機械犬と黄金のタコ
「またこれか。問題を解かなければ俺の願いは叶えられず、ってとこか…」
『ブレイク・ザ・デスティニー』の文字が消え、突然目の前が真っ暗になる。
「おい!なんだよ、これ。何も見えないぞ」
何も聞こえない。
「おい。いるんだろ?俺は何をすればいいんだ!?」
次第に目の前が明るくなり始めた。気が付くと、涼吾は四角い部屋の中にいた。
「どこだよ、ここ…」
部屋は出口のない六畳ほどの四角い部屋で、部屋の中心には机がある。その机の上には箱があり、文字を入力する機械が取り付けられている。
「なるほど、ここに何かを入力しろってことか。でも、ただ部屋に運ばれて、出ることもできないし、何をしろってんだ…」
考えていると、壁に掛かった大きな時計が目に入った。
カチ、カチ、カチ
「まさか!」
十二時十分から時計の針は逆回転しており、長針は一秒ずつ巻き戻っている。
「これが今回のタイムリミットか。十二時になる前に抜けださないとな」
しかし、この部屋には机に箱、大きな時計、そして絵画しかない。壁には時計以外何もない。床にも天井にも何もない。
「と、なるとこの絵画が怪しいな」
絵画は、四角い部屋の中に机とその上に箱が置いてある絵だ。そして、壁には大きな時計が描かれている。
「これって…この部屋だよな。この部屋の外は闇ってことか」
絵画の部屋にも扉や窓は一切ないが、絵画の隅に描かれている部屋の外は黒一色になっている。
「不気味だな。この部屋にいるのに、この部屋の絵画を見ているなんて」
長針は刻々と巻き戻る。
「あ、やべ!時間忘れてた。あと八分か。ノーヒントはキツイな…」深く考え込む。
「確か、問題は俺の望むことが答えになってるって言ってたよな。俺が望むこと……いったい俺が何を望んだって言うんだ。だめだ、現実から目を逸らしても何も変わらない。考えろ。さっきは目の前で黄金のタコが犬に襲われていて……そういえば、あのタコ、俺が異世界に飛ばされる前に見たタコなんじゃないのか?だとしたら、俺はあのタコを助けようとしたってことなのか…」
時計は五分を切る。
「あのタコはいったい何なんだ?真実を確かめるためにはあのタコを助けるしかないのかもしれない。信じられないが、タコを襲っていたのはただの犬じゃなかった。見た限り、機械犬ってところか…」
ふと、絵画に目を向けるとあることに気が付いた。
「俺が望むこと、今必要としていること。っ!?この絵画変だ!この絵画だけじゃない、この部屋そのものがおかしい」
部屋を見渡す。
「やっぱり、おかしい。この絵画だと、外は闇が広がっている。ってことは、この部屋の外も暗闇のはずだよな。この部屋には窓もないし、天井には電球や蛍光灯の類もない。にもかかわらず、何でこの部屋は明るいんだ。もし、俺の意識とこの部屋がリンクしているとしたら、俺が必要としているものはこの部屋に必要とされるものなのか……」
カチ、カチ、カチ、カチ
針は十二時二分を指している。
「取り敢えず、入力してみるか」
涼吾は箱に取り付けられた機械に『ヒカリ』、と入力した。
しかし、箱は微動だにしない。
「答えが違うのか?」
時計の針は十二時一分を切ろうとしている。
「でも、答えが光だとして、それでなんの打開策になるんだ?あの状況で必要なのは光じゃないだろう……機械犬からタコを助けるために必要なのはなんだ」
カチ、カチ、カチ、カチ
「機械犬!?ありがちだけど、異世界ならありえるかもな。何もしないよりマシだ」
涼吾は再び、入力し始めた。『デンキ』
カチャ
箱が開いた。中には何も入っていない。
「おい!答えはあっているんだろ!どうして出られないんだ!?」
意識の化身から返事はない。
「クソ!もう十秒もないぞ!」
涼吾が振り向くと、壁には今までなかった扉があった。涼吾は咄嗟に扉を開け、暗闇へ飛び出した。すると扉は消え、その部屋も消失した。
「ククク…危なかったな」
「あ、お前、散々シカトきめやがって」
「運命を変えるのはお前自身だ。私はお前の望む力を貸してやることしか出来ない」
「なぁ、なんでお前は力を貸してくれるんだ?」
「言っただろ、私はお前の意識の化身、つまりお前自身だ。お前は、私というもう一人の自分を使役しているに過ぎないのだよ」
「今ひとつ理解に苦しむけど、今回も力を貸してくれるんだろ?」
「ああ、お前がそう望んだからな」
「じゃあ、今すぐに戻してくれ。そして、俺の望んだ答えであのタコを救ってくれ」
「その願い聞き受けた。決められた運命を打ち砕け!」
目の前が白い光に包まれ、涼吾の意識は現実世界に戻された。
「はっ!?」
「ねぇ、涼吾、なんかいきなり黒い雲が出てきたよ」
「えっ!?」
機械犬の上に黒い雲が浮かんでいる。
ガルルゥ、ガルルゥ、シャッ!
二匹の機械犬が一斉にタコに飛びかかった。
その時!