after
金曜日までは長かったが、父さんが不在の3日間、僕はPCにアクセスする機会をたっぷり得た。
母さんが覗いた時に開く真面目なサイトを準備して、いざ――真っ赤なハートアイコンをクリックする。
【WELCOME!】
迷わず文字をクリックし、早速『0000』から入力した。
3日も時間がある。きっと、扉は開くだろう。
僕は、自分が世界的なハッカーになったような気分だった。
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そして、その瞬間はついに訪れた。
【WELCOME! ENTER→】
「――やった……!!」
1人、声を殺してガッツポーズする。
土曜日の、深夜23時半。
母さんはとっくの間に眠っている。
僕は、好奇心に膨れてパンパンの胸を抑えながら、【→】をクリックした。
鉄の扉が、ゆっくりと開いた。
トップページと同じ黒地の画面に【MENU】という赤い文字。
その下に、グレーのバナーが3つ、等間隔に並んでいる。
左から【依頼する】【依頼を受ける】【利用履歴】とある。
これだけでは、何のサイトなのか、さっぱり分からない。
とりあえず、僕は【利用履歴】を開いた。
最新の記録は、今週の火曜日の夜だ。
【依頼人N村様より、依頼No.00018694を引き受けました】
その前は、先々週の月曜日の夜。
【依頼人S川様より、依頼No.00018016を引き受けました】
履歴を遡るが、こちらから依頼を出した記録はない。
父さんは、一体何の依頼を受けているんだろう……?
中学生の僕でも、これが普通の会社関係の【依頼】ではなさそうなことは、察しがつく。
第一、こんな怪しげなサイトを介して、仕事が入るとは思えない。
触れてはいけない父さんの秘密を覗いてしまうようで、僕は随分躊躇した。
好奇心で踏み出したものの、漕ぎ出した岸には戻れないような――そんな予感が沸き出している。
【MENU→】
確かに、ここで扉を閉じるという選択肢もあった。
しかし、僕は後には退けないという覚悟に似た思いに取りつかれ……
【依頼を受ける】バナーをクリックしてしまったのだ。
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【新着】依頼No.00020053
依頼人:M田
対象:主人
実行地:兵庫県神戸市
実行日時:●月▲日 18〜20時
希望方法:船からの転落(ナイトクルーズ乗船予定)
報酬:成功報酬80万(諸経費別途10万まで)
詳細、画像は会員専用メールにてお伝えします。
《依頼を受ける》
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【新着】依頼No.00020051
依頼人:K藤
対象:友人
実行地:鹿児島県指宿市
実行日時:●月■日〜×日
報酬:成功報酬30万(諸経費含)
希望方法:滑落事故もしくは遭難(当日、雪山登山予定)
連絡は会員専用メールにて。
《依頼を受ける》
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【新着】依頼No.00020047
依頼人:A野
対象:義母
実行地:東京都多摩市
実行日時:●月△日
報酬:成功報酬100万(諸経費含)
希望方法:交通事故
会員専用メールで詳細をお伝えします。
《依頼を受ける》
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艶かしい赤いハートが開いた扉の向こうには、人間の殺意と欲望が夥しく"展示"されていた。
僕は震える手で、もう一度【利用履歴】を開く。
父さんが引き受けた依頼は、ざっと見ただけでも50件は下らない。
悪い夢なら覚めて欲しい。
僕は、開けた扉を全て閉じ、PCのアクセス履歴を削除した。
日曜日になっていた。
明日、父さんが帰ってくる。北海道土産をどっさり抱えて……いつもの笑顔で。
僕は笑えるだろうか――。
【終】




