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おやじ彼女  作者: ponta
天下無双
566/570

辛勝

「奈津美さん、いいですか、左手です。それから絶対にフックの間合いに入らないこと!」


「わかった。やってみる!」


リング中央に向かい、構える。

だいぶ足の感覚が戻ってる。これなら、捕まらない。


ボルガノフの左手はブラブラしていない。無理矢理はめたらしい。


私は試しに、右のミドルキックを放つ。ボルガノフの左手にかすると、

ボルガノフの表情が明らかに曇った。


痛めてる。左手は使えない。

ならば、右のロシアンフックに、注意すればいいだけ。


私は遠い間合いから、左右の蹴りを連続してだす。

ボルガノフが右のパンチを出すと、大きく下がって間合いを外す。

いける。左手が痛くて、1Rの動きができてない。


蹴りを躊躇なく、当てていく。

速さだけの蹴りから、だんだんと体重を乗せた蹴りに変えていく。


足の筋力は、腕の数倍。女の私の蹴りでも、こんだけ食らえば、効くでしょう?


ボルガノフがじりじりと下がり、ロープを背にする。

私は左右の蹴りを、力いっぱい蹴りこむ。


ボルガノフの膝が折れる。


いまだ!


私が飛び膝蹴りを出そうと、腰を落とすと、ボルガノフが左のボディブローを打ち込んできた。


私のボディにボルガノフの左拳が突き刺さり、私は胃液を吐き出した。

おなかを押さえて下がるが、足が痺れてる。


嘘? 芝居だったの? いや、そんなはずない。1Rには肘関節が外れてた。

ボルガノフの顔も苦痛に歪んでる。

この人、痛めた腕で打ってきたんだ。


ボルガノフが、踏み込んできて、右のロシアンフックを打ってきた。

私は両手を上げて、ガードするが、殴り飛ばされて、リングに転がされる。


強い。こいつ強い。

だめだ、私じゃ無理だ……。


その時、ふっと男が強まった。

戻った。磯野正が。


俺は立ち上がり、首を振る。


「はははは。舐めた真似しやがって。こんな美女の面に、本気で拳打ち込むって、

 お前、どんだけSだよ」

 

ずきんと脇腹が痛む。ちい。今のでアバラが2、3本いかれたか。


ボルガノフが、踏み込んできて右のロシアンフックを放ってきた。

俺は、両手で後頭部を押さえ、額でボルガノフの拳を受けた。


"ゴキン"


鈍い音がして、ボルガノフが顔をしかめて下がる。


「おほーっ。一か八かだったが、うまくいったな。

 まあ、お前の左手は、さっきのボディブローでほんとに終わっちまったから、

 右で来るのはわかってたよ。

 まだ左がいきてて、コンビネーション打てたなら、結果は違ったかもな」

 

俺は跳び、ボルガノフの顔面に頭突きした。


ふらついたボルガノフに二段跳び膝蹴りをあて、倒した。


ボルガノフは、首だけあげ、しばし俺を見た後、失神した。


俺は左右の下段突きをだし、勝ちをアピールする。


歓声に応えながら、俺はリングを後にする。


控室に戻って、倒れこんだ。


「奈津美さん、大丈夫ですか?」


「メガネ君、サンキューな。おかげで勝てたよ。

 奈津美だけになったとき、あのままじゃ気持ちで負けてた」

 

「しかし、ダメージがひどいですね。脇腹、内出血してますよ」


「アバラに、ヒビ入ったみてえ。少し動かしただけで、痛いよ。

 ガードしたときに、左手首も捻挫したみたいだし、

 背中の張りもひどい。

 次は、伊藤がくんだろ? 俺、棄権するわ」

 

「そうですね。僕もそれがいいと思います。

 誰か呼んできますよ」

 

「頼むわ。ドクター呼んできてくれ。痛み止め打ってもらいたい」


「病院に送ってもらったほうがよくないですか?」


「いや、伊藤と木村の試合を観ときたいしさ。

 ぽっきり折れてるわけじゃないから、肺に刺さったりってのもないし」

 

「僕は無茶しないほうがいいと思いますけどねえ」


「いやまあ、ほら、せっかくのイベントだしさ。

 むさい男二人じゃ絵にならんだろ?」


「ははは。そうですね」


小森に医者を呼んでもらっているうちに、

疲れから、うとうとしていると、試合を終えた伊藤が、控室に入ってきた。


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