反撃
運転手と助手席の男が、俺が寝ていると思って、好き勝手な会話をする。
「兄貴、上玉じゃないっすか。俺もいいすか?」
「構わねえよ。撮影が終わったら、好きにしな。
後は頼むぞ。俺は、叔父貴に報告してくる」
「任せといてくださいよ。空手つかいだか何だか知らないが、
ひーひー言わせてやりますよ」
車に元からいた男と、店で俺を背負った男がバトンタッチし、
俺は、車にいた男に背負われて、マンションの一室に運ばれた。
部屋はガランとしていて、部屋の四隅にライトが設置され、
三脚にのったカメラがあるほかは、男が5人いるだけだった。
「さあ、お前ら、お待ちかねの時間がきたぞ!
馬鹿! なんで服きてやがる! 男の脱ぐとこみて、楽しいわけねえだろうが!
さっさと脱げ!」
俺は床に寝かされ、男たちが服を脱ぎ始める。
俺が、立ち上がって伸びをすると、一人スーツを着て、カメラをいじっていた男が、
驚きの声を上げた。
「な?! 起きてるじゃねえか??」
「こんばんはー。なんで服脱いでるんですか?
ストリップか何か?」
服を脱ごうとしていた男が俺に飛びかかってくる。
俺は左の突きを男の顔面にいれ、続いて股間を蹴り上げて倒す。
「いいですねー。この指輪チタン製なんです。
硬くていい感じ。これ付けて殴れば、私の力でも、頬骨が折れるみたい。
ほら、この人見てみてください。ぶっくり腫れてきてるでしょ?」
男たちの顔色が変わる。
「何してる! 早くその女、捕まえろ!」
掴みかかってきた男の手を屈んで避け、
伸びあがって顎に頭突きする。
右のフックを叩きこもうとしたら、そいつは血しぶきを上げ、そのまま倒れた。
残った3人は、恐怖の色がありありと浮かぶ。
俺は腰のケースから特殊警棒を出し、振って伸ばしてから、
くるくると回す。
「あれれ? 私がこういう女だって聞かされてなかった?
ただ、女子大生を犯せとしか言われてなかったのかな?
かわいそうねえ。気持ちいいことしにきて、痛い目見るなんて」
「じょ、冗談じゃねえ!」
半裸の男二人ちが、脱兎のごとく逃げ出していく。
「待て! こら、待て!」
スーツ姿の男は、一人残され、俺が微笑みかけると、
ズボンに刺していた短刀を抜いた。
「ざけやがって! 筋もん舐めたら、どうなるかわかってんだろうな!!」
「はーん? お前、手が震えてるよ。
怖いんだろ? ここに転がってる奴らみたいになるのが。
こいつなんて、顎割れてるよ。飯が食えないどころか、
まともにしゃべれない。唾を飲みこむだけで、脳天まで痛みが走るだろうね」
「おおおお!!」
男が短刀を腰で構え、俺に突っ込んでくる。
俺は縮地を使って避け、男の手に警棒を振り下ろした。
「ぎゃっ!」
男は悲鳴をあげて、短刀を落とす。
俺は警棒で、男の肩や腕を殴りつける。
「ぐえっ。ぎゃっ」
しばらく殴ると、男は蹲って、震えている。
俺は男の頭を蹴り、地べたに這わせる。
「さて。そろそろ素直になれるかな?
誰だ? 誰に命令された?」
男は、口から血をペッと吐き出した。
「ちきしょう。何が楽な仕事だよ……」
俺は安全靴の爪先を、男の口に入れ、グイッと踏んだ。
「んー!」
「答えねえなら、このまま歯抜けになってもらう。
言う気になったか?」
男が、涙目でうんうんと頷く。
俺は足を、男の口から抜いた。
「げえっ。げふっ。た、高田さんだ。元直参の高田組長だよ」
「ああ。あのおっさんか。俺のおかげで、破門を解かれたってのに、
何を逆恨みしてんだか。あ、由美子って高田の娘?
そういや、同じ苗字だ。そかそか。嬉しくなってくるねえ」
俺は男の口を思い切り蹴って、失神させてから、
由美子に連れられていった店に戻った。
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店の前で、困った。インターホン的な物がない。
そういえば、由美子はカードのようなものを左にあるリーダーに翳していた。
どうしたものかと、思案していると、自動ドアがあき、
ホステスと客が出てきた。
俺は、するりと横をすり抜けて、中へと入る。
「あ、ちょっと。ダメよ、あなた!」
自動ドアが閉まると、黒服が俺の方へ寄ってきた。
「お客様、当店は会員制ですので」
黒服が、肩に置こうとした手をかわし、俺は奥へと進む。
どうやら、まだ高田由美子は、飲んでいるらしい。
「おい! ちょっと待て!」
後から掴んできた男の手の勢いに逆らわず、俺は反転して、
男の鼻面に頭突きする。
顔を押さえて動きを止めた男にハイキックを入れ、倒す。
ホステスの悲鳴が、店に響き渡り、黒服やボーイが集まってくる。
「ごめんなさい! 大丈夫ですか?!」
俺は倒れた男を気遣うふりをして、踏み込んで一番近い奴に、
逆突きを当て、ソファーを跳びこえ、奥へと走る。
右から迫ってきた奴の側頭部にエンピを入れて倒し、
続けてきた奴の股間を蹴り上げる。
男たちが、動きを止める。暗くて顔は見えないが、
恐怖を感じたか。
「邪魔しないでもらえるかな? 奥にいる高田由美子に話があるだけだ」
男たちが動けないのを確認して、俺は足早に、高田由美子の元へと近付いた。
照明に照らされた高田由美子は、驚きの目で俺を見る。
「間抜けな顔してるな。俺が戻ってきたのが、意外だったか?」
「あんた、どうして」
「それは、酔った振りしてたことか?
それとも、ヤクザ含めた3人を血だるまにしてやったことか?」
高田由美子が、スマホを取り出し、どこかにかける。
「木崎どうなってるの? 大野」
俺はスマホを取り上げて、耳にあてる。
「お嬢さん、どうしたんですか? 大野奈津美なら、今頃」
「こんばんは。大野奈津美です」
「てめえ! 拓哉はどうした?!」
「拓哉? 一人だけスーツ着てたやつか?
タコ殴りにしてから、歯を砕いてやったよ。
あいつ、総入れ歯だよ。かわいそうになあ。
うひひひ」
「極道に、舐めた口きいてると、どうなるかわかってるよなあ?」
「えっと、木崎さんって言いましたっけ?」
「それがどうした?」
「私が、渡光源さんと仲良くさせてもらってるのは、ご存知?」
「お前、本家筋の人間か……」
「知らなかったんですね。なら、内緒にしてあげます。
その代わり、今、どこにいるのか教えてください。
できるなら、高田さんも呼んでもらえると助かります」
「……。本家の名前、出せばビビるとでも思ったか?
ヤクザは舐められたらおしまいよ。
ケジメは取らせてもらうぜ!」
「ケジメねえ。だから、こっちから行ってやるって言ってんだ。
それから、俺の目の前には、高田由美子がいることをお忘れなく。
俺ってさあ、残酷だよ。嘘だと思うなら、俺を連れ込んだマンションに行ってみなって。
死にかけてるのが、何人か転がってるから」
「ここまで馬鹿にしてくれたんだ。死んでも後悔せんよな?」
「だから、行くって言ってんだろ? お前、頭悪いなあ。
場所言えよ。それとも、高田由美子が、総入れ歯になった姿見たいか?」
「わかった。箱崎ふ頭に来い。ついたら、連絡しろ。
詳細を教える。お嬢さんには、指一本触れんじゃねえぞ?
わかったな?」
「お前ねえ、ガタガタ言える立場か?
俺の気が変わって、渡光源に連絡したり、警察に行ったら、
お前ら終わりだよ?」
「どういう女だ。肝が据わってやがる」
「なんていっても、空手日本一らしいですから。うふふふ」
「チッ。早く来い。待ってるぞ」
俺は電話を切って、高田由美子に投げ渡す。
「さーてと。箱崎ふ頭まで、ドライブしようか?」
「なんで、私が! ふざけないで!」
「あははは。お前、面白いね」
俺は高田由美子の顔を軽く殴った。
高田由美子は、何が起こったのかわかっていないのか、
流れ出た鼻血を、指ですくって見る。
殴られ慣れていない人間は、大抵こういう反応をする。




