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おやじ彼女  作者: ponta
天下無双
559/570

初戦

試合当日となった。


ブレイブのトーナメントは、2日間行われる。

一日目が2回戦までで、二日目で三回戦から決勝が行われる。

俺の目標は、三回戦で当たるであろうボルガノフだ。


がらんとした控室で着替えをする。

スパッツにタンクトップの上をきて、さらに空手着を着込む。


今までもヘビー級の奴らとやり合うことがあったが、

今回はプロの格闘家が相手だ。

パワー、スピード、スタミナ共に、最強レベルの男たちが揃っているだろう。


自信があるという態度を取っていたが、本当は不安で仕方ない。


すぐに組付かれてしまったら? 俺の打撃が通用しなかったら?

この一週間、無様に負ける様ばかりが頭に浮かんで、

寝ても覚めても、落ち着かない。


控室を出ようとすると、不意に吐き気が襲ってきた。

俺は胃液を手洗い場にぶちまける。


逃げ帰りたい。何をトチ狂って、こんな場所にいるのか。


外の空気を吸おうと、廊下にでると、木村が壁にもたれ掛かっていた。

俺を見ると、軽く手を挙げてくる。

木村は短パンにTシャツ姿だ。


「先輩、また吐いたんですか? 相変わらずだなあ。ははは」


「おまっ、俺が吐くわけ……。わかるか?」


「だって、顔が青ざめてますもん。どうせ負ける夢でも見て、

 まともに寝れなかったんでしょう?」


「そうだよ。悪いかよ」


「いえいえ。いつもの磯野さんのペースだなと思っただけです。

 順当にいけば、決勝で俺と当たります。待ってますよ」


「待ってますよって、お前の山も結構な奴揃ってるぞ」


「そうですか?」


「そうですかって、お前なあ」


「俺は半端な鍛え方はしてないですから」


そういうと木村はらんらんと目を光らせる。

この自信、分けてほしいものだ。


山下師範が、ジャージ姿でこちらへかけてくる。


「すまん、すまん。伊藤のアップに付き合っていたら、

 いつの間にか、時間が経っていてな。

 準備はいいか?」


「押忍。できているというか、何というか……」


木村が笑いながら、俺の肩を叩いた。


「大丈夫ですって。磯野さんは、いつも試合が始まったら、

 人が変わるんですから。さあ、行きしょう」


「行きましょうって、お前も来るのか?

 準備は?」


「まだ、俺の試合はだいぶ先ですよ。1回戦の最終試合なんですから」


「それにしたって、体を休めたり、集中したりする時間が必要だろうが。

 控室で大人しくしとけよ」


「大丈夫ですって。調子いいんですよ。いつになく」


確かに、木村の肌は色つやがいい。調子がよさそうだ。

それに比べて、俺ときたら……。


「さあ、もう入場だぞ。用意しろ」


「押忍!」


入場口近くまで行くと、テレビクルーが待ち構えていて、

眩しいライトを当ててくる。


俺は何だか気後れして、下を向く。

いかん。全然、気持ちができていない。


入場曲が会場に流される。この状態で行くのか……。

俺が入場口から顔を出すと、割れんばかりの歓声があがった。


緊張で体が固まる。足を前に出すのもぎこちない。


『ひめー!!』


右手の声がした方をみると、三鷹水産の卒業生たちが陣取っていた。


『奈津美ー!』


今度は、左手を見ると、橋本、優子、小森の姿もある。

チケット高かっただろうに、みんなわざわざ観に来てくれたのか。

これは、無様な真似はできん。


一歩一歩、リングに近付くたびに、心が落ち着いていく。

大音量で鳴らされている入場曲も、歓声も聞こえなくなっていく。


リングそばの松脂に足をこすり付けていると、山下師範がポンと俺の背中を叩いた。


「いい顔になったな。さっきはひやひやしたぞ」


「押忍。毎度毎度、すみません」


「磯野、見ろ。わざわざお前に倒されに、アメリカから来た間抜けが待っているぞ」


「押忍。速攻で倒します」


俺はリングに駆け上がり、トップロープを掴んで、飛び越えリングに降り立つ。

再び会場全体が震えるような歓声が、沸きあがる。


不思議だ。つい4,5分前は不安で仕方なかったのに、今の落ち着きようはどうだ。

相手の息遣いまで、見える。


対戦相手のマイケル・ホワイトは、ボクシングのマイナー団体でヘビー級チャンピオンに、

5年前になったという。

現在、35歳。引退していたというから、全盛期の動きはできないはず。

188cm、110kgと丸太のような腕をしているが、腹もでている。

白人で、顎鬚を蓄え、さっきから俺を威嚇している。


俺は視線を上げ、オーロラビジョンを見る。俺の顔がアップで映し出されている。

我が目で見ても、落ち着いている。

俺が微笑むと、画面の俺も少し遅れて微笑んだ。


リングの中央に向かい、レフリーから諸注意を受ける。

ゆっくりと自コーナーへ戻ると、ゴングが鳴らされた。


マイケル・ホワイトが肩を怒らせて、俺に近付いてくる。

俺もノーガードで近付く。


マイケルが左のフックを放ってくる。

ダッキングで避け、左の掌底を顎に当てる。


マイケルは顔をしかめつつ、右のフックを打ってくる。

スリッピングで避け、右の真正の突きを当て、

マイケルが数歩下がったとろろで、二段の跳び膝蹴りを顎にあてると、

マイケルは前のめりに倒れ、痙攣した。


俺は左右の下段突きを繰り出し、勝ちをアピールする。


レフリーがマイケルに駆け寄り、手を交差させ、ゴングが鳴らされた。

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