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おやじ彼女  作者: ponta
天下無双
554/570

記者会見

「実はね、君のために噛ませ犬を用意してるんだ。

 見た目は、体も大きいし、素人よりは遥かに強いのは確かだ。

 だが、引退して5年近くにもなり、その間は実践経験がない。君の相手に相応しいと思う。

 君に簡単に負けてもらっては困るから、こちらも最初からそのつもりだったよ」


「それは誰?」


吉井が指差した方を見ると、髭面でいかにも凶暴そうな大男が座っていた。

吉井の言うように、雰囲気がない。安パイだ。


「よさそうな相手ですね。見栄えしそう。確か、どこかのマイナー団体でチャンピオンだった人ですよね?

 でも、私がやりたいのは、

 ボルガノフさんなんですよ。お願いできます?」


「ダメダメ! 何を言ってるんだ!

 一回戦で君が消えてもらったら困る」


「ボルガノフとやると、私が負けるとでも?

あーあ、つまんないなあ。サインまだしてないし、

 帰ろうかな」


ブレイブの試合は、先に仮契約を結んでおいて、

パフォーマンスとして、記者会見の場にいき、記者たちの目の前で、

契約書にサインするのが習わしとなっている。


既に光臨会としては、契約を結んでいるので、出場を辞退すると、

それなりのペナルティーはあるのだが、そこは知らないことにしておいた方が、

よいだろう。


「わかったわかった。君には負けたよ。

 言う通りにしようじゃないか」


「ほんとですか? ありがとうございます」


ほどなくして、ルール説明が終わり、記者会見場へ移動していると、

ボルガノフが横にきて、呟いた。


「ニホンゴ、スコシワカリマス。ジュウドウヲヤッテイマシタ」


ボルガノフは俺を見下ろしながら、ニヤッと笑う。

俺も微笑み返し、ボルガノフの背中を軽くたたいた。


良い筋肉の付き方をしている。堅いだけの見せる筋肉じゃない。

しなやかで、パワーがある。理想的な肉体だ。

それでいて、今は迫ってくるような気を感じない。

こいつ、強いぞ。


記者会見場に行くと、契約書とペンを渡された。

24名の選手がサインしだして、記者たちに契約書を見せる。

一斉にフラッシュが炊かれる。


眩しい。視界が奪われる。

技の中に、こういったものを組み込めれば、目くらましには最適かも。


選手たちが再び座ると、壁に掛けられていた幕が落とされ、

トーナメント表が姿を現した。


俺の名前を確認していて、思わず声が出た。


「何?!」


吉井を睨むと、吉井はしてやったりといった涼しい顔をしている。


「大野選手、厳正な抽選の結果ですので、

 クレームはご遠慮いただきたい」


記者たちから笑いが漏れる。


この狸親父め。

ボルガノフとは、準々決勝までいかないと当たらない。

一回戦は、体がでかいだけの木偶の坊で、

二回戦は、ブラジリアン柔術で、寝技の得意なアーセンになっていた。

一回戦、byeのものもいるが、俺は一回戦から。

つまりは、予選からということか。


一回戦は、噛ませ犬だから、俺を二回戦で負かせるつもりらしい。


俺がボコボコにやられるのは、批判がきそうだから、

締め落とされるか、間接決められてギブアップさせるつもりってか。

この野郎。是が非でも、勝ち上がってやるよ。


俺がわざと殺気を放つと、選手たちはビクッと体を震わせ、俺を驚いた目で見た。


「吉井さん、私、頑張りますね」


俺が射抜くような視線を向けると、吉井は顔を引き攣らせながら、

無理に笑顔を作った。


「大野さんは、初の女性出場者として、大いに頑張ってもらいたいと思っています。

 もっとも、出場者は、ヘビー級の猛者揃い。一回戦突破も至難の技ではありますが」


「そうですね。皆さん強そうだから、一回戦で消えちゃいそう。

 そうならないように全力を尽くします」


「では、質問に移りましょう。質問のある方は、挙手をお願いします」


一斉に手があがる。

おっ。空手マガジンの高木の顔もみえる。

仕事熱心だねえ。


さて、目的も果たしたと言ったら果たしたし、

後は、時間まで大人しくしとくかね。


枝毛を探していると、隣の木村に肩を揺すられた。


「んだよ?」


木村が俺に耳打ちしてくる。


「磯野さん、質問振られてますよ」


「めんどいなあ」


正面を向くと、記者たちが俺に注目していた。

ありゃ。いつの間にか空手マガジンの高木が立っている。


「すみません。ちょっと考え事していたもので。

 もう一度、質問お願いできますか?」


高木はにこりと笑って、質問を繰り返した。


「では、もう一度。今回の試合も、体重差がある相手ばかりです。

 私は、大野さんが、武術の本質を示そうとしているのではないかと

 思うようになりましてね。大野さんは、体重が無く、体が細い。

 その大野さんが、大男を倒すことは武道の本質を体現しているのではないかと」


まーた。小難しいこと言ってやがるよ。

この人、いい大学でてんだろうなあ。

物事を難しく考え過ぎだって。


「えっと、そんな大それたことは考えたことありません。

 伊藤さんや木村さんがどう考えているかわかりませんけど。

 体重が軽いという意味では、木村さんも一緒の立場です。

 木村さんに聞かれた方がいいと思いますよ」


マイクを木村に渡そうとすると、高木が少し声を荒げた。


「僕は! ……、僕は、君に聞いてるんだ」


高木はまっすぐな目で俺を見ている。

気迫を感じる。

この姿勢の者に対して、はぐらかすのは失礼か。


「前も高木さんに、似たようなことを聞かれましたね。

 答えになっているかわかりませんが、私の考えというか、

 思いを少しお話します。私は強くなりたい。

 体重が重いとか、軽いとか、身長が高いとか低いとか、

 年齢が上だとか下だとか、男だとか女だとか関係なくね」


「地上最強を目指すというのか?

 その体で」


「ええ、そうです。目指すは天下無双。

 別にトーナメントで勝ちたいってわけじゃありませんよ。

見ての通りの体です。長期戦には向いてないのはわかってます。

 私は一対一で戦って、誰であろうと勝ちたい。

 トーナメント戦にでておいて、矛盾してますけどね」


「その年で、よくぞそこまで……。

 いや、これこそが武道の本質か」


「なーんて、偉そうに言ってますけど、

 全部、山下師範の受け売りですよ」

 

「さすがは、山下総帥の愛弟子といったところだね。

 差しあたって、一回戦は、どう戦うつもりかな? 

 引退して随分たつけど、ハードパンチャーなのは

 変わりない」

 

「あら。私の手の内をこんなところで、さらそうとするなんて、

 高木さんは、どっちの味方なんですか?」

 

「え、いや、そういうつもりでは……」


「正々堂々と戦うだけですよ。

 空手着の着用を認めてもらったことだし」

 

「空手着? いや、それは」


「ちょっと、長いんじゃないの?」

「空手マガジンさん、ここは空手の試合じゃないんだよ?」

「譲れよー。時間あんだからさー」


他の記者たちが不満の声を漏らしだす。

吉井が、高木の質問を打ち切り、その後も30分程、記者会見は続いた。

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