リベンジ
「あら。誰かしら?」
お母さんの問いには答えず、
木瀬が緊張した面持ちで立ち上がる。
「母さん、ちょっと、出かけてくる」
「こんな時間に? どこいくの?」
俺も笑顔で席を立つ。
「ちょっと、空手部の先輩の家に行くことになってまして。
お邪魔しました」
昇君が、不安そうな顔で、俺を見る。
「昇君、大丈夫よ。心配することないから。
お兄さん、ちょっと借りるね」
家を出ると、ベコベコに車高を落とした品のないセダンが止まっていて、
男が俺に頭を下げた。
「お迎えにあがりました」
俺は男の鼻面を殴る。
「いぎっ!」
「もっとましな車で来い。あんま舐めてると、
お前ら、全員、博多湾に沈めるぞ」
「すんません。こんな車しかなかったものですから」
「今回は我慢してやる。連れていけ」
木瀬と共に、車の後部座席に乗り込む。
木瀬の表情は硬い。
俺は、木瀬の手をぽんぽんと叩いた。
「緊張するな。俺に任せればいい。
俺は、50人からのヤクザをぶちのめしたことがある。
20人程度の愚連隊じゃ、相手にならん」
「あ、ああ」
まあ、ビビるなと言う方が無理か。さて、中尾ってのが
どうでてくるか。今日はスローイングナイフしか持ってきていない。
相手の武器を奪うかな。
良い特殊警棒もってきてくれると嬉しいんだが、
金のない奴は、見せかけだけのバトン買うからなあ。
人気のない廃団地に入り、車は止まった。
歩道の街灯に照らされ、十数人の人影が、確認できる。
俺は車を下り、そいつらにスタスタと近付く。
「中尾ってのは、どいつだ?」
中央にいた体格のいいやつが顎をあげて答えた。
「俺だ。あんた、いきなり俺の舎弟やってくれたそうだな。
遠藤は、入院したぞ。俺らが何したっていうんだよ」
「態度でかいな。死にたいのか?」
俺が殺気を飛ばすと、中尾は引き攣った顔で一歩下がった。
「ふん。ビビってんのか。シャバいなー。
1分やる。今から俺に潰されるか、泣きいれるか、選べ」
中尾は、困惑した顔で、左右を見る。
中尾の表情が険しいものに変わっていく。
中尾が目配せすると、端にいた奴らが、俺の後方へ移動した。
「あははは。うけるー。この人数で、俺をやるって?
病院のベッドで後悔するんだな」
俺は、左後ろにいた奴の顔面に左横蹴りを入れ、右後ろに居た奴の
側頭部に左裏回し蹴りを入れて倒した。
前のめりに倒れた奴の後頭部を踏みつけ、中尾を見る。
「こ、殺す気か! その足どけろ!」
「うっせえなあ。こいつは、俺のパンツ見やがったんだよ。
いい物みたんだから、次は苦しむ。
その方が、バランスとれてるだろ?」
「めちゃくちゃじゃねえか!
木瀬! 俺に勝てねえからって、こんな危ねえ女、連れて来やがって!
こいつ、プロだろうがよ! 卑怯じゃねえか!」
「お前、ほんと声でか。後から襲わせようとしたくせに。
被害者面すんな。
お前は特に念入りにやってやるよ」
中尾に近付こうとすると、木瀬が後からかけてきて、
俺の肩に手を置いた。
「大野、こいつは俺にやらせてくれないか?」
「お前、前にやられたんだろ?
ビビんないでやれるか?」
「きつい思いしてきたのは、
こいつに借りを返すためだ。
やれる。絶対にやれる」
「そうか。中尾、お前にチャンスをやろう。
木瀬と勝負しろ。お前が勝ったら、このまま帰ってやる」
中尾は、木瀬をチラリと見て、脂汗をかきながら、笑った。
「ほんとだな? 木瀬をやれば、見逃してくれるんだな?」
「ごちゃごちゃ言ってると、俺がお前を潰すぞ。
やるのか、やらねえのか、はっきりしろ」
「やる。やるに決まってる。へへへ。こんな楽な仕事で、
見逃してもらえるならありがてえ」
木瀬と中尾が殴り合いをはじめ、俺は近くに突っ立ってる奴を手招きする。
「椅子」
「椅子? いや、ないけど」
俺はそいつの腹に前蹴りを入れる。
腹を押さえて蹲る奴の左耳を掴み、顔をあげさせる。
「お前に椅子になれっつってんだ。
使えねえ奴だ。寝てろ」
膝蹴りを顎に当てて、その男を倒し。
恐れおののく男の一人に手招きする。
「はい! ただいま!」
俺に手招きされた奴は、すぐに四つ這いになった。
俺はそいつの背中に腰を下ろす。
「あーあ。まるでガキの喧嘩だな。
まあ、一月そこらで、空手が使えるわけはないが」
「そ、そうすね」
俺は四つ這いになっている奴の頭を殴る。
「椅子は、しゃべるな。お前らなんかと話したくもない」
側に立っている奴らの一人が、ぽつりとつぶやいた。
「こえー。これが三鷹の鬼姫か」
俺が睨むと、そいつは押し黙り下を向いた。
「何が、鬼姫だ。勝手に変な名前つけんな。
俺の話を他人にするときは、大野奈津美様って言え。
今度その名で呼んでみろ。膝砕くぞ」
中尾の取り巻きは、恐怖で固まっている。
よし、これなら、木瀬の邪魔をしようなどという奴は出てこないだろう。
木瀬と中尾は、いつの間にか取っ組み合いになっていて、
地面を転げ、相手の頭を打ち付けたり、手を振り回して顔を叩いたりしている。
乳酸が溜まってきたのか、どちらとも動きが鈍い。
そんな状態が、5分も続くと、木瀬が上になり、連続で鉄槌を落としだした。
最初は抵抗していた中尾の動きが止まり、殴られるに任せている。
俺は、木瀬に歩み寄って、木瀬の振り上げた手を掴んだ。




