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第八十四話 命の危機と涙の理由

相変わらず更新が遅れて申し訳ないです……

「これは……。一体どういうことなんだ……?」


 宝石樹の洞窟の最奥部、ダンジョンコアがある部屋に続く、ダンジョンの魔物を束ねるボスあるいはダンジョンマスター自らが侵入者を迎え撃つ為の無機質な部屋。

 埃の被った重厚な扉を押し開いて進んだその部屋でアッシュ達を待ち受けていたのは、丁度アッシュの目線位の高さで真横に切り倒されて朽ちたであろう巨大な倒木と、気が遠くなるような年月を経てその切り株から再び枝葉を伸ばし、細い幹ながらその枝に大粒の果実をぶら下げた宝石樹の姿であった。


「……いけないっ! 早く部屋に入ってぇっ!」


 扉を開けた瞬間に目に飛び込んで来た、不思議な美しさを称えた果実に目を奪われていたアッシュとドルカを、オリビアの鋭い声が我に返らせる。


――グルルルルルル……!


 何が何だかわからぬうちにマヤリスに肩を引っ掴まれて投げ込まれるように部屋に入れられたアッシュの後頭部、その後ろ髪を『チッ』と鋭い何かが掠める。数瞬遅れて身体を伝わる言いようのない感触に、全身毛羽立ってしまったアッシュが床に転がったまま目にしたものは、狭い扉の隙間になんとか自分の身体をこじ入れようとする、巨大な宝石獣の姿と、それを必死で押し返し、力づくで扉を閉じたオリビアの姿であった。


「危なかったわね……。まさか、まだこの中にこれだけのサイズの宝石樹の果実が残されていただなんて……。流石最下層の宝石獣達ねぇ、あの扉が開いた一瞬でもうこの果実の香りを嗅ぎつけて飛びかかって来るなんて」


 どうやら、アッシュの後頭部を掠めたのは先ほどまでピクリとも動こうとしていなかった宝石獣の一撃だったらしい。そんなものをまともに喰らっていたら間違いなく即死であっただろうことに思い至り、アッシュの身体はガタガタと震え、立ち上がることさえできなくなってしまった。


「大丈夫よアッシュちゃん。オリビアが扉を閉めてくれた以上、あの宝石獣達は入ってこれない。……そもそもあの巨体じゃ入ろうと思っても入れなかったんじゃないかしら。どちらにせよ、もう私たちは安全よ?」


 ガタガタと震える身体で必死に扉から後ずさっていたアッシュの背中を、いつの間にか回り込んでいたマヤリスが優しく受け止めて、言った。背中に触れるマヤリスの身体からは、優しい甘い香りが漂い、自然と身体の震えが止まっていく。


「アッシュ君元気ないの? そしたらまた私の元気分けてあげるー! とりゃー!」


 そんなアッシュの真正面から、同じく間一髪の所をアッシュと同じように部屋に投げ入れられたはずのドルカが、いつも通りの調子で飛びつく。両手を出すことも出来ずに身体で受け止める羽目になったアッシュは、ドルカの身体の温もりと一緒になって身体を伝って流れ込んでくる魔力で、体中に活力がみなぎっていくのを感じた。


「……二人ともありがとうな。流石に今のはびっくりしたし怖かった。一瞬でも遅れていれば俺は死んでたんだって思ったら、身体の震えが止まらなくなっちゃったんだ」

「ふふ、大丈夫よアッシュちゃん。一流と呼ばれる冒険者達も皆、そうやって幾度となく死がよぎる瞬間を乗り越えて成長していくの。アッシュちゃんはこうしてすぐに冷静になれるだけ立派よ?」

「そうだよアッシュ君! アッシュ君はいつだってかっこいいから大丈夫!」


 ようやく身体の震えが収まったアッシュは、照れくさそうに立ち上がると、ぱんぱんと身体についた埃をはたき落とした。次は私の番だと言わんばかりにアッシュの前に仁王立ちになったドルカを見て、苦笑いを浮かべながら身体についた埃をはたいてやろうとした所で、そのドルカの身体越しに、ぷるぷると震えながら涙目でアッシュを凝視しているオリビアと目が合った。


「わたしは……? わたし、一番頑張ったよね……? なんでなんかみんなわたし抜きでめでたしめでたしみたいになってるの……?」

「あ、いや……。その、俺、死ぬかもって思ってちょっと冷静じゃなかったというかなんというか」


 目の前でまだかまだかとうっきうきの表情を浮かべながらアッシュに身体に付いた埃をはたいてもらうのを待っているドルカを無視して、アッシュは後ろにいるはずのマヤリスに救いを求めるべくチラッと視線を送る。


「さて……。これ以上果実の香りを嗅ぎつけられないうちに私は果実を採集しておこうかしらぁ」


――逃げやがったなマヤリス……!


「わ、わたしぃ……! 一番に気付いたのにぃっ……! みんなが危ないって思って、わたしが一番力持ちだからって頑張って扉を塞いだのにぃっ……!」

「ねーねーアッシュ君まだー? あっもしかしてアッシュ君、私の身体に触るの恥ずかしいのかなー? もう! アッシュ君ってばそういうとこ可愛いよねー! でも私なら大丈夫だから! さあさあ私もー! 私もぱんぱんって埃取ってー!」


 感謝の念が一瞬で消え失せるそれぞれの振る舞いにツッコミたい衝動を抑え、わざとではないにせよほったらかしにしてしまったせいで目に大粒の涙を浮かべてものすごい形相でこちらを見ているオリビアへのフォローを必死で考えるアッシュであった。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


今後の更新ですが、仕事の忙しさの波が不規則になりそうで、それに合わせてドルカちゃんの更新も不規則になってしまいそうです。

なるべく一定のペースでの更新を心がけますが、何卒ご理解いただけますと幸いです。

面白いと思って頂けたようでしたら、お手数ですがなろうログイン後にブクマ、評価など頂けると嬉しいです(評価は最新話ページ最下部に表示されます)!

ぜひぜひよろしくお願いいたします。

twitter@MrDragon_Wow

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