大機械都市『ラギオン』奪還編9
「リーブル、お前は最後に登って来てくれ。万が一にも落ちた時、クッションになるからな」
「涼吾はすぐ僕を使うんだから」
「感謝はしてるさ。ただ、俺らはあくまでも異世界人だし、それも無能力のな」
「涼吾には能力があるじゃないか」
「あれは本当に奥の手だよ。むやみに使っても良いことはない。それに俺だってリスクを負っているんだ。お前らには一瞬でも、俺にとっては一生になるかもしれないんだからな…」
「そうだったんだね。悪かったよ」
「とりあえず登るぞ。沙知、下は見るなよ。お前、高いところ苦手だろ?」
「あ、そうだった…」
「僕が下にいるから安心してよ」
「スカート覗かないでよ!?」
「誰がお前のパンツなんて見るかよ。な?リーブル」
「あんた、後で覚えときなさいよ。メッタメタにしてやるんだから」
「ああ、ほんと後にしてくれ。こんな所でいつまでも止まってられないからな」
涼吾たちは梯子を登り始める。
「水が入ってただけあって、滑りやすくなってる。しっかり掴めよ」
「うん。わかってる」
梯子を登り続けると、踊り場のような場所に辿り着いた。
「なんとか、踊り場に出たな」
「え、本当?」
「ああ、俺が引っ張り上げてやるから手を伸ばせ」
手を伸ばした瞬間、沙知は手を滑らせた。
「きゃああ」
ガシッ!
「バカ野郎。最後まで気を抜くな!」
涼吾は沙知の手首をしっかりと掴んでおり、引っ張り上げる。
「ご、ごめん」
「心配させやがって。リーブルも無事か?」
「ああ、僕は大丈夫だよ」
リーブルはヌルっと踊り場へ上がって来た。
「きもっ!なんだお前。今どっから上がって来た?」
「ひどいな涼吾!僕は人間みたいに一段一段なんて登らないよ。梯子の側面を登って来たんだ」
「わりぃ。あまりにも異質だったから…」
「涼吾、松明貸して」沙知は松明を取り、周りを照らした。
「これ、扉じゃない?ノブもあるし」
「本当だ。開くか?」
ガチャガチャ
「ううん、開かないみたい」
「…………」
「どうしたの?」
「いや、こんな所に扉があるなんておかしくないか?」
「なんで?」
「だって、このタンクにはまだ上がある。大量の水が入ってたんならこんな所に扉なんて作っても仕方ないだろ」
「建設の段階で使ったんじゃないの?」
「あり得なくはないけど、ここは異世界だし、それにここだけに扉を作ったって意味ないだろ?」
「確かに、結構登ったけど踊り場なんて初めて見たよね」
「ここまで水は入らないとかじゃないかな?」
「それはない。沙知が手を滑らせたのは、梯子が濡れていたからだろ?だとしたら、あのデカブツが壁を破壊するまでこの位置にも水はあったはずだ」
「そっか、僕の足は常に濡れてるから気づかなかったよ」
「あ、そこも俺らの世界と一緒なのな。気持ち悪」
「涼吾、いい加減にしないさいよ。私たち何回もリーブルに助けられてるでしょ!?」
「わかってる。冗談だよ」
「ありがとう、沙知。君は優しいね」
「涼吾が意地悪なだけよ」
「ところでどうする?上もまだあるようだけど」
「この扉が開かないようじゃ、他に道は登るしかない」
「僕が少し見てくるよ。上が繋がってるかわからないからね」
「頼む、リーブル」
リーブルはヌルヌルと階段を登って行く。
「ねぇ、涼吾」
「なんだ?」
「現実世界はどうなってるんだろう…」
「俺たちが居なくなったわけだから、問題にはなっていると思うがな」
「このまま帰れなくて、私たち忘れられちゃったりするのかな…」
「そうはさせねーよ。琴音を助けて、リーブルの国を救う。そしたら、リーブルに現実世界との扉を開かせてさっさと離脱する!」
「もう、そんな簡単に言わないでよ。いつもそうなんだから」
「でも、なんとかなってるだろ?」
「うん。信じてる」
すると、リーブルが降りて来た。
「涼吾、沙知、この上は行き止まりだったよ」
「そうか。まぁ、正規ルートじゃないだろうからな」
「どうやってこの扉を開けるんだい?」
「なぁ、リーブル、子の扉すり抜けられたりしないか?」
「涼吾…流石にそんなことはできないよ。どうしたんだい?涼吾らしくないじゃないか、能力を使いたくないんだろう?」
「それは…」
「私も行くよ!」
「え?」
「涼吾にばっかり危険なことはさせられない。私も涼吾の意識の世界に行く!」
「んなことできないだろ」
「やってみないとわからないじゃない。私も涼吾の意識の世界に行きたい、って願ってみる」
「やめろ。仮に行けたとして、お前にできることはない。危険だ!」
「あんただって同じでしょ!自分ばっか犠牲にして、いつも私は守られる方!私だって涼吾のためになりたいよ…」
「気持ちだけで充分だ。俺を信じてるならここで待っててくれ」
「でも…」
「分かってるよ、お前の気持ち。でも、これは俺に与えられた試練なんだ。俺の力で自分の運命を切り開く」
「君のだけの運命じゃないよ。わたしとリーブルと涼吾、三人の運命なんだよ。私たちがいることを忘れないでね」
「ああ、行ってくる」涼吾は目を閉じ、意識の世界に飛び込む。
「ククク…ようやくか」
「なんだ、俺を待ってたのか?」
「違うな。私はお前だ。お前はできるだけ私の力を使わないように抑制していた。そして、漸くどうにもならない状態が目の前に現れたんだよ。お前は謎を解きたいのだろう?」
「馬鹿を言うな!俺が戻れるか否かがかかっているこの謎解きを楽しんでるとでも言いたいのか!?」
「どうだろうな?私はお前の意識の化身、お前の無意識まで把握はしていない。ただ、深層心理で常に自分の意識とは異なることを考えている、ということを肝に命じておくがいい」
「お前は何を知っているんだ?」
「お前は私と話をしに来たのか?」
「違う」
「そうだろう。では、本題に入ろうか」
意識の化身は姿を消した。




