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現在 黒銀千緋色

 「爺、今すぐ車の用意を」

 玄関を開けた千緋色が言った。大広間から三人が慌てて駆け寄ってくる。

 「どうしたんだよ! 写真のことはわかったのか!?」

 祐陽の言葉に千緋色が「写真の中身はセクシャルな話題で間違いない」と言うと、三人がぴたりと動きをやめた。

 「なんじゃ、どうしてわらわに隠しごとをするんじゃ……そもそもセクシャルな話題とはなんじゃ?」

 「おひいちゃん! そんなことより、今から車を用意してどこ行くの!?」

 大慌てで鉄斎が割り込んでくる。あからさまな話題逸らしにむっとするも、時間がないことを考えると言い争いしている場合ではない。

 千緋色は「あとで聞かせてもらうぞ」と釘を差して、話題を変えた。

 「仲吉に怪我を追わせた犯人が分かった。その男は今近くにおる。名前は扶月総輔――扶月グループ総帥、総也の息子じゃ」

 「なんと……!? それは本当ですかおひい様!」

 あまりのことに言葉遣いが戻ってしまっている。

 千緋色は鉄斎に「ああ、嶋馬兄妹がついさっき治療したそうじゃ。どこぞの誰かに殴られたようでな」と言うと、眼の端で祐陽を見る。

 「しょ、しょうがねぇだろ! あいつ……仲吉をあんな目にあわせやがって……おまけに切りかかってくるんだ、正当防衛ってやつだろ!?」

 「何を慌てておる。よくやってくれたと礼が言いたいくらいじゃ」

 「んな、なんでだよ……」

 「ずっと……ずっと探しておったんじゃ、総也の手がかりを。あやつが今どこで何をしておるのかを」

 奪われたロザリオ……母から授かった千里眼を取り戻さなくてはならない。千緋色はこの四年間、ずっと気を揉んでいた。どうにかして探そうにも黒銀家が無くなってしまってからは大した情報も集められない。まして扶月グループは黒銀家に変わって裏の世界を牛耳る新しい勢力になっている。もはやただの小金持ちの小娘にはどうすることも出来なかった。

 「祐陽がぶん殴ってくれたおかげじゃ。これでやっと、母の形見を取り戻せる」

 個人的な感情だけではない。あれは放っておけばいずれ世界を崩壊させる。はやく手を打たなければ取り返しの付かないことになる。命をかけてでも取り返さねば。

 千緋色は「仲吉の件も、これで全て片がつく。この機会を逃すわけにはいかんぞ、爺。早く用意を!」と言った。

 「祐陽、直彦。おぬしらはここに残れ。あやつら扶月は何をしでかすかわからぬからな」

 「待てよ! 俺だってあいつには言いたいことがたくさんあるんだ。それにずっと……今度こそは守るんだって決めてんだよ!」

 祐陽の言葉を無視して車に乗り込むと、車窓から顔をのぞかせた千緋色は二人に向かって「おぬしらは数少ないわらわの友達じゃ、危ない目にあわせるわけにはいかぬ」と言った。

 「だったらなおさら……!」

 祐陽の言葉を遮るように、直彦が割り込んでくる。

 「祐陽、千緋色ちゃんを困らせるのはやめよう。時間もないみたいだし……」

 「何言ってんだ」と食って掛かる祐陽を制して、直彦が言った。

 「千緋色ちゃん、約束してくれ。ちゃんと無事帰ってくるって。そして、一体何があったのか教えてくれるって」

 真顔のまま固まる千緋色に、直彦が「だって、友達でしょ、僕たち」と言った。

 「わかった。約束じゃ。わらわは無事に帰るし、聞きたいことは何でも話そう」

 千緋色が窓越しに小指を差し出す。

 その言葉を聞いて、祐陽と直彦が指を重ねた。

 「信じていいんだな……」

 ふてくされた顔の祐陽が言った。

 「わらわの千里眼を忘れたのか? 予見は必ず実現するのじゃ」

 指を離すと、千緋色は鉄斎に合図を送る。

 降りしきる雨の中、車は猛スピードで夜の住宅街を駆け抜けていった。


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