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おやじ彼女  作者: ponta
天下無双
556/570

団欒

「おーおー、甲子園のヒーロー様のお通りだぁ。

 おー、コラ、木瀬! 何無視してんだ?

 中尾さんにまた、締められてえのかよ?」


「……。家に帰る途中だ。通してくれ」


男は木瀬の胸倉を掴み、黄色い歯を見せる。


「そのでけえ態度はなんだつってんだ!」


「気に障ったなら謝る。この通りだ」


木瀬が頭を下げると、男は手を放して、ニヤッと笑った。


「へっ。そうやって大人しくしときゃいいんだよ。

 お前はもう、野球できねえんだからよー。

 お前から野球とったら、俺らと変わんねえ。

 そうだろうがよー」


こいつらをどうしたものかと、しばし考えていると、

昇君が、吠えた。


「お前らと、兄ちゃんが一緒なわけあるか!

 兄ちゃんはなあ、野球ができなくなっても、

 勉強頑張って、合格したんだぞ!

 お前らみたいな嫌われ者と一緒にするな!」


「あー? なんか気持ち悪い生き物が、述べてるぞー。

 お前ら、何言ってるかわかるかー?

 誰か通訳してくれやー」


男が後の仲間に声をかけると、仲間はうす笑いを浮かべる。


木瀬は、下を向いたまま真っ赤な顔になった。


「今の取り消せ。俺のことはいい。弟は馬鹿にすんな」


男が木瀬の頬を、ぺたぺたと軽くたたく。


「なんだあ? 生意気に。中尾さんに締められたいのかぁ?」


木瀬が顔をあげて、男を睨む。

俺は木瀬の肩をポンポンと叩いて、前にでた。


「大野、これは俺の問題だ」


「いいから、いいから。こんばんは、お兄さん」


男は、怪訝な顔をしたが、すぐにでれっとした顔になった。


「おっ、彼女いいねえ。こんな根性無し止めて、俺と付き合えよ。

 いい目見させてやんぜえ」


「頭悪そうな面しやがって。お前、俺のこと知らないの?」


男は目を白黒させてから、真っ赤な顔になった。


「なんだと! このアマ!」


俺が右のハイキックを当てると、男はそのまま前のめりに倒れた。


俺は、たむろしている男たちの元へ、笑顔で近づく。


「はーい。それじゃお兄さん方の中で、私のこと知ってる人いる?」


端に座って、煙草を咥えた奴が、俺を指差す。


「こいつ、大野奈津美だ!」


俺はそいつの顔面に前蹴りを入れ、ひっくり返らせてから、

腹に踵蹴りを落とした。


「大野奈津美? お前みたいなチンピラが、呼び捨てか?」


男たちは、恐怖で固まっている。

俺は横にいる奴に、笑顔を向ける。


「さて、あなたは答えられるよね? 私、誰だか知ってる?」


「大野奈津美さんです……」


俺はそいつの側頭部に軽くキックを入れた。


「大野奈津美様だろうが! ボケ! お前ら正座しろ」


男たちは、下を向いたまま駐車場に正座する。


「な、なんなんすか? 俺らは何もしてないのに」


俺はそいつの顔を軽く撫でてから、

そいつの顔面を蹴り飛ばした。


「勝手にしゃべるな。

 お前らの頭は、中尾ってのか?」


正座している一人が、震えながら頷く。


「よし、ならそいつに伝えろ。今日の22時に、木瀬の家まで迎えよこせってな。

 抵抗してもいいし、降参してもいい。

 抵抗するなら、できるだけ、人数集めて凶器揃えろよ。

 ただし、逃げやがったら、どんな手を使ってでも、お前ら潰すからな。

 俺がその気になれば、三鷹水産の連中、集められるのは知ってるな?」


男は震えながらも、大きく頷く。


「わかったようだな。そこで寝てる奴ら連れて消えろ。

 いますぐに」


倒れた奴らを、男たちは担いで、一目散に逃げていった。


「どうすんだよ?! 中尾の手下は、20人はいるんだぞ!

 殺されるぞ!」


「20人? たったそれだけか。しょーもなー。

 この場にいた奴ら、全員、病院送りにしてやればよかったよ」


「しょーもないって……。いや、お前の化物じみた強さなら、

 どうとでもなるのか」


「木瀬、前に奴らと揉めたのか?」


「ああ。中尾ってのは、中学の同級生なんだが、

 高2の秋に、10人ぐらいから、袋叩きにされたよ。

 野球ができるぐらいで生意気だって言われてな。

 それから、昇のこともからかってきやがるんだ」


「そっか。まあ、まかせとけ。ああいう奴らの扱いは慣れてる」


「はぁー。情けなあ。女に頼る羽目になるとは」


「落ち込むなよ。俺に勝てる奴探す方が大変だよ?」


「ははは。違いねえ」


表通りから側道に入り、しばらく歩くと、バットでボールを打つ音が響いてきた。

中学校のグラウンドのようだ。ナイター照明が点けられ、部活に汗を流している。


木瀬に気付いた野球部員たちが、帽子を脱いで挨拶する。


「チワー」

「チワっす」

「チワ!」


木瀬は、片手を上げて、いいからとジェスチャーし、

練習を再開した中学生たちを羨ましそうに見る。


「大野さん、兄ちゃんは中学の時、九州大会で優勝したんだよ。

 エースで4番で、すごかったんだから」


「へー。木瀬君、昔のことあんまり話してくれないの。

 ありがとね。昇君」


木瀬は、悲しそうな顔で、無理に笑顔を作る。


「昔からさー、野球だけは上手かったんだよ。

 小学校3年で、レギュラーだったし、中学の時も1年からクリーンナップだった。

 2年じゃエースだったし。高校も入学してすぐにエースで、5番打ってたよ」


「甲子園に出たんだろ? 本当にすごかったんだな」


「あははは。それが今じゃ、キャッチボールすらできないってね。

 超高校級とか言われて、調子に乗ってたら、この様だよ。

 今じゃ、地元の不良に頭下げてる情けない男さ」


「そうか。でも、今日からは頭下げなくていいぞ。

 この大野奈津美様に、任せときな」


「ははは。ほんと情けねえなあ。

 サクッと強くなりたいけど、いまだに手を骨折してる上島さんにさえ、

 手も足もでない」


ほどなくして、木瀬の家についた。

平屋で、結構年数の経っている風だ。

同じような平屋が、10軒程並んでいる。


「ぼろくて、驚いたろ?

 プロに行けてりゃ、こんな借家でれてたんだけどな」


木瀬が玄関を開けると、カレーの芳ばしい臭いが漂ってきた。


「ただいまー。母さん、友達一緒だから」


木瀬は慣れた手つきで、昇君を玄関に置かれていた車椅子に載せる。


廊下の突き当りの引き戸が空き、木瀬のお母さんが顔を覗かせた。


「いらっしゃい。……、って友達って女の子じゃないの?!」


お母さんは、満面の笑みで、近付いてきて、靴をまだ脱いでいない俺の手を引き、

奥へ行こうとする。


「綺麗ねえ、同級生? まあ、肌がすべすべねえ。

 二人はどこまでいってるの? ただの友達ってわけじゃないわよね?」


うわーっ。テンションたけえ。

母親って、なぜ異性の友人を連れてくるとテンションたかくなるんだろ?


「空手部で、ご一緒させていただいていまして」


「空手? まあ、あなたこの手、どうしたの?

 傷だらけじゃないの? こんなに綺麗な肌してるのに、

 もったいないわあ」


木瀬が、やれやれといった風で、昇君の車いすを押しながら、ダイニングの方へ

やってきた。


「母さん、あれだよ。あれ。年末のテレビ観ただろ? 驚いてたやつ」


「うっそー?! この娘が? ああ、ほんとだわ。この娘だわ。

 信じられない。こんな細い腕で、山みたいな大男倒しちゃうんだ。

 また、試合するんでしょう? 怖いわねえ。怪我したら、大変よー」


「ええ、そうなんですけど、お母さん、あれって筋書があるんですよ。

 じゃないと、私みたいな体重で、ヘビー級になんか勝てないです」


「そうなの? そうよね、そうよねー」


木瀬が渋い顔で、食卓にスプーンを並べだす。


「母さん、こいつ平気で嘘つくから。信じなくていいよ」


お母さんが、きょとんとした顔になり、ケタケタと笑いだす。


「あははは。あなた面白い娘ねえ。祐希が、明るくなったの、

 きっとあなたのおかげね」


それから、しばらく食事と会話を楽しんでいると、22時近くになり、

インターホンが鳴らされた。

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