夢の中のアイツを連れてきた話
この話を読むあなたに問う。
物語を考えながら寝落ちする事はありませんでしたか?
そこで考えた物語それはとても凄い傑作だったでしょう。
ですが、寝る前には凄い面白かった筈なのに、朝になると意味不明で頓珍漢な進行の羅列となり、泣く泣く誰にも伝えずにボツにした。
これはなろうあるあるですよね。
それは、私にも当てはまる。
しかし、何故そうなるかを考えた時。私にはある仮説が思い浮かぶのです。
それは、もしかしたら夢の中の物語をこちら側に連れてこようとした結果かも知れない。
……と。
◇ ◇ ◇ ◇
ある日の晩。友達が居ない私は、友達の話を思い描くべく多くの妄想をしながら寝た。
すると明晰夢を見た。
夢の中では何とでも出来る。
私は理想の友達を得た。
その友達と夢の世界を駆け巡り、多くの試練を乗り越えて私達は大団円に辿り着いた。
「君だけは明晰夢の中に残してはいけない。私と一緒に現実に行こう」
彼の返答を聞いたかは覚えていない。だが、私は彼を抱き締めながら覚醒した。
目が覚めると、彼以外に布団には両親の姿が見えたのを覚えている。
彼を連れてくる事に成功してしまったのだ。
彼は夢の中のように支離滅裂で首のない姿だった。
話し掛けた事は片っ端から忘れて、話し掛けられた事も片っ端から忘れた。
真夜中の寝室で困っていると、彼は私にこう言った。
いや、こう言った気がする。
「飽きたら君の元へ帰ってくるよ」
彼はそう残して、支離滅裂に消えていった。
それ以降は彼を忘れている時の方が多かった。
だが、それ以降何度も君の姿を見る事となった。
あの地震の時は建物の隙間を、倒れた陸橋の間を駆け抜けていた。
あのビルが倒壊するテロの映像でも、確かに君の姿を確認した。
あの津波の映像では波の最前線で歓喜の笑顔をもって走る君を見た。
首のない君はいつも笑っている。
そして、何か大きな出来事がある前に、こんな事はどうかな? と教えてくれるんだ。
「君の物語にこれはどうだい?」
ってね。
……これを書くのは2度目かもしれない。
かの津波の日に産まれた娘の名前は「 」にした。