第五十四話 オリビアお姉ちゃん最強説
久々の連日投稿です……!
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「正直に言おう。わたしはお前達の仲間に入れて欲しいと思って近づいたのは事実だ。そして、それにはちゃんとした理由があるのだ」
再び蹲ること数分間、耳がほんのりピンクなままキリッと表情だけ取り繕ったオリビアは、いそいそと立ち上がったかと思えばちゃっかり椅子に座り、何事も無かったかのように話し始めた。
「結局説明する時はそのノリになるんですね、オリビアさん……」
さっきまで散々恥ずかしがって蹲ったり「うううぅううぅう」と呻き声を上げたりしていたオリビアが、そんなことは無かったと言わんばかりの勢いで表情を取り繕い凛々しい口調で話し始めたのを見て、アッシュはぽろっと本音を漏らした。
「アッ君! わたしのことはお姉ちゃんって呼んでってばぁっ!」
「お前どっちなんだよもう!」
「お前じゃなくて『お姉ちゃん』! もうアッ君がお姉ちゃんって呼んでくれなきゃ続き話さないっ!」
本人的には凛々しい口調の時もお姉ちゃん風を吹かせた口調の時も違和感なくころころとスイッチできる様子なのだが、目の前でくるくると表情や雰囲気を一変されながら何事も無かったかのように会話を進められているアッシュからしたらたまったものではない。
「アッシュ君、オリビアお姉ちゃんがそう言ってるんだからアッシュ君も呼んであげなよー! ねーお姉ちゃん?」
「そうよアッシュちゃん、呼んであげるだけでいいんだから呼んであげたらいいじゃない」
「お前ら他人事だからって好き勝手言いやがってっ!」
何故初対面の女性をお姉ちゃんと呼ばなければいけないのか。呼ぶ側の気持ちにもなって欲しい。正直な話、黙ってすまし顔でいればドルカもマヤリスも、そしてオリビアもとんでもない美人揃いなのである。ドルカは無防備であどけなさを残した、好奇心いっぱいの明るい美少女。マヤリスは貴族の令嬢ばりの気品と蠱惑な微笑を湛えた掴み処の無い美女。そしてオリビアはマヤリスとはまた違う、高潔さと凛々しさを兼ね備えた美女である。
気高く勇ましい顔つきの一方で、女性らしい柔らかなフォルムの肢体はまるで美の彫刻のような絶妙なバランスの美しさを体現しているその女性を前に、この流れでどんな顔をしてお姉ちゃん等と呼べばいいのだろうか。
いつ呼んでくれるのかとそわそわもじもじとこちらの様子を伺っているオリビアは、はっきり言って直視したら赤面してしまいそうなほどの破壊力を秘めている。思わず顔を赤らめてしまったアッシュに対し、まさに愉悦と言った表情を浮かべたマヤリスが追い打ちを仕掛けてくる。
「あらぁ、アッシュちゃんどうしたのぉ? 顔まで真っ赤にしちゃってぇ……。もしかして恥ずかしいのぉ?」
「アッ君、わたしのことお姉ちゃんって呼んでくれないの……?」
茶々を入れたマヤリスの言葉を聞いてうるうると目を潤ませたオリビアが、上目遣いでアッシュを見つめる。
「いや、その、何と言いますか……。その、この流れでそう呼ぶのはちょっと、いやかなり恥ずかしいと言いますか……」
「なんでぇ? 何が恥ずかしいのぉ? ほらぁ、マヤリスお姉ちゃんに言って御覧なさぁい」
「私にも! ドルカお姉ちゃんって言って言ってー!」
ここぞとばかりに畳みかけてくるマヤリスに、これは一大イベントの予感と何かを嗅ぎつけたドルカまでもが便乗し始める。
「マヤリスはともかくドルカは年下だろうが! なんでドルカまでお姉ちゃん呼びを要求してきやがる!」
「えー? お姉ちゃんって呼んでくれたらいいこいいこしてあげるよー? ほら、アッシュ君はいいこいいこー! アッシュ君は頑張り屋さんのいいこー!」
「それ良いわね。私もマヤリスお姉ちゃんって呼んでくれたらアッシュちゃんのこといーっぱい甘やかしてあげる。そんな風に呼んでくれたら私、何でもしてあげちゃうわよぉ……?」
アッシュの背中に飛び乗り両手で頭をぐちゃぐちゃに撫で回し始めたドルカをやめさせようと伸ばしたその手をマヤリスが取り、アッシュの人差し指を自分の唇に這わせる。
マヤリスのつやつやの唇に触れた人差し指、そしてドルカの柔らかなさ温もりを感じる背中と頭。ただでさえ混沌とした状況で冷静な思考が吹っ飛んでしまいそうな感触に襲われ、アッシュはもう頭がどうにかなってしまいそうだった。
一応大根達も喋れないなりにわちゃわちゃとアッシュの膝の上に乗ったりアッシュの前でぴょんぴょんと代わるがわる何やら自己アピールし始めていたのだが、もはやそこに突っ込む気力は無かった。
「あぁもうわかったよ! 言うよ! 言うから一旦離れろ! 離れてくれよぉ!」
その言葉を聞いた瞬間にドルカとマヤリスが一瞬で手を引き、椅子ごと正面に回り込んで3人揃って両手を膝の上に置き、そわそわし始める。
「その、オリビア、お姉ちゃん……。なんで俺達の仲間になりたいと思ったんですか……? マヤリス、お姉ちゃんもいつも色々教えてくれて感謝して、ます。ドルカお姉ちゃんはちょっと黙ってような」
恥ずかしさに顔を横にそむけ、耳が赤い状態でそれぞれをお姉ちゃん呼びしたアッシュに対し、マヤリスは恍惚とした笑みを浮かべながらうっすらと目を細め、「こういうのも意外と悪くないわね……」と呟き、ドルカは雑な扱いをされたことにも気付かず「えへへへー! お姉ちゃん! 私がお姉ちゃん!」と大根達を抱きしめながらくねくねと踊り始める。
――そして、肝心のオリビアはというと。
「……んふ。んふふふ、んふふふふふぅ! しょうがないなぁアッ君はっ! お姉ちゃんが教えてあげるぅ! わたしね、わたしはねぇ……!」
キリッとした表情を保とうとなんとか口を一文字にきゅっと結んだまま、むふーむふーと荒い鼻息を繰り返し、それでも耐え切れずに歪んだ口の隙間から息が漏れ出ている。
そして、オリビアは言った。
「お金が無くなってどうしようもなくなったんですぅ! お願い! お願いだから仲間に入れてくだしゃい! 一人はもう嫌なんですぅっ!」
「ここに来てまた新たな一面見せるのかよ! お前のキャラどうなってるんだよっ!」
頭をテーブルに叩きつける勢いでへこへこと頭を下げえぐえぐ泣き出したオリビアに対し本日一番の勢いで突っ込みを入れたアッシュであったが、オリビアはそんなアッシュに対しガバッと顔を上げたかと思うと、ジトっとした目で見つめながらこう呟いた。
「『お前』じゃなくて『お姉ちゃん』でしょ?」
「あぁーめんどくせぇ! ほんとおまっ……お姉ちゃんのテンションどうなってんだよ!?」
再び『お前』と言いかけた所でオリビアのジトっとした目が潤み始めたのを見て慌てて『お姉ちゃん』に軌道修正したのを見て、マヤリスが翡翠色の瞳を細めながら、隣に座るドルカに対してひそひそと囁いた。
「見てみてドルカちゃん! 珍しいことにアッシュちゃんが折れたわぁ」
「おー! なんだかよくわからないけどいつもと違ってなんだかアッシュ君がかわいい! 普段は『ズバッ!』って感じでなんだかかっこいいアッシュ君が今日はかわいいねマーヤちゃん!」
「これ以上話を混ぜっ返すんじゃない!」
すっかりペースを握られて『お姉ちゃん』呼びをさせられているアッシュにマヤリスとドルカが珍しいものを見たかのような目で囁き合っていることが恥ずかしくてしょうがないアッシュではあったが、その『お姉ちゃん』呼びをされたオリビア本人的にはもうすっかりと機嫌を直し、続きを話してもいいかなぁと思うに至ったらしい。
終始マイペースなドルカやどんな時でも気品を絶やさず微笑を浮かべているマヤリスとは違うオリビアの感情の起伏の激しさに、アッシュはこれまでの二人とは全く異なるやりにくさを感じるのであった。
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次話の投稿は『明日』7時の予定です。
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