大機械都市『ラギオン』奪還編3
「わぁ、大きい」沙知は『ラギオン』大きさに圧倒されるように上を見上げている。
入り口から伸びる一本道は、『ラギオン』の中でも一際目立つ城に続いていた。その道で分けるように、入り口から見て右側には工場やら鍛冶屋などが並び、左側にはショップのようなものが並んでいる。
「右側は工業地帯で左側が商業地帯ってとこか」
「どうやら、無事に潜入できたみたいだね」
「だが、俺たちが見つかるのも時間の問題だろう」
「え、なんで?」
「沙知、俺らの格好を見てみろよ。この異世界にこんな服着たやつがいると思うか?」
「あ、そっか」
「まずはここにいてもおかしくないような格好を手に入れないとな」
「僕はさっきみたいに成分を変えれば、大丈夫だよ」
「え、リーブルだけずるいよ」
その時、工場の騒音の中に機械音と話し声が聞こえた。
「おい、隠れるぞ!」涼吾たちは、すぐそばの建物に隠れた。
見回り兵と思われる機械兵が話しながら歩いてくる。
「ココモイジョウナシダナ」
「ソレニシテモ、アノニンゲンドコヘイッタ」
「オレ、ニンゲンハジメテミタ」
「ハカセイッテタ、アレニンゲン。チップナイノニンゲン」
見回り兵は通り過ぎて行った。
「危なかったね」
「………」
「涼吾?」
「今あいつら、あの人間、どこへ行った、って言ってたよな?」
「うん」
「俺たちはまだ見つかっていないはずだから、あの人間ていうのは琴音のことかもしれない」
「じゃあ!」
「ああ、まだ琴音は無事かもしれない。認知はされているようだけど、うまく逃げ延びているようだ」
「じゃあ、はやく助けに行かなくちゃ」
「落ち着けよ、沙知。言ったろ、こんな格好で出て行ったら俺たちが逃げ回るはめになるぞ」
「じゃあ、どうするのよ」
「あいつらは最後に重要な情報を落としていった」
「重要な情報?」
「ああ、あいつら最後に、チップないのは人間、って言ってた。それにここの機械兵は人間というものをみたことがないらしい。つまり、格好や容姿だけでの判断は容易ではないってことだ。で、あいつらは最終手段としてチップとやらを持っていないのを人間、または敵だと判断しているのかもしれない」
「じゃあ、そのチップがあればいいのね」
「それだけでどうにかなるとは思えないが、有利には進められるはずだ。リーブル」
「なんだい?」
「商業地区でチップらしきものが売っていないか、見てきてくれないか?」
「いいよ」
「でも、涼吾、あんたお金持ってるの?」
「あ…お金の概念忘れてた。この世界に通貨なんてものは存在するのか?」
「その通貨というものかはわからないけど、デリカならあるよ」
「デリカ?」
「うん。これだよ」
「なんだ、この三角形の塊は」
「これがデリカだよ。物を取引するのに使うんだ」
「私たちの世界で言う、お金かしら?」
「たぶんそうなんじゃないかな。これは1デリカだよ。銅が1デリカ。銀が10デリカ。金が100デリカに当たるんだ」
「じゃあ、それは大した価値にはならないんじゃないか?」
「そうでもないよ。たしかにこの世界で言うと一番低い価値だけど、大機械都市『ラギオン』は他の国よりもレートが低いって聞いたことがある。僕も中に入るのは初めてだから、確証があるわけではないけどね」
「なるほどな。で、お前はそれをどこで手に入れたんだ?」
「さっき、涼吾が倒した機械犬たちが落としたんだよ」
「そうだったんだね」
「沙知、納得すんな。こいつはただネコババをしただけだぞ」
「誤解だよ、涼吾。言うのを忘れてたんだ。君たちにとってはガラクタにしか見えないだろう?だから僕が拾っておいたんだよ」
「まぁ、いい。とにかく見てきてくれ」
「わかったよ」
リーブルは身体に力を入れ始めた。リーブルの身体の成分は鉄に変わり、色も灰色になる。
「じゃあ、行ってくるよ」
リーブルは商業地区の方へ向かって行った。
「リーブル大丈夫かな?」
「たぶんな。この都市では、ジェネラルウルフなんかもそうだけど、いろいろな生物が機械化されているんだと思う。つまり、捕獲部隊が外で捕まえてきたものを機械化するわけだから、機械化されたタコがいても不思議ではない」
「生物多様性だね」
「難しい言葉知ってるな」
「馬鹿にしないでよ。私は努力派なの。地頭がわるいだけなの。もう、涼吾なんて嫌い」
「わりぃわりぃ。まぁ、なんだ、この都市の機械兵は『ラギオン』の外の世界については恐らく知らない。外に出たことがあるのは、あの捕獲部隊あたりしかいないだろう。だから、容姿だけで敵だと判断される可能性は低いかもな」
「よかった」
「それよりも琴音の方が心配だ。今の見回り兵みたいに、おそらく他の兵もこの都市を隈なく探している。俺たちもそうだけど、琴音が見つかるのも時間の問題だ」
「そうだね…琴音ちゃん」
工場は大きな音を立てて稼働している。工業区では煙のようなものが至る所から出ている。
すると、遠くの方から砂煙を立てて何かが近づいてくる。
「ん?なんだあれ?」
「リーブルじゃない?」
「なんか、猛スピードで近づいてこないか?」
「そうだね…」
リーブルは猛スピードで涼吾たちの方へ向かってくる。
「おい、なんか後ろに機械兵いないか?」
「いるね、これ逃げた方がいいよね?」
「そ、そうだな」
涼吾と沙知は一斉に駆け出す。
「逃げ出したはいいけど、どうするんだ?」
「僕にはわからないよ」
「わからないって、お前が……………」
「やぁ!」
「お前、なんでもういんの!?」
「僕の速度と人間の速度なんて比にならないよ」
涼吾たちはあっという間に機械兵に囲まれてしまった。
「オマエタチ、ダレダ」
「カクニンスル……」
一体の機械兵が涼吾たちを観察する。
「コイツラチップナイ、ニンゲンカモシレナイ」
「ばれちゃったようだね」
「お前のせいだろ」
「あ、そうだ、さっき僕を助けてくれたようにまた雷出せないの?」
「ふざけるな。あんなの何度も出せる代物かはわからない。それに、俺は毎回現実世界に戻れるか否かの瀬戸際で闘っているんだ」
「リーブルはどうにかできないの?さっき雷を吸収してたから、雷属性になるとか…ないよね」
「できないこともないよ」
「え!本当?」
「うん。見せようか?」
「ちょっと待て。こんなところで雷なんか出したら、他の機械兵に見つかるだろ。それに、こいつらには利用価値がある。俺に任せてくれ」
涼吾は目を閉じ、強く念じる。目の前に白い光が広がり、意識の世界に誘われる。
「ククク…望みはなんだ?」
「よう。お前の力を借りに来た。望みなんてわかってるんだろう?お前は俺自身なんだからな」
「いいだろう。私はお前の望むことを達成させるための手段を与えるだけだ。この窮地、脱してみろ」
意識の化身は消え、目の前にはあの文字が現れた。
『ブレイク・ザ・デスティニー』




