第五十七話 超絶アホの娘、小悪魔猛毒香水屋に続く3人目の仲間はポンコツ怪力お姉ちゃん
「わかった……。正直な話、俺は冒険者としての経験が浅すぎて何も知らないしわからない。俺やドルカが、このわけのわからないイカれた連中ばっかりの魔窟で生きてきたマヤリス達から見て仲間にしたいと思えるほどの何かを持っているって言われてもぶっちゃけまだピンと来てもいない。でも、これだけの実力差があるってのに対等な仲間だ、って言ってくれたマヤリスが本気でそう言ってくれているのはわかったし、少し胸を張っても良いのかなって思えたよ。ありがとな。……そういうわけだからオリビア。宝石樹の洞窟の攻略、是非手伝って欲しい。右も左もわからない俺達だけど、楽しい冒険になることは保証するぜ? なんてったって、このアホが付いてるからな」
なんとなく胸のつっかえが取れたような気持ちになったアッシュは、仲間に入れて欲しいと申し出てきたオリビアに対し、自分なりの率直な思いを告げた。
無事仲間に入れてもらえて嬉しい反面、アッシュがまたお姉ちゃんと呼んでくれなかったことにちょっとだけむくれていたオリビアであったが、その言葉の締めくくりに、それっぽいことを言うだけ言うや否やもう再び自分の世界に舞い戻り、大根達を一体一体積み上げては崩して締まりのない笑顔で遊んでいたドルカを顎でしゃくって指し示されたことで、大根達の可愛さにやられてついついうっとりとにやけ始めてしまった。
また、ドルカはドルカで、アッシュに見られていることに気付いたことでこれまた嬉しそうな顔で『えへへへー』とアッシュに笑い返したのを見て、オリビアが更に可愛いものを見つけた! という表情でドルカを凝視し始めた。
なお、その後ろで、あと1体で絶妙なバランスで積み上げられた大根タワーが完成する! という状態で放置された大根達がぷるぷると震えながら必死でその姿勢をキープしているが、当のドルカはもう飽きたようで手に持った最後の1体をアッシュのつもりなのかぎゅぅっと抱きしめてアッシュと見つめ合った喜びをぶつけている。
「もう、アッ君! そう言ってくれたのは嬉しいけど、またお姉ちゃんって呼んでくれなかった!」
ドルカや大根達に見惚れること10秒足らず。すっかりお姉ちゃん呼びをしてもらえなかったことを忘れそうだったオリビアが、ハッと我に返って改めてむくれた表情を取り繕った。そんなオリビアに対しアッシュは、今までのように恥ずかしがったり躊躇う様子も見せずに答える。
「ごめんな。でも、俺とオリビアは、これからは仲間なんだろ? ドルカがどう考えるかまではわからないけど、少なくとも俺は仲間になったからには対等でありたい。対等な仲間を『お姉ちゃん』だなんて呼んでしまったら、俺は絶対にどこかでオリビアに対する甘えが生まれる。……洞窟攻略の間だけとはいえ仲間になった以上は対等でありたいんだ。悪いんだけど、お姉ちゃん呼びは無しにさせてもらえないか?」
そう、少し照れくさそうな顔を見せながら言い切ったアッシュに対し、当のオリビアはその反応は予想の大きく外にあったようで、わざとらしくむくれていた表情から一変、あわあわと顔を赤らめながらしどろもどろで答えた。
「……あ、あのっそういうことなら良いと思うっ! うん、すごく良いと思うなわたしっ!」
「……ふふ、ついさっきまで良いように振り回されてただけだったのに、いざ覚悟を決めたらこれなんだもの。ほんとアッシュちゃんってズルいわよねぇ」
お姉ちゃん呼びを断られてしまったにも関わらず何故だか嬉しそうな表情を浮かべて悶え始めたオリビアを見て、マヤリスが呟く。一方ドルカは、アッシュがお姉ちゃん呼びをしないと宣言した理由等自分には一切関係ないと言わんばかりにドルカらしい宣言をしてみせた。
「えー! アッシュ君も一緒にリビ姉って呼べばいいのにー! まあいいや私はリビ姉のことリビ姉って呼ぶからね! えへへへおねーちゃんだ! おねーちゃんが出来たー! うひょー!」
「おいおい、仲間になったとはいえ一時的なものなんだし、そんなにべたべた甘えたら迷惑かも知れないだろ!」
喜びのあまりおもむろに立ち上がってオリビアに飛びつき、背中に飛び乗るようにして甘え始めたドルカを見て、アッシュが流石に迷惑だろうと窘めたのだが。そのオリビアの様子を冷静に観察していたマヤリスがぼそっとアッシュに伝える。
「……アッシュちゃん。オリビア、嬉しすぎて笑顔を引き攣らせて過呼吸になりかかってるわぁ」
「うひぇひぇ……大根ちゃんも、ドルカちゃんもかわいいよぉ、かわいいよぉ……! 怖がらずに仲良くしてくれる人、久しぶりだよぉっ……!」
「うわぁ……」
思わず素でそう言ってしまったアッシュであったが、幸いトリップ状態のオリビアには聞こえていなかったようである。
「ま、まあ本人が喜んでるなら、いいか……」
「……とにかく、今日はお互いの動きを確認する為に、魔物相手に実際に戦ってもらうわぁ。オリビアもそろそろ正気に戻ってらっしゃい? 戦闘力しか取り柄が無いあなたの最大の見せ場の話なんだから」
残酷極まりないマヤリスの発言を聞きつけたオリビアが我に返ると同時に背中にぶら下がるドルカをそのままにしてぷるぷると震えながら半泣きで訴え始めた。
「ううぅぅっ! わたし戦うだけが取り柄じゃないもん! お裁縫だって練習中だもん! ほらぁっ! ドルカちゃんはわたしのアップリケ気に入ってくれたでしょっ? わたしお裁縫も得意だもん!」
「あっ! やっぱりリビ姉はこのアップリケ売ってたお姉さんだったんだー! やっぱなー! 私そうじゃないかと思ったんだよー! うひょー!」
「あっ……」
つい先ほど見え見えの嘘で武人っぽさを一生懸命演じる為に、『アップリケという名の貴重な魔物の革や鱗のぼろきれのような残骸を売っていたのは自分ではない』と言い張っていたことをすっかり忘れたオリビアを見て、アッシュとマヤリスは更に残念そうな顔を浮かべてオリビアを眺めざるを得なかった。
「い、いやっ! これはそのでしゅねぇっ……! だってぇ……かっこよく戦うお姉ちゃんでいった方が仲間にしてもらえるかなって思ったからぁ……!」
「ほんと、貴女ってやること成すこと全てが裏目に出るタイプよねぇ……」
何故かっこよく戦うお姉ちゃんで通せると思ったのか、そして何故自分でついた嘘を忘れて速攻で墓穴を掘ってしまうのか。あまりの残念さにマヤリスが素で呆れた表情を見せる。
「……それで、今日は魔物相手に戦うんだろ? 俺、ろくに剣さえ持ってないんだけど大丈夫か……?」
恥ずかしさのあまりまたもや顔を覆って蹲ってしまったオリビアとまだ背中に引っ付いたままのドルカを横目に、アッシュはマヤリスに相談する。
「そうねぇ、アッシュちゃんには一応形だけでも装備を整えてもらいましょうか。……オリビア! 私達は軽く準備があるから、九つの鐘が鳴る頃に東門の前で落ち合いましょう?」
「わかったぁ……! わたし、がんばるぅっ……!」
そう言うだけ言ってマヤリスは、後は勝手に自分で立ち直れと言わんばかりに席を立ち、ギルドの出口へと向かい始めた。
「はーい! アッシュ君、マーヤちゃんまた後でね! うひょー! 楽しみだー! うひょー!」
「なんでお前は当たり前のように残る気なんだよお前も丸腰だろうがっ! ほら、大根達を仕舞ってさっさと行くぞ!」
マヤリスやオリビアがいるとはいえ、お互いの動きを実戦で確認するということは恐らく自分やドルカだけで魔物と対峙させられることになるのだろう。本当にこんなアホの娘と一緒に魔物と戦えるのだろうかという一抹の不安のせいで、いよいよまともな冒険の始まりだという胸の高鳴りに素直に身を任せて喜ぶことが出来ない。そんなこととは露知らず、「えへへへー! 今日は頑張ろうねー!」等と言いつつ迷わずアッシュの腕に飛びついてまとわりつくように歩き始めたドルカを横目に、アッシュはなんとなくむずむずそわそわとしてしまうのであった。
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