第五十五話 見ての通りの生粋の武人
「んふふふぅ……! ゴホン、実はだな。わたしは見ての通り生粋の武の家系の生まれでな。とある事情があって家を離れ、冒険者として生きていくこととなったのだが、その事情も相まって良い仲間に巡りあうことも出来ず、気が付けば苦しい暮らしなりにソロのまま魔窟で身を立てられるまでに至ってしまったのだ。……それが、先日ちょっとしたトラブルで多額の借金を抱えてしまうことになってな。」
「それで、オリ……お姉ちゃんも一気に儲ける方法を探していたっていうわけか」
持ち前の怪力で破けないようにとの理由で、上は非常に上質なスパイダーシルクを用いたニットワンピース、下はスパッツのようなパンツで足首までぴちっと覆い隠したその出で立ちに、マヤリスやドルカとは比べ物にならない程の大きさで自己主張をしているふくよかな胸や、鍛え上げられてはいるもののどこか女性らしさを伺わせるしなやかな肢体。どこをどう見れば『見ての通り』武の家系の生まれだと判断できるのかは理解不能だが、万が一そこに突っ込んだことでまたオリビアがえぐえぐと泣き出したら本格的に話が進まないと判断したアッシュは突っ込みたい衝動を堪え、お姉ちゃん呼びも継続しながら相槌を打ち、話を聞いていた。
「そうなのだ。……実は、私も一度ソロで宝石樹の洞窟に潜って一攫千金を狙ったことがあってな。私では、絶えず群がって来る無数の宝石獣共を蹴散らすことは出来ても肝心の果実を採集することは出来なかった。そんな時に同じ魔窟のソロ冒険者であるマヤリスもまた単独で宝石樹の洞窟に潜り、私とは違って宝石獣から逃げ回りながら辛うじて果実を一つ持ち帰ってきたという噂を聞きつけてな。マヤリスがお前達二人に声を掛ける前から私もまたマヤリスに手を組まないかと声を掛けるタイミングを見計らっていたのだ」
「こんなこと言ってるけれど、実際は恥ずかしくて中々声を掛けるタイミングが見つからなまいまま1か月もの間うじうじもじもじ私の様子を伺ってたのよこの子。それが、私がこうしてアッシュちゃん達に声を掛けて仲間に入れてもらったことでこのままだと置いてけぼりにされると思って、それでようやく必死の形相で追いすがってきたっていうのが実際の所よぉ」
「うぇっ!? 気付いてたなら言ってよぉ……! マヤリスちゃんから声かけてよぉ……! ううぅうぅうう……」
マヤリスが全部知った上で自分のことを放置し泳がせていたという衝撃の事実に再び顔を真っ赤にして机に伏せるオリビアに対しすかさずぽんぽんと優しく肩を叩いて慰め始めたドルカを見て、アッシュは珍しくドルカが役に立ったと驚きつつ、このままなんとか良い感じに慰めてもらい、話を進められればとドルカの次の一言に期待を寄せた。
「ねーねー! オリビアお姉ちゃんって長いからリビ姉って呼んでいー?」
「お前何をどうしたらこのタイミングでそんなこと聞けるんだよっ! 馬鹿なの!? いや馬鹿なのは知ってたけどそこまで馬鹿だったの!?」
ついつい全身脱力してしまいそうなほどのマイペースっぷりである。しかし、当のオリビアはリビ姉という響きがいたく気に入った様子で、顔を伏せたまま「りびねえ……りびねぇ……んふふふふぅ!」としばらくの間ぶつぶつと繰り返し炊いたかと思いきやガバッと顔を上げ、先ほどまでの悲壮な表情はどこへやら、再びきらっきらの笑顔とドヤ顔を取り戻して上機嫌で話を続け始めた。
「リビ姉、リビ姉かぁ! んふふふふぅ! ……ゴホン。それでだな、何にせよわたしは、お前達の宝石樹の洞窟攻略作戦に参加させてもらいたくて声を掛けたというわけだ。作戦に欠陥がというのも話に割って入る口実ではあったが、あの時指摘したこと自体は嘘偽りのない事実。作戦自体は決して悪いものではないが、非常事態に備えるという意味でも私のような純粋な前衛は揃えておいた方が良いのではないか?」
提案された内容は非常に理にかなっている内容ではあった。まだ直接戦っている姿を目にしたことはないものの、マヤリスの立ち振る舞いを見る限り、相手の虚を突き毒をバラまくトリッキーなヒット&アウェーに特化していることはほぼ間違いない。だからこそ、単独で宝石獣達を煙に巻き宝石樹の洞窟に潜入、果実を採って帰って来ることができたのだ。
しかし、流石のマヤリスとはいえど絶えず向かって来る無数の宝石獣達を相手にしながら果実を採集することは不可能に近い。そこで、アッシュとドルカが大根達を活用して囮となる作戦が立てられたわけで、それなのに、単独で宝石獣達を蹴散らせるだけの力を持ったオリビアが前衛として仲間に加わるということは……。
「……アッシュちゃん。この話、受けなさい」
「……っ!」
心を見透かされたかのようなマヤリスのその言葉に、アッシュは思わずマヤリスの方へ顔を向ける。
「貴方が今抱いた不安、大方の察しはついてるわぁ。……だからこそ敢えて言わせて貰うわね。アッシュちゃん、貴方舐め過ぎよ。私たちのことも、アッシュちゃん自身のことも、ね」
そのマヤリスの言葉は、あまりにも予想外で。アッシュはその真意を量り切れず固まってしまうのであった。
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