参戦
1週間経ち、抜糸後に退院となった。
山下師範に迎えに来てもらい、そのまま記者会見場へと向かう。
「本当に出るのか?」
「はい。せっかくの機会ですので」
「私がお前なら、今回は見合わせるがなあ。
あんな化物どもと退院したばかりで、やり合おうなどと、
正気沙汰とは思えん」
「それは、山下師範の本心ですか?」
「何だその人を揶揄うような顔は。たしかに、私が後10、
いや、20若ければ、戦いたいと思っただろうが」
「山下師範の全盛期なら、軽く優勝されますよ。
山下師範の技を受け継いだ私たちがそれを証明します」
「美味いこと言って、話を逸らそうとするな」
「押忍、申し訳ありません」
「それにしても、お前たち3人が、こんなに世間に注目されるようになるなど、
昔は、想像もできなかった。頼もしく育ってくれたことが、
私は一番うれしいよ」
「押忍。ご期待にそえるよう、全力を尽くします」
会場に着くと、木村と伊藤は既に来ていた。
伊藤はTシャツに短パンで、木村はジーパン姿だ。
こいつらときたら、本当に常識がない。
『押忍!』
「押忍じゃねえ! お前らの恰好は何なんだ?
山下師範と俺を見習え! ちゃんとスーツ着てんだろうが!」
伊藤は、さも口うるさいと言わんばかりの態度で、
耳をほじり、木村に至っては、自販機でジュースを買い出した。
俺は木村に跳び蹴りをかまし、伊藤の頭をはたいた。
「真面目に聞け!」
「いってえ。今度は俺が入院したらどうするんですか?」
「うんうん。木村の言う通りっすよ。あと2週間で試合だってのに」
「だぁーっ!! 真面目に聞けって言ってんだ!
ぶちのめすぞ!
いいか? 光臨会の威光を示す場なんだ。
それをなんだお前らの服装は?
プラプラと遊びに行くんじゃないんだぞ」
木村がペットボトルを振りながら、
答えた。
「大丈夫ですって。磯野さんの去年の試合観て、
うちの人間は、普通じゃないって思われてますから。
余裕の態度見せてやった方が、相手が恐れますよ」
「相手が恐れますってお前なあ!」
伊藤が、顎でしゃくる方を観ると、出場者の一人が俺を、
緊張した面持ちで見ていた。
「ほんとだ。俺見て、びびってやがる。
信じられん」
「信じられんって、何言ってんすか?
俺らは優勝候補だそうですよ。
この中の誰かが優勝するんじゃないかって、
もっぱらの噂です」
「ふーん。三連覇してるのがいるんじゃないの?」
「ええ。ですが、やっこさんもそろそろ年齢的限界じゃないかって。
38ですから」
「げっ。俺が男のままだったら、同じぐらいじゃん。
それで限界とかって何か複雑だなあ」
しばし、四人で話していると、バネのありそうな、
黒人が近付いてきた。
俺が背を向けていると、そいつは尻を撫でてきた。
「oh! prety girl! 日本語少しわかりまーす」
俺は振り返り、伊藤に聞く。
「伊藤、こいつも出場者か?」
「いえ。去年は出てましたが、今回はリザーブですね。
光臨会で3枠もとってるから、あぶれたんでしょう」
「そっか。なら、ぶちのめしても問題ないな」
俺は首を回し、笑顔を作る。
「Are you ready?」
「what?」
「寝てろ」
右の真正の突きを放つと、そいつはスウェーで避けた。
俺はすぐさま二段の跳び膝蹴りをだし、左膝をブロックさせ、右の膝を顎にあてる。
よろめいたところに、頭から飛び込んで鼻面に頭突きを当て倒した。
「弱っ! 気楽にケツ触ってくるから、強いのかと思ったら何だこいつ?」
余裕の表情を作り、周囲にアピールする。
不意打ちで真正の突きを出したのに、避けやがった。
しかも、跳び膝蹴りにも対応した。
さすが、トップレベルの奴は、一筋縄じゃいかん。
まともにやり合うのは得策じゃない。
俺流でいくか。
スタッフがバタバタと走ってきて、俺は後の始末を任せ、
他の選手と共にルール確認の場へむかった。




