激闘
「Ouuuuhhh!!!」
俺が右へ避けると、低い体勢から右のロングフックを放ってきた。
スウェーバックで避けるが、風切り音がすごい。
背筋がぞっとする。
続けて、左のフックをバックステップでかわすと、右のハイキックが襲ってきた。
こいつ圧力で、押し切るつもりか。
右のハイキックをダッキングでかわし、伸び上がりながら左の掌底を顎にあて、
右の膝蹴りをボディに当てる。
反撃してきたボルガノフの右のショートボディをガードすると、50cmほど飛ばされ、
バランスを崩して倒れこんでしまった。
グランドを警戒して、すばやく起きると、ボルガノフは両手をあげて構えて、体を揺すっていた。
どうやら、打撃勝負といきたいらしい。
俺は両手を額の高さにあげ、手の平をボルガノフに向け、ゆらゆらと揺らす。
左足の踵を上げて、猫足立になる。
手を揺らすたびに、落ち着いていく。真っ赤に紅潮したボルガノフの顔から、
次にやろうとする手が読み取れてくる。
俺は左の前蹴りをボルガノフの腹に当てた。
ボルガノフは微動だにしない。
見事な腹筋だ。鳩尾に当てたというのに、壁を蹴っているような感触だ。
遠い間合いから、踏み込んで左ロー、右ローを入れ、すぐに下がる。
俺が次の動きをしようとしたとき、ボルガノフが右を振り被って、踏み込んでくる。
後に飛びのくと、ボルガノフは元の構えに戻した。
ボルガノフがじりじりと間合いを詰めてくる。
俺は左ミドルを当てる。
ボルガノフは、動かない。
こいつ、俺の打撃では腹筋を貫けないとわかってる。
頭部だけ、防御するつもりか。
「その誘い乗ってやる!」
俺は二段跳び膝蹴りを出す。
左の膝を右手でガードさせ、空いた隙間に右ひざを叩き込む。
ボルガノフは、俺の右ひざを額で受け、左のフックを打ち込んできた。
右わきに左フックが突き刺さり、俺は反転して、頭からリングに落下する。
立ち上がろうとすると、ボルガノフがサッカーボールキックを放ってきた。
両手をあげて、ガードするが、後方に蹴り飛ばされ、起き上がろうとしたところに、
ボルガノフが俺の顔面に向かって、踏みつけてきた。
左に避け、体を転がして、中腰になる。
ボルガノフが低空のアッパーを放ってきて、それを立ち上がりながら避けると、
右のロシアンフックが襲ってきた。
左手をとっさにあげ、ガードするがリングの上に転がされる。
一瞬意識が飛ぶ。ガードの上からってのになんて威力だ。
俺が首を振って立ち上がると、ボルガノフが右を振り被って迫っていた。
ダッキングで避け、右の真正の突きをカウンターで入れる。
ボルガノフの膝が一瞬折れ、俺は左掌底、右の猿臂を顔面に入れ、間合いを取る。
観客からどよめきと拍手が起こる。
俺は打たれた脇の状態を確認する。少し痛むが空中で反転したおかげで、衝撃が逃げたらしい。
これなら、まだ動ける。
ボルガノフがにやっと笑う。俺も微笑み返す。
いいねえいいねえ。ぞくぞくするよ。
崩すには跳び膝が有効か。さっきは額で受けられたが、
裏を返せば、ガードはできないってことだ。
手技で崩して、膝で決めてやる。
遠い間合いから、左右の速さだけの半端な蹴りをボルガノフのガードしている手に当てる。
ボルガノフは、動かない。
数度、蹴っては離れるを繰り返し、俺は踏み込んだ後に縮地で、間合いを詰めた。
驚いた顔のボルガノフに、左の真正の突きを顔面に当て、右の逆突きをさらに打ち込む。
ボルガノフの表情が変わり、後によろめく。
俺は、力を溜め、跳び膝蹴りをだした。
左の膝をこめかみにあて、右の膝を鼻面に当てる。さらにボルガノフの頭をつかみ、
止めとばかりに左の膝を顎下に入れる。
ボルガノフがもんどりうって倒れる。
俺はすぐさま、距離を開け、腰を沈めて力を溜める。
コーナー付近で立ち上がったボルガノフに向かって、矢のような速度で跳ぶ。
勝った。このタイミングで撃砕はかわせない。
今日から俺が70億分の1だ。俺が最強だ!
ボルガノフの目の前に着地し、右の拳を捻りこみながら、打ち込む。
ボルガノフが、左手をあげる。
俺は構わず拳を打ち込んだ。
ボルガノフの左のひじ関節が外れ、そのまま脇腹へと拳をめり込ませる。
波が通るのを感じる。
よしっ。完璧だ。後はこいつが倒れるのを待つだけ。
左上の視界に何かが入る。
反射的に顔を上げると、ボルガノフの拳が迫っていた。
馬鹿な?! 左手を破壊して肋骨も折ったというのに、なぜ動ける?
避け
いや、間にあわん
ガード
とにかく手をあげっ
いかんまともにくらう
顔の左で何かが爆発した。
次の瞬間、俺はリングにはいつくばっていて、意識はもうろうとしている。
左手を押さえたボルガノフが、顔から出血しながら、ゆっくりと俺の方へ近付いてくる。
やられた。お前の勝ちだ。
まさか撃砕に耐える奴がいるとは。
世間は広いな……。




