんだなー」

「その宝の地図自体俺は話で聞いただけで見たことすらねぇよ! えっなにここがそうなの!? ここにお宝あるの!?」


 自分の肩を掴んでガシガシと揺らしながら問い詰めてくるアッシュに、ドルカは全身の力を抜いてユッサユッサと楽しそうに揺さぶられながら笑顔で答える。


「だからそうだってばー! やだなぁ、そうじゃなきゃどうやっていっぱいの借金を返すのさー? ここに来てからマーヤちゃんが美味しそうな木の実採ってただけじゃん。アッシュ君、人の話はちゃんと聞いてなきゃダメなんだよー?」

「大事な話を聞いてないのも大事な話をしてないのもお前だぁっ! あの木の実は食用じゃないの! あれは錬金術で宝石になるすごい木の実なの!」

「やだなぁアッシュ君、木の実が宝石になるわけないじゃん」

「お前はそこからか! そこから既にわかってなかったのかっ!」


 この難易度のダンジョンの攻略に自分たちのような新人がベテランに混じって挑戦するなど自殺行為に等しいというのに、何故このアホの娘はここまで他人任せ、お気楽でいられるのであろうか。そして、もしドルカの言葉が真実であれば、自分達は宝石樹の果実の利益に加え、更にとんでもないお宝を掴んで億万長者になるチャンスを手にしているのではないか。

 そんな驚けばいいのか喜べばいいのか怒ればいいのかよくわからない感情のまま、アッシュはドルカ対し全力で突っ込みの雄叫びを上げるのであった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


次話の投稿は近日中の予定です。

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ぜひぜひよろしくお願いいたします。

twitter@MrDragon_Wow

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