入院
病院に搬送後、即、入院となった。
処置が終わり、入院手続きをしている間に、時間ができたので、
典子経由で、高田たちの助命を渡光源に頼んでみた。
高田の指3本を渡したが、どう判断するも後は、あっちで勝手にやってくれたらいい。
娘の由美子は、素人だから許されるだろうが、ほかの奴らはヤクザだ。
それなりの制裁を受けるだろう。
刺し傷はそう深くなく、腰骨でナイフが止まっていたため、
1週間もすれば傷は塞がるとのことだったが、
駆けつけてくれた山下師範に、こっぴどく怒られ、大人しく病院のベッドで横になっていた。
刺されたのは俺のミスだ。高田一人と思って、後への注意をしていなかった。
女の力で刺されたから、こんなもので済んだが、刺してきたのが男なら、
骨を貫通し、今頃、死んでいたかもしれない。
そろそろ消灯時間になろうかというときに、病室のドアが開かれ、大平が姿を現した。
大平は、ベッドの脇まで来ると、頭を下げた。
「ごめん。あのさ」
俺は読んでいた文庫本を脇によけ、体を起こす。
「あつつつっ。縫ったばかりのところが痛てえや。
大平、もうちょっと寄れ」
大平は、奈津美が起きていないことがわかったようで、
少し顔を強張らせて、顔が俺と同じ高さになるように屈んだ。
俺は裏拳を叩き込む
大平はよろめいて、床に右手をついた。
「これは、奈津美に黙っていた罰だ。
お前は、若い。他に好きな女ができて、
奈津美を捨てようが、俺はどうも思わん。
若い時は、往々にしてそういうことはある。
でもな、今回のような大事なことを隠すことは許さん。
お前が、高田に刺されて死んだりしたら、
奈津美は、何もできなかったと悔やみ、もがき苦しむだろう。
お前は何でも抱え込み過ぎだ。
今回のことだって、会長さんに相談したら、
もっとうまくやってくれただろう。
お前も18過ぎてんだから、社会のルールってもんを勉強しな」
「すみません……」
「まあ、いくつになっても親を頼るような、なよなよした馬鹿よりは、
よっぽどましだがな。
さて、説教は終わりだ。奈津美が、お前と話したいとよ」
すっと男の感覚が消えていく。
二つ呼吸すると私は、完全に女になっていた。
大平君がそばにいる。この事実に、私の胸は熱くなる。
大平君を思う気持ちが後から後から、湧き上がってくる。
私はしばし、大平君を見つめる。
「大平君、私のこと好き?」
「大野、ごめんな、俺」
「大平君、私のこと愛してる?」
「どうしていいのか、わからなくて、
それに大野に迷惑かけたくなくて」
「答えて。私のこと好き? 嫌い?」
「好きだよ」
私は安堵して、涙を流してしまう。
よかった。本当によかった。
大平君を失わずに済んだ。
「大平君、私はね、あなたが好き。
あなたが私をただの性欲のはけ口と考えていても、
あなたが、私からお金を巻き上げるようなことをしても、
どんなことをされても、あなたを好きでいる自信がある。
だから、お願い側にいて」
「いる。ずっと大野と居る」
「その言葉、信じていい?
大平君、女はね、愛のためなら死ねるの。
あなたがいない人生は、もう考えられない。
私ね、磯野正がこの体にいなければ、
大平君とあの女の人を、間違いなくやっていたわ。
磯野正が抑えてくれたおかげで、何とかそんな真似しないですんだ」
「ほんとごめん。辛い思いさせて。
今度から、こういうことあったら相談するよ」
「ありがとう。じゃあ、こっちにきて」
大平君がベッドに腰かけ、私は大平君の首に手を回して、
キスした。
「大平君、私って重い女でしょ? ごめんね。こんなんで」
「俺だって、重いよ。階級は日本語でいったら軽いだけどね。ははは」
大平君の視線が、さっきから私の胸元に行っていることに気付く。
私はノーブラで、いまはパジャマを着ている。
パジャマの隙間から覗く、私の素肌が気になっているみたい。
「大平君、見たい?」
私はそう言って、少し前かがみになる。
大平君は、ぎょっとして、首を振った。
「なわけないだろ? ここ病室だし。
捨て子の俺でも、それぐらいの分別あるよ」
「いいよ。そんなウソ言わなくても。
男の子が、エッチなことばかり考えてるって、
わかってるから。さっきも言ったけど、
大平君が、望むなら、私はいつだって応えるわ」
「え? いや、ここじゃちょっと、まずいような……。
じゃあ、ちょっとだけいい?」
「うん。いいよ」
私がボタンをはずし、パジャマの前をはだけると、
大平君が、私の胸に顔を近づけてきた。
ドキドキと胸が高鳴る。大平君の顔も上気している。
その時、ガチャリを病室のドアが開けられ、
笑顔の看護士さんが入ってきた。
「はーい。消灯の時間ですよー。って、あんたたち何やってるの!!!」
大平君が、焦りながら言い訳を始める。
「いや、違うんです。違うんです。
汗……、そう、汗を拭こうとしてたんです!
決して、やらしいことをしようとしていたわけじゃないんです!」
「そんな言い訳通用すると思ってんの?!
刺されて入院してる彼女を襲おうなんて、
君は獣か!」
「いや、あの、その、さいならー!」
大平君が、病室から逃げ出し、看護士さんが追いかけて行く。
静かな病室に、二人の足音が響き、私は病室の明かりを消し、
幸せな気分で、眠りに落ちた。




