表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おやじ彼女  作者: ponta
天下無双
558/570

復帰

「木瀬、お前の勝ちだ」


木瀬は、俺を見上げると、状況が理解できないのか、

しばらく無反応だったが、再び中尾を見て、雄たけびをあげた。


「おおおおおお!!」


「木瀬、病院に行くぞ。今は、興奮してるからわからないだろうが、

 鼻を骨折していて、歯も折れている」


木瀬は立ち上がり、中尾の取り巻きに叫んだ。


「俺の勝ちだ! 二度と、俺の弟を馬鹿にするな!

 俺が勝ったんだ! 俺が!」


「わかった。わかった。ほら、帰るぞ。おう、誰か病院に乗せてけ」


用意された下品な車の後部座席に乗り込むと、木瀬は大粒の涙を流し出した。

肩を震わせ泣き続ける木瀬の肩を抱いてやると、木瀬は俺の胸に顔をうずめ、

嗚咽を漏らす。

俺は黙って木瀬の頭を撫でてやった。


夜間診療をやっている総合病院まで来ると、木瀬は落ち着きを取り戻していた。


受付をすませ、待合室のソファに腰を下ろすと、木瀬が苦笑いしながら謝ってきた。


「みっともないところ見せちまったな。すまん」


「いいさ。よく立ち向かっていった。怖かっただろ?」


「うん。中尾ってさ、中学の時一緒で、バリバリのヤンキーでさ、

 目を合わすのも怖かったんだ。野球できなくなって落ち込んでた時に、

 因縁つけられて、囲まれたんだけど、怖くて仕方なかった。

 許してもらうために、土下座までしたよ。

 俺は、そんな自分が許せなかった。

 弟を馬鹿にされても、怖くて何もできない自分が嫌で仕方なかったんだ」


「そうか。木瀬、お前は強いよ。なかなかできることじゃない。

 あ、そうそう。空手部は、辞めろ。俺からみんなに話しておくから、

 明日から来なくていい」


木瀬は驚いた顔で、俺を見る。


「な、なんで? 俺、勝っただろ? 中尾に勝っただろ?! 理由を教えてくれよ!」


「理由はな、お前が野球に未練たらたらだからだ」


「なっ……。だって、野球はもう」


「木瀬、お前は野球をするべきだと思うよ。お母さんや昇君のお前の昔話をするときの顔見てしまうとな。

 俺さ、山下師範から前に言われたことがあるんだ。右が強い奴は必ず左も強くなるって。

 昔、右の蹴りが得意でさ。というか、左の蹴りが苦手だったんだが、

 苦手な左の蹴りを血の小便が出るまで、やりぬいたことがあったよ。

 そしたら、あら不思議。俺は左のミドルが、一番の得意な蹴りになってた。それからだな。

 どんな技も左右を使えるように、鍛錬するようになったのは。

 木瀬、右がダメなら左手で投げろ。お前なら、必ず左手でも、目を見張るような球が投げれる」


「いや、そんな簡単には……」


「まあ、そういうな。俺がいいもん見せてやる」


俺は立ち上がり、バッグから二本スローイングナイフを取り出し、

まずは右手で投げ、壁に突き刺した。

すぐさま左手で投げ、壁に刺さっていたナイフを弾き落とす。


木瀬は、俺の技を見て、呆気に取られる。


「速ええ……」


「ナイフは空気抵抗が低いからな。俺みたいな女でも、160kmは出てるよ。

 ナイフ投げの達人なら、200kmは出す。

 これが野球の球だと、120kmがいいとこさ」


「俺に、俺にできるだろうか」


「できる。お前ならできる。反吐を吐きながらも、蹴りを出し続けようとしたお前ならできる。

 たった一月足らずで、中尾を倒したお前ならできる。

 この俺が保証してやる。空手日本一の大野奈津美様がな」


木瀬は寂しそうな顔を一瞬して、笑顔になった。

俺に手を差し出してくる。


「ありがとう。やってみるよ。もう一度、野球に打ち込んでみる」


「がんばれよ。プロになったら、大野奈津美様のおかげですって言えな」


「あははは。約束するよ。お前のおかげだって言う」


こうして、木瀬は野球に戻ることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ