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第十三話 魔窟いいとこ一度はおいで ※ただし自己責任でお願いします。

「登録の前に、まずは簡単にご説明を。ギルドとは、各都市に設置された、仕事を依頼したい方と仕事を引き受けたい方を引き合わせる為の組織です。商人ギルドや盗賊ギルド、等、都市によって様々なギルドが存在しますが、冒険者ギルドはその中でも最も手広く、言い換えれば『どんな依頼でも』受け付けているギルドとなります。そして、ここショイサナは冒険者の街として知られるように、冒険者がらみの依頼が最も多く集まる街であり、その関係から特例的に一つの街の中に4つの冒険者ギルドが存在しています。」

「へー! そうだったんだ!」

「ドルカ、お前知らずにこの街に来たのかよ……」


 ほんとこいつ何でこの街に来たんだろう? 相変わらず行動も言動も読めないアホの子である。そんなアッシュ達のやり取りを微笑ましいものを見る目で眺めながら、エリスは説明を続けていく。


「この4つの冒険者ギルドはそれぞれ敢えて競争関係を取っておりまして、各ギルドで達成された依頼の質や量でお互いに競い合っております。依頼主の依頼を受け付けたギルドの掲示板に依頼が公開され、その後魔術ネットワークを介して他のギルドに依頼の概要が伝わり、掲示板に公開されるという時間差があり、所謂美味しい仕事は早い者勝ちかギルド職員からその場にいる冒険者に指名で振られて受注が決まってしまいますので、ご自身の得意な仕事をピンポイントで探したい時は、その系統の仕事が集まるギルドを拠点にすることをお勧めいたします。」

「なるほどな……。ってことは、4つのギルドそれぞれに何か特徴があって集まりやすい仕事も違うってことなのか?」


 早速長い話に飽き始めたドルカがポシェットの中身をごそごそいじったりアッシュの脇腹をつついてみたりと悪戯を繰り返す中、アッシュはきちんと自分の知識として吸収する為、頭を整理しながらエリスに質問を重ねていく。


「その通りでございます。まず、ショイサナに初めて設立された一つ目のギルドですが……」


エリスが簡潔にまとめて教えてくれた冒険者ギルドの特徴は、以下の通りだ。


・『ショイサナギルド本部』

 ショイサナの冒険者ギルドの大本で、ショイサナに一番初めに建てられたギルド。街の中央からやや西側、街の入り口側に位置する。初心者向けから上級者にしか任せられない仕事まで、本部という名に恥じないあらゆる依頼が集まるギルドであり、一般市民の居住区と近いということもあって、市民の方が何か困ったことがあればまずこのギルド本部を訪れる。ここ以外の冒険者ギルドは、それぞれの特徴に特化したギルドとなっている。


・『傭兵ギルド』

 討伐や護衛等の戦闘絡みの依頼に特化している冒険者ギルド。戦闘指南などの冒険者同士での依頼も盛んに行われている。元魔王が支配していたショイサナでは、魔王封印から500年たった今もなお、濃い瘴気が立ち込め、強力な魔物やダンジョンがあちこちに発生する危険な場所の為、戦闘に特化した冒険者が集うギルドが必要となった。街の東側、未開領域に最も近い場所に構えている最前線のギルドとなっている。


・『魔術ギルド』

 魔法やそれに類するあらゆる技術とそれらに関する依頼が集まるギルド。特定の素材の採集や錬金、調合など、冒険者の戦闘面以外の知識や経験が求められることが多い。鑑定技術も発達しているので、ダンジョン等でよくわからないマジックアイテムが見つかった場合、多くの冒険者はこのギルドに鑑定依頼として持ち込む。街の北側、貴族街よりに位置する。


「……とまぁこんな形で、それぞれ強みが異なりますので、自分の強みにあったギルドを拠点にするのをお勧めいたします。」

「冒険者にもいろいろあるんだねー。難しくてもうよくわかんないやー」

「戦うだけが冒険者じゃないってことだな」


 というより、そもそもこいつは魔物と戦えるんだろうか。先祖代々の遊び人っていうくらいだから先祖から伝わる遊び人ならではの戦い方とか……あるわけないな。

 今もなおアッシュにちょっかいをかけ続け、アッシュが鬱陶しくなってその手を除ける為に掴むだけで嬉しそうにえへらえへら笑うようなアホの子が、実は恐るべき戦闘力を秘めている等という可能性は疑うだけアホらしい。


「はい。まあ、お二人の場合は冒険者としては新人なのですから、まずは本部を拠点に活動されるのがよろしいかと思います。それでは、実際の冒険者登録についてですが……」

「ん? ちょっと待った、ここはどんな特徴があるんだ?」


 自分の強みにあったギルドを選べと言いつつ、エリスは『魔窟ギルド』の強みを教えてくれていない。そう質問されたエリスは、不意に暗い表情を浮かべ、アッシュに念を押すようにこう聞き返してきた。


「……気になりますか?」

「え、ええ。まあそりゃ成り行きとはいえここで登録することになったわけだし、このギルドの特徴も知っておきたいなと思いまして」

「……知らない方が良いこともありますよ?」

「……え?」

「基本的に、ここショイサナの南エリア、通称魔窟にわざわざ依頼をしにくる方などいないのです。いたとしてもその、何と言うか、常人には理解できない内容と言いますか……」


 流石魔窟というべきか。集まる依頼さえも普通とは違うらしい。知らない方が良いとは言われてしまったが、もう既にどっぷりと関わってしまっているのも現実である。アッシュは恐る恐るではあるが、詳細について聞いてみることにした。


「……例えば、どんな依頼が集まるんだ?」

「絶えず募集がかかっているものだと、『創作料理の味見依頼』と『魔物の納品依頼』ですね。一見どちらも普通の依頼に見えるでしょうが、依頼主はどちらも同じ人物で、レストランのオーナーなのです。集めている素材が、何と言うか、ゴブリンとかスライムとか、酷いときはアンデッドまで……。普通に考えて食用でない素材を使った料理を出す店として魔窟では有名なのです」

「それもうほとんど人体実験じゃねぇか……」


 その分報酬も高めなので、細かいことを気にしない魔窟の冒険者の中でも更に一部の連中には人気の依頼らしい。


「色んなことに目をつむれば、とんでもなく美味しい上に肉体の成長を著しく促進する効果があるらしく、一度ハマると抜け出せないようなので、ご利用の際は覚悟を決めてからの方がよろしいかと思われます。同様の人体実験系の依頼は他にも絶えず数多く集まっていまして、魔道具屋や鍛冶屋、珍しい所だと香水屋や下着屋等数多くの職人が自分の作ったものが人体に影響が出ないか冒険者を使って確認したがるのです」

「ちょっと待て最後だけ系統が違くないか?」


 さらりとエリスも人体実験であることを認めつつ話を進めるが、それより気になるのが下着屋である。人体に影響が出かねない下着ってなんだよ。女性冒険者に試着させてにやにやしたいだけじゃねぇのかそれ。

恐らく表情に浮かんでいたのであろうアッシュの疑問に答えるように、エリスは淡々と説明を続けていく。


「……そういう欲望に忠実なものも含めて『魔窟』と思って頂ければほぼ間違いは無いかと思われます。あとは職人絡みで超々高難度のダンジョンのコアを持って来いとか、ドラゴンを無傷で生け捕りにして連れて来いとか、そんな無茶苦茶な依頼が集まるのも特徴と言ってしまえるでしょうかね」

「そんな依頼誰がクリアできるんだよ」

「……『魔窟』の恐ろしい所は、それらの依頼を鼻歌交じりで達成できる冒険者がゴロゴロいることなのですよ。あとは他のギルドで誰も手を付けずにたらい回しになっていた塩漬け依頼も大抵ここで処理されます」

「4つのギルドで切磋琢磨するとか言ってたけど、それなら魔窟ギルドがダントツじゃねぇか」

「いえ、それがそうでもないのです。確かに達成した依頼の数や質だけを見ると他のギルドを圧倒するだけの実績があるのですが、それと同じだけ街を破壊したり住民に迷惑をかけたり、負の実績も多く積み重なっておりまして、結局トータルで見ると最下位なのです」

「他のギルドを圧倒するレベルの実績を全部帳消しになる程の負の実績ってなんだよ!」


 多大な貢献もしているが、それ以上に被害を出すことが多い冒険者など、扱いに困ることこの上ない。そんな連中が履いて捨てる程集まっているのが『魔窟』であると考えると、その恐ろしさがよりリアルに伝わって来るようである。


「規模が大きいものだと、先ほどの人体実験系の依頼によって正気を失った冒険者が街を荒らしまわったり、街に流れ込んでいる河川の源流がプロテインで汚染されて近隣の住人や魔物が全て筋肉質に生まれ変わって生態系が狂いそうになったり、魔窟の冒険者基準で安全と見做されたほぼ呪いのアイテムが一般の冒険者に出回って大変なことになったり、面白半分でS級ダンジョンのモンスターを氾濫させたりといった所でしょうか。比較的小規模なものでもパーティを組んだ仲間の武具を破壊して回る冒険者が出た事件や若くて有望な男性冒険者が拉致される事件、生きる術を教えてやると無理やり訓練を施されて人格を失わせられた新人冒険者が続出した事件など、正直言って挙げていったらキリが無いのです……」


――いくつかの事件の犯人に心当たりがあるんですが。というかどいつもこいつもめちゃくちゃやりすぎだろ。

 アッシュはギルドまでの道中でダグラスから聞いた話や、自身の腕に今も張り付くように密着している腕輪を見て、やっぱり魔窟は恐ろしい所だったと頭を抱えたくなるのだった。


最後まで読んで頂きありがとうございます。


もし気に入って頂けたようでしたら、ブクマ、評価感想など頂けると幸いです。

次話の投稿は本日24時頃の予定です。


もしよろしければ、先日こっそり投稿した超短編もどうぞ。

社畜がエスパーに目覚めたらというくだらない日常を描いた作品です。


http://ncode.syosetu.com/n2351ed/


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