第八十二話 死にかけた後の一休み
正月休みで気が抜けたのか更新遅れてすみませんでした……!
次は……次こそはこれまで通りの隔日投稿に戻してみせる……!(フラグ)
「うひょー! 楽しかったー! ねーねーもっかい! もっかいやろー!」
「やるかこのアホがっ! 死にかけたの! 俺らさっき死にかけてたの! わかる!?」
ショイサナから南東、東の森を南へと進むことで程なく見えてくる小高い丘の中腹にある窪んだ地形。そこにぽっかりと口を開けている洞窟こそ、アッシュ達一行が現在攻略真っ最中の宝石樹の洞窟である。
マヤリス特製の宝石獣達をおびき寄せる香りの香水を振りまかれた大根を囮にし、その間に果実を採集するという作戦だったはずなのに、ドルカという魔法が使えもしないのに無尽蔵に等しい魔力の塊は、宝石樹に寄生された魔物達にとって宝石樹の果実よりも魅力的に見えたらしい。ドルカの巻き添えを喰らう形で散々宝石獣達に追いかけられる羽目になったアッシュは、オリビアの両脇に抱きかかえられたまま縦横無尽に洞窟内を駆け回ることとなり、既にへとへとであった。
「んふふふふぅ! お姉さま、お姉さまかぁ! アッ君内心ではわたしのことそんな風に思ってくれてたのかぁっ! んふ、んふふふふ、んふふふふふぅっ!」
一方、右脇にアッシュ左脇にドルカをそれぞれ抱えて宝石獣達から延々逃げ回るという実質的に一番ハードな役回りになっていたオリビアは、疲れたそぶりを見せるどころか、命の危機に瀕したことで藁をもすがる思いであったアッシュの口から咄嗟に漏れ出た『オリビアお姉さま』という言葉を延々と繰り返しては締まりのない顔で笑っている。
「……で、あの状況で俺達をしばらくほったらかしにしてまで何を作ってたんだ? ただただ俺達が逃げまどう姿を見て楽しんでたわけじゃあないんだろ?」
ようやく落ち着きを取り戻してきたアッシュがマヤリスに尋ねると、マヤリスはくすくすと悪戯っ子のように笑う。
「……何のことかしら? 私はただ、アッシュちゃんの言う通りアッシュちゃん達が逃げまどう姿を見て楽しんでいただけよ?」
「そう言うことで俺がどんな顔をするか見てみたいだけだろ? 俺の知ってるマヤリスは『ダンジョン攻略に必要なアイテムを用意する時間が必要だった』っていう尤もらしい言い訳を用意して、何があっても自分の優位が揺るがない状況を確保した上で相手が慌てふためく様子を楽しむ奴だ。見え透いた嘘はやめろよな」
いつも自分をからかっては笑っているマヤリスへの、ちょっとした意趣返し。お前のやり方はわかっているぞと凄んで見せたアッシュが、一体マヤリスはどんな反応をしてくれるのだろうかと内心ちょっとだけわくわくしていたのだが。
「~~~っ! アッシュちゃん……! アッシュちゃんってやっぱり最高……! あんなに可愛い顔してあんなに泣き叫んで振り回された後に言うことがこれなんて……! あぁ、私もう癖になっちゃいそう……!」
「……逆効果じゃねぇか」
結局のところマヤリスを必要以上に喜ばせるだけに終わってしまったアッシュは、思惑が外れた気恥ずかしさがこみ上げつつも今恥ずかしがっては余計にマヤリスを喜ばせるだけだと必死で己に言い聞かせ、全力で話題を変えにいく。
「……それはもう良いとして」
「くすくす……。あらぁ? 思惑が外れて恥ずかしくなっちゃったのかしら? アッシュちゃんってばやっぱり可愛いわよねぇ……」
「良いとして!」
あっさり見破られて一瞬で耳まで熱くなったアッシュであったが、それでも挫けず続ける。
「で、何を用意してたんだよ? 大根を囮にする作戦が使えなくなったから、その代替案を考えてくれたんじゃないのか?」
「耳まで赤くなっちゃって可愛いんだからぁ……! これよこれ。魔力の気配を絶つ香水。ドルカちゃんの魔力が思ったより膨大で、宝石樹の果実の香りよりも宝石獣達にとっては魅力的に見えちゃっていたのが問題みたいだったから。これをドルカちゃんにひと吹きしてあげれば解決って話」
そう言ってマヤリスが懐から取り出したのは、澄んだ青い色をした香水のボトルであった。
「こんな香水をあの場であっさり作れるなんて、やっぱりマヤリスは凄いんだな。これがあれば当初の計画通り動けるってことだよな? おいドルカ! この香水付けてやるからこっち来いよ」
「もう付けてるわよ? ドルカちゃんもオリビアも、あとついでにアッシュちゃんも」
「……へ?」
そう言われて改めて自分の服の袖の辺りをクンクンと嗅いでみると、確かにほんのりとミントのような胸がスッとするような香りがアッシュの鼻を刺した。
「……ほんとだ」
「くすくす……。そもそも、あれだけの数の宝石獣達をどうやって巻いて逃げおおせたと思っていたのかしらぁ? 宝石樹に寄生された魔物達は命令に忠実なゴーレムみたいなもの。普通の魔物や動物と違って、簡単に獲物を諦めてくれたりはしないの。逆に、獲物の気配が消えた時に『まだ近くにいるはず』みたいな思考さえ失ってもいるから、こうやって魔力の気配を絶っただけであっさり引き下がってくれるわけだけれど」
どうやらマヤリスは、この香水を完成させて宝石獣達から逃げ回るオリビアに合流した直後にもうこの香水をかけてくれていたらしい。
言われてみると、確かにマヤリスが合流してすぐに宝石獣達を巻くことが出来ていた。てっきり囮としての役目を果たすために、オリビアがわざと宝石獣達の注意がマヤリスに向かわないようにつかず離れずの距離を維持していたのを、マヤリスと合流後はその必要がなくなったためにさっさと巻いて逃げおおせただけだと思いこんでしまっていたアッシュに、名前を呼ばれててこてこ近付いてきたドルカが当然のように背中にぴとっと張り付いた。
「アッシュ君呼んだー?」
「呼んだけど大丈夫だった。向こうで遊んでていいぞ」
「えーやだー! せっかくだからここにいるー!」
背中に寄りかかるドルカから心地よい重さを感じながら、アッシュが続ける。
「なんだ、俺はてっきり宝石獣達の気を引くためにオリビアが加減して逃げ回ってただけだと思ってたよ。だから何度ももっと早く! って叫んでたわけだしな」
「手加減して走っていたのは本当だよぉっ! ……だって、本気出したらきっとアッ君もドルカちゃんも大変なことになっちゃうから」
ようやく我に返った所でハッと周りを見回してみたらみんながちょっと離れた所で集まっていて、寂しくなったものの今更どんな風に話に混ざれば良いかわからずに遠巻きにもじもじ様子を伺っていたオリビアが、自分の名前を呼ばれたことでそんなことを言いながら嬉しそうに近寄って来る。
「そうよねぇ、力加減が苦手なオリビアにしてはよくアッシュちゃんとドルカちゃんを怪我一つさせないまま逃げ切ったわよねぇ」
「でしょー! わたしのことを怖がらずに一緒に遊んでくれる大根ちゃん達とドルカちゃんのお陰でちょっとだけ手加減上手になったの! ねえねえ凄いでしょ!」
「手加減というかなんというか、オリビアは腰に手を当てて走るだけ、その隙間に入った俺とドルカは自分の力で必死にオリビアにしがみつくみたいな感じだったんだけどな。最初オリビアが自分の力で締め上げて俺達を固定しようとしたら肋骨が軋んで息が出来なくなったから俺の方から必死でそういう感じにしてくれってお願いしたんだ」
それは果たして手加減と言えるのだろうか。みんな無事だったしオリビアも喜んでるしそれならそれでいいか。
細かい所まで突っ込んでいたらキリのない3人とのやり取りに、段々と感覚が麻痺して大雑把な性格になりつつあるアッシュであった。
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次話の投稿は明後日8時の予定です。
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