表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

after

 金曜日までは長かったが、父さんが不在の3日間、僕はPCにアクセスする機会をたっぷり得た。


 母さんが覗いた時に開く真面目なサイトを準備して、いざ――真っ赤なハートアイコンをクリックする。


 【WELCOME!】


 迷わず文字をクリックし、早速『0000』から入力した。


 3日も時間がある。きっと、扉は開くだろう。


 僕は、自分が世界的なハッカーになったような気分だった。


-*-*-*-


 そして、その瞬間はついに訪れた。


 【WELCOME! ENTER→】


「――やった……!!」


 1人、声を殺してガッツポーズする。


 土曜日の、深夜23時半。

 母さんはとっくの間に眠っている。


 僕は、好奇心に膨れてパンパンの胸を抑えながら、【→】をクリックした。


 鉄の扉が、ゆっくりと開いた。


 トップページと同じ黒地の画面に【MENU】という赤い文字。


 その下に、グレーのバナーが3つ、等間隔に並んでいる。

 左から【依頼する】【依頼を受ける】【利用履歴】とある。


 これだけでは、何のサイトなのか、さっぱり分からない。


 とりあえず、僕は【利用履歴】を開いた。


 最新の記録は、今週の火曜日の夜だ。


 【依頼人N村様より、依頼No.00018694を引き受けました】


 その前は、先々週の月曜日の夜。


 【依頼人S川様より、依頼No.00018016を引き受けました】


 履歴を遡るが、こちらから依頼を出した記録はない。


 父さんは、一体何の依頼を受けているんだろう……?


 中学生の僕でも、これが普通の会社関係の【依頼】ではなさそうなことは、察しがつく。

 第一、こんな怪しげなサイトを介して、仕事が入るとは思えない。


 触れてはいけない父さんの秘密を覗いてしまうようで、僕は随分躊躇した。


 好奇心で踏み出したものの、漕ぎ出した岸には戻れないような――そんな予感が沸き出している。

 【MENU→】


 確かに、ここで扉を閉じるという選択肢もあった。


 しかし、僕は後には退けないという覚悟に似た思いに取りつかれ……


 【依頼を受ける】バナーをクリックしてしまったのだ。


-*-*-*-



-----------------------

 【新着】依頼No.00020053

 依頼人:M田

 対象:主人

 実行地:兵庫県神戸市

 実行日時:●月▲日 18〜20時

 希望方法:船からの転落(ナイトクルーズ乗船予定)

 報酬:成功報酬80万(諸経費別途10万まで)

 詳細、画像は会員専用メールにてお伝えします。


 《依頼を受ける》

-----------------------


 【新着】依頼No.00020051

 依頼人:K藤

 対象:友人

 実行地:鹿児島県指宿市

 実行日時:●月■日〜×日

 報酬:成功報酬30万(諸経費含)

 希望方法:滑落事故もしくは遭難(当日、雪山登山予定)

 連絡は会員専用メールにて。


 《依頼を受ける》

-----------------------


 【新着】依頼No.00020047

 依頼人:A野

 対象:義母

 実行地:東京都多摩市

 実行日時:●月△日

 報酬:成功報酬100万(諸経費含)

 希望方法:交通事故

 会員専用メールで詳細をお伝えします。


 《依頼を受ける》

-----------------------



 艶かしい赤いハートが開いた扉の向こうには、人間の殺意と欲望が夥しく"展示"されていた。


 僕は震える手で、もう一度【利用履歴】を開く。


 父さんが引き受けた依頼は、ざっと見ただけでも50件は下らない。


 悪い夢なら覚めて欲しい。


 僕は、開けた扉を全て閉じ、PCのアクセス履歴を削除した。


 日曜日になっていた。


 明日、父さんが帰ってくる。北海道土産をどっさり抱えて……いつもの笑顔で。


 僕は笑えるだろうか――。



【終】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ