交渉
「サポータ類の着用は認めますが、事前にチェックを」
「はい。質問いいですか?」
俺は手を挙げた。周りの選手が俺に注目する。
先ほど、リザーバーを倒したことで、血走った眼で俺を見る者もいる。
「大野選手、質問をどうぞ」
「服装なんですけど、私は空手着を着てもいいでしょうか?」
「構いませんが、寝技ありということは、理解されていますか?」
審判団の責任者が、不安そうな顔で俺を見る。
さては、空手は、転がせば何とかなると思ってる部類の人間だな。
「ええ、わかっています。目つき、金的以外はありなんですよね?」
「そこまでわかってらっしゃるなら、公式な回答をしましょう。
空手着は可です。少し公式な立場を離れて発言させていただくと、
掴まれる可能性は、低くした方がいいように思います。
特に、あなたは女性だ」
「ご忠告ありがとうございます。
ですが、年末の試合とかみたいに露出が多いコスチュームだと、
ネットとかに出回って、嫌なんです。
私、こう見えて、年頃の女ですので」
「わかりました。では、大野さんは空手着の着用を認めます」
「ありがとうございます。それを聞いて安心しました」
俺の発言と審判長の発言を、外国選手の隣に座っている者が通訳しているのを
確認して、俺は続ける。
「もう一つ、よろしいでしょうか?」
「はい。どうぞ」
「目つきは、ダメと明確に書いてありますので、貫手はダメというのはわかるのですが、
目打ちはOKですか? 指入れは?」
審判長は、ぎょっとした顔つきになる。
周りの奴らのプレッシャーが高まっていく。
「どうなんですか?」
「それは、目を攻撃するとおっしゃってるんですか?
そんな危険な行為認められるわけがない」
「何も目を潰すと言ってるんじゃありません。
偶然当たった場合は、どうなんだろう?
グラウンドから逃げようとして、偶然指が目に入ったらどうなんだろう?
と思っただけです」
「君は、そういう行為をするというのか? そんな危険な真似をするものは、
出場資格を取り消すよ!」
「そうですかー。それは困りましたね。主催者の方も困るんじゃないかなあ。
ブレイブの試合って、ちょっとマンネリで、視聴率下がってきてるんですよね?
だから、話題作りに私を呼んだ。違いますか?」
審判長が、唇を噛んで俺を睨む。
俺は、涼しい顔で、受け流す。
「何も目を狙うって宣言してるわけじゃありません。
偶然当たったら、どうなるか? って聞いてるだけです。
そんな怖い顔しないでくださいよー」
「き、君という人は……」
審判長が真っ赤な顔になり、言葉を飲み込むと、
説明側の端にいた男が声をあげた。
統括プロデューサーの吉井だ。
「大野選手、それは偶然の出来事ならどうなるか? という仮定の話なんですね?」
「ええ、そうです。目玉なんてこんなちっこいし、
狙う練習なんてしたことないですよ」
「わかりました。その場合は、試合はそのまま続行です。
減点などもありません」
「そうなんですね。過激なルールですねー。
現代版、パンクラチオンって感じ。
当然、噛みつきもありなんですよね?」
「なっ?! 噛みつきまでするつもりか!」
「冗談ですよ。冗談。そんなことするわけありません。でも目打ちはOKなんですね」
こいつも、総合プロデューサーとかってかっこつけてる割には、
素人だな。目つきが、このレベルの奴らにあたるとでも思ってるのかね?
普通でも、目は反射的に守ろうとする。
それが、極限まで鍛えたこいつらなら、なおさらだ。
この女は目突きにくるという心理的なプレッシャーをフェイントに使わせてもらうだけだ。
「ふーっ。さすが光臨会だ。一筋縄ではいかんか。
腹を割って話そうじゃないか。
今回の目玉は、君だ。君のために、福岡の会場を押さえ、
ファイトマネーもはずんだ。まだ、不服があるのかね?」
吉井は会場の者たちに手を顔の前で振って、ジャスチャーする。
「さて、これでここから先は、通訳はされない。
日本人選手は、光臨会だけ。後はこちらのスタッフだけだ。
腹を割って話そうじゃないか」
「ふん。話がわかるじゃないか。
じゃあ、率直に言おう。
トーナメントの組合せ、こちらの要望を入れてもらえるか?
木村の件とは別に」
吉井の顔がほころぶ。
こういう類の奴らは、金への執着がすごいから、
ファイトマネーの増額を言い出すとでもと思ってたんだろうな。
それぐらいなら、簡単だとでも言いたげだ。




