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おやじ彼女  作者: ponta
天下無双
563/570

三回戦

控室で柔軟をしていると、ドアがノックされ、伊藤と木村が入ってきた。


「押忍! まーた、派手な勝ち方しましたね。ブーイングすごいですよ」


木村がくすりと笑うと、伊藤が木村の胸を叩いた。


「何言ってる? ルール内でやりあってんだ。

 誰にも文句は言えねえだろうが」


木村が、ちっと舌打ちした。


「痛いな。馬鹿力なんだから、気をつけろよ」


「なんだと、コラ」


「まったく、お前らはいくつになっても。

 人の控室にきてまで、喧嘩すんなよ。

 そうそう、この機会に言っとくわ。

 あんがとな」


木村と伊藤は、俺の言葉に顔を見合わせる。


「なんすか、いきなり?」


「いや、ほら。道場に顔出さなくなって、急にこんなナリになって、

 戻ったっていうのに、受入れてもらったからさ。

 あんときは、深く考えなかったんだが、普通に考えると、

 お前らってすごいなって思ってさ。

 いきなり女子高生がやってきて、先輩だって言っても、

 普通は、相手にせんだろ。

 それに道場に行かなくなった理由を言ってなかったと思うが、

 事務員の人たちに陰口叩かれてるって知ったのがショックだったんだよ。

 加えて、神明館の試合で、俺は負けて、伊藤が勝ったのが余計にショックでな。

 俺って、小せえよなあ。情けない兄弟子ですまん」


「ああ、そんなことだろうと思ってましたよ。

 先輩って、結構ナイーブだから」


木村は、そういって、にやつく。

伊藤は、鼻で笑った。


「がははは。俺と比較しちゃ、誰でも落ち込みますって。

 まあ、俺は磯野さんは戻ってくるとわかってましたけどね」


「そかー? 戻ろうとは思ってたんだけどなあ。

 なんか、期間が空いちゃうと、どんどん行きにくくなってな。

実際、仕事も忙しかったてのもあるし。

 ほんと、あんときは心配かけたな。実は、いまもボルガノフのこと考えたら、

 胃が痛いしさ。俺って、ほんと小心者だよ」


伊藤は木村の方をちらりと見て、少し笑った。


「木村とも話してたんですが、ほんと磯野さんって

 自分がわかってませんよね」


「はぁ? 俺、生きてたら40前だよ?

 不惑だよ? んなわけあるかよ」


「磯野さん、俺たちが、年が上ってだけで、

 あんたの下についてると思ってますか?」


「どういう意味だよ?」


「前は、兄弟子なんていっぱいいましたよね?

 どいつもこいつも口ばっかりで、手本になるような奴はいなかった。

 何も強さだけのことを言ってるんじゃないですよ。

 後輩のために体張るような奴はいなかったってことなんです。

 一緒に苦楽を共にし、親身になってくれたのは、あんただけだった」


「いや、そりゃ後輩のためにはさあ」


「だから、普通の奴はそれができんのですよ。

後輩のために体張れる人間なんて、そうそういない。

 やくざに追い込みかけられてる後輩のために、単身事務所に乗り込める奴が、

 他にいますか?

 銃や刃物向けてる奴らの前に、飛び出すことができる奴が何人いますか?

 あんたはね、俺らにとって、最高の人なんですよ」


「そっか。そこまで褒めてもらえると、次も勝たんといかんな」


「当たり前でしょうが! 光臨会に磯野あり! あ、いまは大野か。

 大野ありってとこ見せつけてくださいや」


「おう。妙なエールだが、受け取っとくよ。ほら、そろそろ自分たちの控室に戻れよ。

 お前らも勝ってくれないと、光臨会は俺だけだって言われるぞ」


二人が控室から出ていき、小森と作戦を練っていると、

ドアがノックされ、スタッフが顔を見せた。


「大野選手、時間です」


まずいな。男がめちゃくちゃ強まってる。

奈津美の感覚がまるでない。

半々の状態がベストだというのに。


小森が俺を見て、おやっという顔をする。


「奈津美さん、どうしたんですか?」


「うん?」


「いや、すごく嬉しそうにしてるから。

 普段は試合前だと緊張されてるのに」


「嬉しそう? そんなわけ……」


口角があがっている。俺は嬉しいのか。

世界最強と呼び声の高い、強敵と戦えるということが。


「あははは。俺って、わけわからんよな。

 ずっと緊張して、胃が痛いってのに、嬉しくもあるらしい。

 たしかに、滾ってる。奈津美の感覚がまったくしないよ」

 

入場口から俺が顔を出すと、大音量の入場曲より更に大きな歓声が沸き起こる。


俺は軽く右手をあげて、声援に応えながら、リングへと進んでいく。

リング上では、ボルガノフが静かな目で、俺をみている。


リングに上がり、Tシャツを脱ぎ捨て、スポーツブラになると、どよめきが起こった。

このクラスの奴に、色仕掛けが利くとは思えないが、できることは全部やっておきたい。


リングアナウンサーの選手紹介が終わり、レフリーにリング中央に呼ばれる。

俺が笑顔を向けても、ボルガノフは表情を変えない。


自コーナーに戻ると、小森が声をかけてきた。


「跳びこんできてのフックに気をつけてください。ご武運を!」


「うん。最初から全力でいくよ」


ゴングが鳴らされると、ボルガノフが雄たけびを上げながら、突進してきた。


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