北斗知也子 トップダウン幸せについて
刺すような太陽。
まとわりつく湿度。
会話を遮るセミの声。
今日は登校日なので出席時間は数時間程度。
中には登校してこない生徒もいる。
「このまま事故もなく2学期を迎えられればいいわね」
保健室で北斗がつぶやく。
「もし桜井先生じゃなくて私がカウンセラーだったらどうなってたかしら?・・・」
桜井が着任当時、北斗が以前カウンセラーを目指していた事を知られた事をふと思い出した。
「もし、カウンセラーの夢を諦めなかったらどうなっていたかしら?」
ゆるくエアコンの効いた部屋から熱でゆらぐ校舎を見つめる。
「桜井先生のようにみんなに頼られていたかしら?」
「工藤さんのわがままに振り回されていないかしら?」
「汐川君たちは何かミステリアスで不思議そうよね~難しそう」
「でも臨床心理士キツかったのよね。私、弱かったわ。桜井先生には出来たんだもの。
やっぱりすごいわ。私には出来ない・・・医学部もきつかった」
「で、僕を追い出す算段はできましたか?」
「きゃあ!!」
北斗がイスから飛びはねる。振り返ると満面の笑顔の誠史郎がいた。
「きゃっ、やっ、いっ、いつからいらっしゃたんですか!桜井先生」
北斗の心拍数は思い切りあがっている。
「もしカウンセラーだったら~位からですかね?」
目を思い切り細めて誠史郎が微笑みかける。
「最初からじゃないですか!声かけてくださいよ!」
北斗は耳まで真っ赤になる。
「諦めずにまたチャレンジしたらどうですか?」
誠史郎が笑顔で言う。
にっこり笑って北斗は、
「いいんです。学生の頃は確かに目指しましたが、今は自信を持ってこの学校の養護教諭といえますから」
「心強いパートナーですね」
誠史郎が笑う。
「さてそろそろ小うるさいのかやってきそうですよ」
「はい、仕方ない子たちですね」
北斗が笑顔で答える。
「あついよー!誠ちゃ~ん」