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孝橋山の対峙 【禄】

「『大豊山』私……私は『豊山三ノ輪麓』をお預かりすることはできません」

「不満か」

「だって……私……」

 『豊山』は優雅に石段を下っていく。

 絢爛たる孝橋山の神社額を抱く楼門を背に、逆光のままで、もう一段足を運ぶと石段が草履の底を削る。

「私は侍従になりたいんじゃないわ。私は朱善兄様を越える山の主になりたいのだから」

 じゃり、と軽石を撫でるような音を立て、『豊山』は階段を下りきった。

「祥香姫、『豊山三ノ輪麓』はそんじょそこらの山持ち稲荷神よりずっと名の通るお役目であるぞ」

 久照が丁寧に説明してやるが、祥香は首を横に振った。

「なるほど、そなた兄に対抗意識を持っているのか。私はそういう感情は嫌いではないが……つまり、同じ侍従ならば同位の『豊山一ノ輪麓』でなくては我慢ならんと?」

 守夏は『豊山』の言葉を受け、久照と視線を交わして笑ってみせた。

 もし「そうだ」と答えたならばそれは強欲だ。

 守夏を退けてその座に就くというにはあまりに祥香は幼く弱すぎる。

「違います」

「ふむ」

「『豊山』でなければ、なりません」

 『豊山』は、分かりやすく気の抜けた顔をしてみせた。

 侍従達を背に立っていたので、その顔を見たのは祥香と茂野だけであったが三朱『豊山』の間の抜けた顔など、千年に一度あればというほどに珍しいものだ。

「そう──そうです。なるならば、私は三朱『豊山』になって八雲を許し侍従にして、派閥なんてものをなくしてやります。そして朱善お兄様を正してやるんです」

 妄言もここまでくれば立派なものだ。

 最初に笑ったのは『豊山』で、続いて守夏、久照と笑いが漏れた。

「は……ははは、はは、そなたこの私を前にして山を譲れというのか。言うにかけて、そこまで無礼を過ぎると、もはや笑いしか出ん」

 茂野は言葉すら忘れ、直立不動の状態だった。

 どのようにして逃げても処断される。

 もはや逃げ道なしと終焉を覚悟した顔にも見えた。

「いかん、守夏様これはいかん、腹がよじれるわ。まこと、まことにこれは顔だけじゃ」

「躾がいがあると言っただろう?」

「言ったがな、言ったが、あっはっは、あはははは。いかん。儂気に入ってしもうたわ」

 いつもの守夏であれば祥香を即処断していたが、今日は違った。

 白刃は手にしたまま動かず、祥香を三分割にはする様子はない。 

 『豊山』はぴたりと笑みを止めると、もはや話すことはないとばかりに間合いを詰めだした。

 とんでもないことを言えば諦めてくれると、祥香は考えたのだろうが、当然そんな訳がなかった。

「そなたに三朱『豊山』の器があるのであれば、望まざるともその座を得るだろう。『豊山三ノ輪麓』の位もまた望まぬとしても、そなたが授かるものだ。なに……その心意気があればできぬことはない。できぬとは言わせぬからな」

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