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第七十二話 張り切るオリビア 飛び散る肉片

※12月12日

重要なシーンが抜けていた為追記しました。

(重要ではありません。マンドラ大根達の描写が増えただけです。)

「それで、気が付いたらわたしはそのまま家を飛び出してて……。それ以来家族には会ってなくて……」


 オリビアの語った過去。それはあまりにもこう、なんというか、まあ悲惨なものではあった。

若干14歳にして尋常ではない魔力を体内に宿し、その全てを体内で循環させ、身体能力を向上させる内功につぎ込むことを可能とした稀代の戦士。それを抜きにしても、生まれながらにして備わっていた観察眼と、正しいお手本に事欠かないバルバロード一族という最高峰の戦士の家の娘であったことにより成し得た一切の無駄のない洗練された動き。その無駄のない動きによってのみ鍛え上げられたオリビアの身体の筋肉は戦いに特化されており、内功を抜きにしても見た目からは予想が不可能な程の怪力を発揮することが可能である。

 そして、そこに加えて内功による力の増幅、持続力や多少の怪我に対する治癒力の向上である。オリビアが野山を駆け回りながらあふれ出てきた魔物だけを狩りつくしていたことで気付かれなかったそのダンジョンは、スタンピード一歩手前まで魔物達が膨れ上がっていたにも関わらず、オリビアはその魔物達を単騎で倒し切り、それらの魔物やダンジョン内に自生していた果実等の食糧のみで半年間戦い抜いた。

 ダンジョン攻略の間、ひたすらに魔物の肉を喰らい、24時間常に戦いの中に身を置くことで更に研ぎ澄まされていったオリビアの魔力を受け止めきれるだけの器は、最早初代バルバロードの剣や、「もしかしてこれなら……?」と試しに試して破壊しつくしたバルバロード一族が代々せっせとかき集めていた刀剣コレクションには備わっていなかった。


「……そして、あてどもなくふらふらと彷徨いながら日銭を稼ぐために冒険者ギルドに登録。強者の貫録を醸し出しながらも見た目は年ごろの可愛い女の子。おまけに本人は何やら失意の様子。……下心ありありの男性冒険者達が声をかけ、共に冒険に連れ立って行ってはその尋常ではない強さにドン引き。『自分に合う剣がなくて困っている』と嘆く美少女にちょっといい顔をして見せようと自身の愛剣を振らせてみようとしたが最後、その剣は一瞬にして粉々。そして付いた二つ名が『破壊姫』。それがオリビアという魔窟でも屈指の実力を誇る女冒険者の実体なのよ……」

「うわぁ……」


 段々と意気消沈して言葉が出なくなっていったオリビアの代わりに説明を続けたマヤリスの言葉に、アッシュはもはや絶句していた。


「わたしだってこんなことになるとは思ってなかったのにぃっ! わたしはただあの剣に相応しい強さを身に着けようと思っただけなのにぃっ! うううぅうぅうぅう……」


 一心不乱に鍛え続けた結果、目標としていた剣を遥かに凌駕する実力を身に着けてしまい目標としていた剣さえへし折ってしまったオリビアに、アッシュは必死でフォローの声をかける。


「い、いやでもほら! オリビアはその凄い剣無しでも戦えるだけの強さを手に入れたんだろ? 俺がどう頑張ってもたどり着けない領域だと思うし! 尊敬しちゃうなぁ!」

「……ここまで強くならない方がいいよ。ちっちゃい頃あんなに大好きで一緒に遊んでもらってた動物さん達が、わたしの気配を察知しただけで全力で逃げ出すようになっちゃったし、正面に回り込んで抱きしめてあげようって待ち構えてたら、目が合っただけで気絶するし……」


 動物からすれば何気ない動作1つで自身の命が消し飛ぶような相手から逃げ出すのは自然の摂理である。魔素を喰らって自身の力としている魔物と違い、純粋な生物として自然の中で生き延びている動物たちは魔物よりも危機察知能力に長けている。そんな動物たちが近付くだけで死を悟らざるを得ない存在が自分を追いかけて来て、逃げ切れたと思った所に正面に待ち構えているのを目の当たりにして気絶、オリビアも絶望に染まった動物達が己の死を悟って気絶していく様子を眺めるわけで……。端的に言って地獄絵図そのものだなぁとアッシュは思った。


「で、でも! その力のお陰でオリビアは今もこうして魔窟でやっていけてるんだろ? 素手でドラゴンなんて凄いよなぁかっこいいよなぁ! オリビアもダグラスって知ってるだろ? 『剥き出しの筋肉愛好家ネイキッドマッスルラバー』のさ!」

「……知ってるぅ」


 そんな感想はおくびにも出さず、アッシュは必死でオリビアを褒めちぎる。


「やっぱり知ってるよな! あのダグラスだって結構頑張らないとドラゴンは倒せないって言ってたのに! オリビアは19歳でそんなことが出来ちゃうなんて凄いなぁ! 同じ怪力同士、やっぱり仲良かったりするのか?」

「……仲間に誘われたことあるけど、断ったの」

「そりゃそうだよなぁ! オリビア位凄い人をダグラス達がほっとくはずないもんなぁ! その誘いを断って一人で戦い続けるオリビアはやっぱりすごいよなぁ! 自分の信念を持って冒険者やってるんだろうなぁ!」

「信念っていうか、あの人たち裸だから……。裸の男の人はちょっとやだった……」


――くそっくそっちょいちょい普通の女の子みたいなこと言いやがって。


 アッシュは喉まで出かかった言葉を無理やり飲み込み、目の前で蹲る残念な美女を眺める。いつものように『ううぅうぅうう』と呻いていない辺り、泣いているわけではなさそうだが顔を上げようとはしない。


――こいつ、もうちょっと褒めて欲しくてわざと蹲ったままでこっちの様子を見ていやがる。


 そう確信したアッシュは、最後の一押しだと言わんばかりに恥を捨てて最後の言葉を紡ぐ。


「それに、オリビアは俺やドルカに色んなことを教えてくれるつもりなんだろ? ……その、マヤリスとはまた違う本物の戦士としてのアドバイスは凄くためになりそうだし、期待してる。なんというか、その……。頼りがいのあるお姉ちゃんって感じっていうか……」


――ぴくり。


 恥ずかしい気持ちを堪え、必死で絞り出したアッシュの『お姉ちゃん』という言葉に、オリビアが露骨に反応した。


「……もう一回言って」

「えっ?」

「……今の。『お姉ちゃん』ってもう一回言って」


 よくよく見ると、オリビアの耳は既にほんのり赤みが差し始めている。ちょっとちょろすぎやしないかこの人。アッシュはそう思った。


「恥ずかしいからもう一回だけだぞ……? その、俺はオリビアのこと、頼りがいのあるお姉ちゃんみたいな人だって思ったよ」


 アッシュがそう伝えたその瞬間、今の今までずっとピカピカになった大根達に順番に頬ずりして遊んでいたドルカが唐突に追い打ちをかけた。


「あっ私も私もー! なんかねー、リビ姉はかわいーしかっこいー! 魔物をばばーん! ってやっつけるの凄いと思うなー! ねー、アレクサンダー?」


 ドルカの言葉を受け、マンドラ大根達もまたオリビアの方や頭にぴょこぴょこと飛び乗り、気遣わしげに葉っぱでオリビアの肩や頭をぽふぽふ叩いたり、さわさわ撫で始めた。


「……ほんと?」

「ほんとだよー! だってリビ姉凄いんだもん! オークさんが出てきたのをシュバッ! って一瞬で真っ二つ! かっこよかったよー! ねっねっマーヤちゃんもそう思うよね?」

「くすくす……。そうねぇ、私はああいう所謂肉弾戦は苦手だから。あんな風に戦えるのは純粋に尊敬しちゃうところはあるわねぇ」


 その、スタイルこそ違えど魔窟の冒険者としてはほぼ同格として扱われているマヤリスの言葉がトドメとなったのであろう。蹲ったままひたすら褒めちぎられていたオリビアの耳は、オリビアの言葉を聞いた瞬間にピクリと震え、一瞬で真っ赤に染まり上がった。


「んふ……! んふふふふふぅっ! わたし、そんなにすごいですかぁっ! そんなに頼りがいのあるお姉ちゃんに見えてるのかぁっ! んふふふふふぅっ! わたし、頑張る! お姉ちゃん頑張るからアッ君もドルカちゃんも見ててねっ!」


 そう言って勢いよく立ち上がったオリビアの身体からは、最高潮まで高まったテンションそのままにゆらゆらと噴き出るようなオーラを纏っており、オリビアの周りだけ景色が禍々しく歪んでいる。


「あー! アレクサンダーッ! アレクヨンダーッ! その他みんなーっ!」


 突然立ち上がったオリビアのあまりの勢いの良さに、先ほどのオークの鼻に詰まった時とは違い真上に吹っ飛んでいった大根達を見て、ドルカが悲鳴半分、ワクワク半分と言ったテンションで叫び声を上げる。


「あっ、丁度良い所に獲物が近付いてきてるぅっ! 見ててねアッ君ドルカちゃん! これがわたしの本気だからっ! ねっ!」


そんなドルカの様子は一切目に入っていないオリビアが、そう言い放つや否や禍々しく揺れる背景と残像を残して消える。その直後、間延びした、しかし明らかにハイになっているオリビアの声が真後ろから聞こえ、アッシュは慌てて後ろを振り向いた。


「ほらほらぁっ! 見てみてアッ君ドルカちゃん! ……覇唖ッ!」


 振り向いたアッシュの目に映っていたものは。


――オリビアよりも更に頭2つ分は大きいように思える、明らかに森の異変の原因となっていたであろうオークの上位種が唖然とした表情を浮かべたまま細かい肉片になって飛び散っていく惨状と、それを拳の一突きで成し遂げたオリビアの満面の笑みであった。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


次話の投稿は明後日8時の予定です。

面白いと思って頂けたようでしたら、お手数ですがなろうログイン後にブクマ、評価など頂けると嬉しいです(評価は最新話ページ最下部に表示されます)!

ぜひぜひよろしくお願いいたします。

twitter@MrDragon_Wow

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