第五十六話 仲間? よくわからないけど私はアッシュ君とずっと一緒だよー!
「俺が、舐め過ぎ……? マヤリス達のことならまだしも、俺自身のことも……?」
マヤリスに突き付けられた言葉に、アッシュは困惑していた。
オリビアからの、宝石樹の洞窟へのアタックに自分も仲間に加えて欲しいという申し出に対して、マヤリスが後衛でオリビアが前衛になるのであれば自分たちのファイトスタイルさえ固まっていないレベルの新人である自分たちの役割が無くなってしまうのではないかと思ったのは事実であり、だからこそオリビアが仲間に加わるのであれば自分達が不要になると思い、返答に困ってしまったのも事実である。しかし、マヤリスはそのアッシュの不安を、『マヤリス達のことも、アッシュ自身のことも舐めている』と指摘した。
「そう。貴方は私たちのことを舐めている。私たちのことを、ソロで悠々と生活できるだけの実力を兼ね備えた冒険者『程度』だと思っているでしょう? 舐めないで欲しいわぁ」
「え……?」
「……そうだな。アッ君、もしマヤリスのその指摘が正しいのであれば、それはわたしたちのことを見くびっていると判断せざるを得ない。私たちを、いや、魔窟の冒険者達を、その程度の実力だと舐めてかからない方がいい。私たちの実力は、君が思っているその更に向こうにあるのだ」
マヤリスの言葉を補足するようにそう言ったオリビアの言葉に、アッシュはようやくマヤリスの言葉の真意を理解した。
「更にその、向こう……?」
「そう。私たちはね、もう自分の弱点を補ってくれる実力が近い相手を求めるような段階はとっくに過ぎ去っている。自分の背中を預けるに値するかなんてどうでもいい。それこそAランクの冒険者達が徒党を組んで挑むのが常識とされる宝石樹の洞窟でさえ、私もオリビアも自分の身は自分で守るだけなら簡単なのよ? そりゃあ今回はアッシュちゃん達の借金っていう問題があるからその中で役割分担を前提とした作戦を考えて、私の穴を埋めてもらうことを考えたわよ? でも、それはそれ。私が第一に考えているのは、一緒に冒険をしていて楽しい相手かどうか。そして、私はアッシュちゃんとドルカちゃんに出会った。貴方たちは最高よ。これだけイカれた連中がいる魔窟の中で、ここまで何をしでかすかわからない、先が読めない子は早々いないわぁ。……これでわかったでしょ? アッシュちゃんが私たちのことも、アッシュちゃん自身のことも舐め過ぎだと言った訳が」
「わたし達にとってはもう、実力の差など些末なことに過ぎないのだ。お前たちのようなずぶの素人を仲間に引き入れ、何の問題もなく依頼を遂行できるだけの力をわたし達は手にしている。少なくともわたし達にとって、お前たちのような何をしでかすかわからない、未知の何かを見せてくれる存在は、そつなく全てをこなせる何の面白みのないそこらのAランク冒険者共よりよっぽど貴重なのだよ。誰かに取られる前にこうして囲い込んでおきたくなるほどに、な」
冒険者が依頼をこなし、背中を預け合うという意味での『仲間』やそのグループを指す『パーティ』が作られるまでには、いくつかのパターンが存在する。
第一に、同じ村や町の出身という幼馴染同士で冒険者登録をし、そのままパーティとして活動していくパターン。第二に、右も左もわからない新人冒険者時代を共に過ごす中で意気投合した者同士がパーティとして活動し始めるパターン。
これらのようなパターンで組まれたパーティは、中にはパーティ唯一の女性冒険者をめぐっての恋愛絡みのいざこざであったり、自分がのけ者にされるのが嫌というだけの理由で無理やり仲間に入ろうとする者が出たりといったトラブルも起こり得るものの、苦楽を共にした相手ということもあってそういった初動の躓きさえなければ幸先の良いスタートを切れることが多い。ただしそれはあくまで新人冒険者のスタートとしてはという意味であり、今まで見えていなかった仲間の一面に触れてしまった、どうしようもないレベルで冒険者としての力に差が出て来てしまった、もっと悪い場合は不慮の事故や身の丈に合わない魔物との遭遇による死別などの理由で、中堅に差し掛かる頃にはそれらのパーティの大半は解散し、互いに新たな道を模索することになる。
そういった頃合いに出てくるのが、第三のパターンである『既にあるパーティの穴を埋める形で潜り込む』『ある目的を達成するまでの期間のみ行動を共にする』といったこれまで培ってきた経験やスキルありきの仲間選びである。こちらに関しては、これまでの二パターンとは異なり性格的な相性云々よりも互いが互いに求める役割をこなすだけ、というビジネスライクな関係が主となる。必然的に実力が近しい、自分に足りない要素を持つ相手と組むことが多くなる為、ここで性格や気質面でも相性の良い相手に巡りあえると冒険者人生を最後までともにする仲間となることが多い。
そして、冒険者として長きに渡り前線を潜り抜けてきた壮年の冒険者達が、第一線を退くことを決意しパーティを抜けたり、パーティごと解散させた後に辿り着くのが、『純粋な実力ではなく、これまで己が培ってきた知識経験を欲している者への支援』である。冒険者として活動を継続するのであれば、右も左もわからぬ期待の新人達のパーティに1人混ざって冒険者としての心構えやノウハウを伝える貴重な導き手に。そして、冒険者そのものを引退した場合でも、冒険者向けの酒場や道具屋として情報や技術を提供したり、ギルドからの信頼が篤ければギルド付きの職員として依頼や魔物討伐における危険度や報酬の相場を決めるのに一役買ったり、新人冒険者への講習などを行う相談役となる場合もある。
その領域にまで達する頃には当然それなりの歳になっているのが普通であり、だからこそ自分自身の衰えに合わせて第一線を退いて若者の指導へという流れになるわけであり、当然マヤリス達が自分やドルカを仲間に誘ったのは自身の足りない部分を補う仲間としての意味合いがあるものだと勘違いしていたのだが。
「極論を言うなら、私はアッシュちゃんとドルカちゃんがこれからずっと今のままの実力だったとしても、末長く一緒に冒険したいと思っている、ということよ。アッシュちゃん達の強さなんて関係ないの。そんなものは私一人でどうとでもなるし、そんなことよりもアッシュちゃんやドルカちゃんがいることでこれからの冒険がどんなに楽しいものになるかの方が大切なの。そもそも、私だってまだ発展途上でまだまだもっと上を目指せる年齢だし、お金だってどうしようも無くなったら適当に無害な香水を作って売れば良いだけだもの。……わかってもらえたかしらぁ?」
「わかんないけどわかった! マーヤちゃんは私やアッシュ君のことが好きでー、ずっと一緒に冒険したいってことでしょ? それなら私もいっしょー! うひょー!」
今まで難しい話だからと一列に並んで四つん這いになり、最後尾の大根が他の大根を飛び石のようにぴょんぴょんと踏んづけて最前列に来たら四つん這いになり、また最後尾になった大根がそれを飛び石のようにぴょんぴょん……と延々とテーブル上をぐるぐるぴょんぴょんと遊んでいるのを眺めてえへらえへらと笑っていたドルカが、持ち前の勘で難しい話の終わりを嗅ぎつけてさも話を聞いてましたと言わんばかりに、本人なりにキリッとした表情を取り繕いながら会話に入ってきた。せっかくのキリっとした表情も『うひょー!』の時点で速攻でいつも通りのアホ丸出しの顔に戻っていた為実質5秒も持たなかったのだが。
ある意味いつも通りのドルカの様子を見て、ついつい笑みが零れてしまったアッシュは、マヤリスに言われた言葉を深く心に刻みつつ、オリビアへと向き直り、自分の率直な思いを言葉にするのであった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
とりあえずここ1週間のバタバタは通りすぎました……!
またほぼ毎日更新するサイクルを作れたらいいんだけど、いかんせん書き溜めるだけの時間と気力がなぁ……
次話の投稿は近日7時の予定です。
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