定められた運命
俺は誰が敷いたレールの上を走るつもりはない。そして、これからも俺は自分の道は自分で切り開く。
「ふぁー、今日もいい天気だな」屋上で寝ていると、いつものようにあいつがやって来た。
「涼吾、また授業サボってこんなとこにいたの?」
うるさいのが来た。こいつは中学からの腐れ縁で、浜辺沙知だ。
「あのさぁ、いちいち呼びに来なくていいから。どうせ、また先生がお呼びなんだろ?」
「分かってるなら、さっとさと行け。たまにしか授業来ないくせに」
「はぁ、面倒だな…」
「かぁ、腹立つわ。なんで、あんたなんかが定期テストでいつも学年一位なのよ!」
「まぁ、一応勉強してるからな」
「だったら授業来なさいよ」
「嫌だね。俺は勉強が嫌いなんじゃない、授業が嫌いなんだ。あんな、箱詰めされた空間でありきたりの授業受けてたって何にもならないさ」
「いつか後悔する日が来るわよ」
「来るだろうね。そん時になったら考えるよ。俺は自由気ままに生きてるだけさ」
「それはあんたの自由だけど、とにかく放課後になったら職員室に行きなさいよ」
「分かったよ。わざわざ、どうも」
「もう、毎回呼びに来る私の身にもなってよね。今度、絶対に駅前のプリン奢ってもらうからね」
「はいはい、また後でな」
放課後になり職員室に行くと、呆れた担任教師が待ち構えていた。
「おい、高屋敷!何回呼び出されれば気が済むんだ!」
「呼んでいるのは、先生ですよ」
「お前なぁ…」
「なんです?」
「俺はお前の能力を認めているんだよ。お前は単に勉強ができる生徒って訳じゃない。今の時代、自分で物事を考えずにただ強いられたことをこなす。そんな若者が多い中で、敢えてその流れに逆らって行くお前のことは嫌いではないんだ。しかし、教師として言わせてもらうと、それと授業に出ないこととは訳が違う。一年の時はテストの出来がいいから単位は取れてるものの、このままじゃ来年の卒業に影響が出るぞ」
「来年になったら最低限出ますよ。それに、たまに授業出てるじゃないですか」
「誇らしげに言うな。お前が授業に来るのなんて5回に一回くらいだろ。舐めすぎだ」
「それは失礼しました」
「とりあえず、反省文書いてこい。お前が反省してないことは分かるが、呆れて物が言えないからと言って何もしないなんていうのは、教師失格だからな。俺はお前が改心してくれるのを諦めんぞ」
「先生の気持ちはありがたく受け取っておきます。では、これで」
「あ、高屋敷君。沙知から授業のプリント貰った?」
「……誰?」
「ひどいよ。確かにまだ二年生になってから二ヶ月しか経ってないけど、顔くらい覚えて欲しい…」
「ごめん。今覚えるから名前教えて」
「私は木崎琴音よ」
「木崎さんね。覚えたわ」
「本当にわからなかったの?沙知以外で分かる人いる?」
「……木崎さん」
「それは今教えたからでしょ!」
「じゃあ、いない」
「男子の友達もいないの?」
「俺に友達なんてできると思うか?」
「思わないわ。そんな感じじゃ、この先もずっと一人だよ?」
「そうだな。仕方ないかもね」
「仕方なくなんてないわ。高屋敷君がちょっと心を開いただけで全然変わると思うけど」
「助言どうも。沙知が待ってるから行くわ」
「うん。またね。次会ったら、ちゃんと私の名前言ってよね」
「分かったよ。えーっと……」
「木崎琴音!」
「そうそう、木崎さんだ。またね」
外に出ると校門で沙知が待っていた。
「遅い!何してたのよ?」
「説教されてたんだよ。分かるだろ」
「今日はどんな怒られ方したの?」
「まぁ、先生も怒る気すら起きてなかったようだけど」
「そうでしょうね。あんたのおかげで先生も余計な仕事が増えて気の毒だわ」
「それに関しては正論すぎて、ぐうの音も出ないな」
「まったく、あんたは口だけなんだから。分かってるなら先生の気持ちにもなって授業に出たらどうなのよ」
「何度も言わせんなよ。授業なんて出るつもりはないね」
二人は大通りの交差点でいつも別れる。しかし、この日はいつものようにはならなかった。
「明日はちゃんと来なさいよ」
「気が向いたらな」
「また、そう言う」
涼吾が颯爽と歩き出すと、遠くから目測でも70km/h程のスピードで走るトラックが見えた。信号は赤信号にもかかわらず、スピードを緩める気配はない。
「おい、嘘だろ!?沙知!逃げろ!」
トラックは猛スピードで沙知の渡る交差点へ突っ込もうとしていた。
「おい、止まれ。止まれよ!」涼吾が叫んだ。
その時!涼吾の周りが闇に包まれる。