大機械都市『ラギオン』奪還編5
意識の世界での出来事は、現実世界の一瞬でしかない。目を開けると、一体の機械兵が飛びかかって来るところだった。
「涼吾!どうするんだ!?」
「くそぉ!」涼吾は襲いかかってきた機械兵を殴ろうとした。すると、涼吾の手は機械兵の身体を貫通する。
「なんだこれ!?」驚く涼吾の手に、何か固いものが当たる。涼吾はその固いものを掴み、手を引き抜いた。
「これって…」
「それ、チップじゃないか?」
涼吾の手には四角い塊がある。
「そうか。俺は盗人を捕まえたから奪うことができたんだ」
チップを取られた機械兵は動かなくなった。
「よし!」涼吾は残りの機械兵からチップを奪い去り、機械兵を行動不能にした。
「やったね、涼吾!すごいや!」
「あんた、今度はどんな謎解きをして来たの?」
「窃盗犯を捕まえて来たんだよ。俺はこいつらからチップを奪えないか、って考えていたんだ。だいぶコツも掴んだし、望めば意識の世界に行けるのかもしれない」
「なるほど。それで君は盗人スキルを手に入れたわけだ!」
「人を犯罪者みたいに言うな。この世界に法律なんてないだろ?」
「あんた、その発言が既に犯罪者みたいよ」
「まぁまぁ、結果的にはこうして機械兵も退けたし、チップも手に入れた。早くここから移動しようじゃないか」
「それもそうだな。ほら、沙知。このチップ持っておけ。リーブルもな」
「ありがとう。さっきは少しヘマをしたよ。機械兵に接触してしまったからね」
「そうだったのか。やっぱり、無駄な戦闘は避けたほうがいいな」
「そうだね。じゃあ、機械城に行こうか」
涼吾たちは工業地区に入り、機械城を目指す。
「うるさいわね、ここ」
「まぁ、工業地区だからな」
「商業地区から行けばよかったんじゃない?」
「いや、工業地区の方がバレる確率は低い。騒音がすごいから音なんかでバレることはないし、商売なんかと違って人と関わることもあんまりないからな」
「そうかもしれないけど、油の匂いもするし、早く通り過ぎたいわね」
「城への一本道を通ってもいいんだぞ?」
「そんなことできるわけないでしょ。すぐに見つかるじゃない」
「そうでもないんじゃないかな?」
「リーブルは俺の考えがわかるんだな?」
「そうだね。さっき手に入れたチップ、涼吾はあれを試したいんだろう?」
「ああ、もしそれで敵だと判断されないのならわざわざ隠れる必要もなくなるからな」
涼吾たちが機械城を目指して工業地区を歩いていると、工場からこちらを見る機械兵と目が合った。
「お前ら、止まれ。機械兵がこっちを見てる」
「嘘!?見つかったの?」
「丁度いい機会だ、試してみよう」
涼吾は工場の中に入る。その間も機械兵は涼吾から目を離さない。
「…………」涼吾は固唾を呑む。
「ドウシタノ1365?ナニカアッタ?」
「…………」
「ハカセガシンニュウシャイル、イッテタ。キヲツケテ。ミツケタラハカセニホウコクワスレズニ。」
「あ、ああ」
涼吾は工場から、後ずさりしながら出て行く。
「どうやら、成功だな。やはり、あいつらはこのチップで判断してる。これなら、真ん中の道を通ってもバレないかもしれない」
「そうだね。でも、油断は大敵さ。慎重に行こう!」
涼吾たちは工業地区から真ん中の一本道へ抜け、機械城へ真っ直ぐと進む。
「ねぇ、涼吾。もしも、その狂った研究者に琴音ちゃんが捕まってたらどうしよう」
「今は無事でいることを祈るしかない」
「うん。そうだよね。狂った研究者だろうがなんだろうが、絶対に助けないと!」
「ああ、勿論だ」
「そういえば、リーブルはその研究者について何か知らないの?」
「うん。他の国の情報はあまり届かないんだ。特に『ラギオン』はセキュリティが厳重だから、侵入して情報を得るなんてことできないよ」
「そっかぁ…涼吾はどう思う?」
「さぁな。一つ言えることは、その狂った研究者が元々はこの世界の住人じゃなかった可能性が高いってことかな。もっと言うなら、そいつ自身人間の可能性が高い」
「え!?なんでよ?」
「その研究者が機械兵に『人間』を教えたなら、そもそも自分が『人間』という存在を知らなくちゃならない。しかし、この世界じゃ『人間』は概念であって、ほぼ認知されていない。だとしたら、『人間』という存在を見たことあるやつしか教えることはできないだろ?」
「うん、そうかも」
「だとしたら、その研究者自身が『人間』である可能性は高い。そして、そいつも元は俺たちと同じ次元に存在していたやつだった、ってことだ」
「だとしたら、なんでその人はこんなことをしているのよ」
「そこまではわからない。それにそいつが人間、ってのも憶測でしかないからな」
憶測を交わしていると、機械城の前まで来た。
「また、門か…」
「ねぇ、涼吾、そこにテンキーみたいのがあるよ」
「数字を打ち込まないと入れないってことか」
「わかるの?」
「いや、何かヒントがあるはずなんだ」
「取り敢えず、押してみたら?」沙知はボタンを押そうとする。
「馬鹿、よせ!」涼吾は沙知を止める。
「お前、これが罠だったらどうするんだよ!俺たちに戦う術はない。慎重に行動しろ」
「ごめん…」
「大丈夫だ。番号はわかったから」
「え?本当?」
「ああ、さっき工業地区の工場で機械兵が言ってたことを思い出したら、簡単だったよ。俺はその機械兵に1365って呼ばれた。つまり、このチップには番号が振られているんだ。それを認識して、あいつらは番号で呼び合ってるはずだ。つまり、この門を開ける番号は、それぞれの機械兵に与えられたチップの番号ってことだ」
涼吾は、恐る恐る1365と押す。
「チップニンシキチュウ」どこからか声が聞こえる。
「ニンシキシマシタ。1365バン、ハイッテクダサイ」
門が開く。
涼吾と一緒に沙知とリーブルも門を抜ける。
「1366バン、1367バンニンシキシマシタ」
涼吾たちは機械城へ侵入し、琴音奪還へ大きな一歩を踏み出す。




