異世界の洗礼
「不思議な体験が初めてじゃないって、どういうことよ?」
「やっぱ、お前は気付いていなかったんだよな…」
「何が?」
「昨日の事故のことだよ」
「昨日の事故って、トラックがガードレールに突っ込んだ事故のこと?」
「ああ、お前は放心状態だったけど、事故が起こった時何をしていたか覚えているか?」
「え…?そう言えば、なんか記憶が飛んでるような気もするけど…」
「あの時、お前死んでたんだよ」
「はっ!?何言ってんのよ、あんた。私はここにいるじゃない」
「語弊があったかもな。あの時、何もしなかったらお前は死んでいたんだよ。本当はお前、事故が起きた時、交差点を渡ってたんだからな」
「本当は?何があったの?教えてよ!」
涼吾は、交通事故の時に起きた出来事や意識の化身について話した。
「信じ難い話ね」
「だろうな。信じてくれとは言わねーよ」
「信じるよ」
「なんで?」
「事故の直前の記憶が曖昧だっていうのもあるし、あんたに助けられたことは何回もあるからね。それに、今の状況を見ればもう何が起こっても不思議じゃないかもしれない、って思って」沙知は背伸びをしながら言う。
「そうだな。これが夢じゃ無けりゃな」
「一回寝てみる?夢かもよ」
「それもありだけど、目の前の事実から目を逸らしても何も変わらないしな」
「……ねぇ、何か音がしない?」
「音?」耳を澄ますと、何やら複数の足跡のようなものが聞こえる。
「お、おい。なんか、向こうから何か来るぞ!」
「逃げた方がいいんじゃない?」
音はどんどん大きくなる。
「何あれ?犬?」
「いや、普通の犬じゃない。とにかく、そこの岩場に隠れるぞ」涼吾と沙知は一旦、近くにあった岩場に隠れた。
ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ
大きな音を立てて二匹の犬が走って来る。その犬の前には、黄金色のタコが走っている。岩場の前で一匹の犬がタコの前に躍り出た。黄金のタコは犬に挟まれて、追い詰められている。
「りょ、涼吾、私たちは今何を見ているの?何、あの犬…普通の犬じゃない」
「ああ、悪い夢だったらいますぐに冷めて欲しいぜ」
『助けて』何かが涼吾の頭に語りかけてくる。その瞬間、涼吾の意識は暗闇に引き込まれた。
「ククク…まーた、お前は来たのか」
気付くと、意識の化身が道化師の格好で目の前にいる。
「相変わらず趣味の悪い格好をしてるな。今度はなんなんだよ」
「それは私の台詞だ。私に何の用だ?」
「用だと?呼んだのはお前じゃないのか?」
「私は、お前の意識そのもの。私からお前を呼ぶことなどない」
「どういうことだ?じゃあ、何で俺はここに…」
「それは、お前が私の力を必要としているからだ」
「そんなはずはない。お前を呼んでまで変えたい運命などない」
「本当にそうかな?お前の深層心理では私の力を必要としているんだよ」
「深層心理だと?俺が無意識にお前の力を必要としたから、ここにいるっていうのか?」
「それはお前の力で示せ」
『ブレイク・ザ・デスティニー』