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おやじ彼女  作者: ponta
天下無双
539/570

勝負

バイトが終わりに、飲み会に誘われた。


店長の高木は、今日だけで8台も成約したと上機嫌で、

近所の焼き鳥屋に連れて行ってくれるという。


焼き鳥屋までは、女子社員が案内してくれた。


「お疲れ様。すごいよね。あなた目当てに20人以上きたもの」


典子が俺の頬を突く。


「店の外には、その倍はいましたけどね。奈津美が躊躇なくぶっ飛ばすから、

 びびって、入ってこなくなったけど。

 この娘、外見と中身はまるっきり違いますから。あははは」


「だってさームカつくじゃん。いきなり写真撮られたりするとさー」


テンションの高い典子に比べ、お姉さんはどこか元気がない。


「そういえば、自己紹介まだだったわね。藤田裕子っていうの。よろしくね」


「藤田さんは、おいくつ何ですか?」


「25歳。入社3年目にして、成績最下位。あーあ。私、この仕事向いてないのかなあ。

 あなたはいいよねー。美人で、有名人で、おまけに強くて。

 天は二物を与えずっていうけど、あたたには二つも三つも与えられてるって感じ。

 あ、嫌味じゃないのよ? 本当に、そう思ってるだけ。

 私の実家って、自動車の修理工場なんだぁ。だから、車に関係する仕事に就きたくて、

 今の会社に入ったんだけど、売れないんだよねえ。一台も売れない月が、ここのところ続いちゃって。

 上期頑張って、ダメだったら、辞めちゃおうかな。

 あ、ごめんなさいね。ほんとに。私、初対面なのに何言ってんだろ」


「そんなに卑下することないと思いますよ。

 藤田さん、車のことすごく詳しいじゃないですか。

 さっきだって、タイヤのサイズとか、サスペンションのことさらりと答えてたし。

 入社して2~3年で、結果だそうなんて無理ですよ。

 自分なりの営業スタイルを模索するときですもん。

 私だって、大口の仕事取れたのは、5年経ってからだったかな」


「あなた大学生よね?」


「あ、いや、光臨会に通ってる人から聞いたんです。

 だいたい皆さん、同じこと言いますよ」


「そっか。ごめんね。気を使わせちゃって」


店に着くと、奥の座敷に通された。

座敷には、例のやり手の営業マンが座っていた。


「遅い! 遅いぞ、藤田! 遅いのは仕事だけにしろ!」


「すみません。課長。ちょっと話がはずんでしまって……」


藤田は、萎縮した態度になる。こいつが苦手のようだ。


俺と典子が座ると、男は店員さんを呼んで、勝手に注文を始めた。


「生4つ、あ、未成年だったね。生2つと、ウーロン茶2つ。

 それと串の盛り合わせに、唐揚げと、もろきゅう、刺身盛り合わせね。

 とりあえず」


こいつ、俺たちの好みとか全く聞かないんだな。

アレルギーとかあったら、どうするつもりなんだろう。


「いやー、それにしても、大野さん様様だね。

 今日みたいに、活気があったのいつ以来だろうな」


「課長さんは、今日だけで何台売ったんですか?」


「課長さんは止めてくれよ。吉田っていう名前があるんだから。

 今日は5台かな。なかなか下が育ってくれなくてね。

 私が頑張るしかないんだよ。この藤田なんかも、

 仕事覚えが遅くてさー。ほんと、平成生まれは使えないって見本だよ」


典子が俺に目で合図してくる。なんか、こいつ嫌な感じだな。


注文した品を待っている内に、店長の高木がやってきた。


「やあやあ、すまんすまん」


吉田が、破顔して座布団を高木に勧める。


「店長、滑り込みセーフです。

 注文したばっかですよ」


「お? そうなの? もろきゅうは注文してくれた?」


「私が忘れるわけないじゃないですか? おーい! 生、もういっちょ!」


吉田は、さっきまでの横柄な態度が消え、へこへこと腰が低い。

サラリーマンの常ではあるが、上には弱く、下には強いらしい。


「いやー、しかし、大野さんに来てもらってよかったよー。

 決算後は、大概売上下がるのにさあ。平日っていうのに、午後だけで8件成約だからね。

 しかも、検討中10件! いやー、ほんと事件ですよ。これは!」


「お役に立ててよかったです。実は、CMの話もいただいていたのですが、

 受けておけばよかったですね。そしたら、もっと貢献できたかもしれないのに」


「ほ?! CM? そりゃまたすごいねえ。芸能人みたいだ」


典子がくすっと笑う。


「この娘、ほんと有名ですから。芸能事務所からも誘われているのに、

 空手の時間がなくなるって、断るんですよ。信じられます~?」


高木と吉田は、手を叩いて笑う。

ほどなくして、飲み物がでてきて、飲み会は始まった。


30分も経っただろうか。酔いの回った吉田は、藤田に説教しだした。


「お前は、なんで売れないのか考えろ! この給料泥棒が!

 平成生まれは、使えねえんだよなあ」


藤田は、目に涙を溜め、泣くのを必死に堪える。


「おっ? 泣くか、泣いたら済むと思ってんのか? まったく、これだから女はさあ」


高木はというと、さっきからへらへら笑っていて、吉田の暴言を止めようともしない。

俺は持っていたグラスをテーブルに叩きつけた。


吉田が少し驚いた顔をして、俺を見る。


「どったの? 奈津美ちゃんは、ウーロン茶じゃなくて、ウーロンハイ飲んでたかな?」


「お前な、いい加減にしろよ。女がなんだって? 平成生まれがなんだって?

 偉そうなことばっかいいやがって、このハイエナ野郎が!!」


「な、なんだあ? 学生不在が偉そうに!!」


「はっ。お前な、課長なんだろ? 課長の職務にはな、部下の育成も入ってんだよ!

 嫌味いって、部下いじめがお前の仕事か? どうりで、売れそうな客見ると横取りするはずだよなあ」


「お前に何がわかる! 社会にでたこともない学生風情が!」


「社会人がえらいのかよ? ええ、おい!」


「当たり前だ! 親の脛齧りが! ちょっとチヤホヤされたからって勘違いするな!!

 仕事は甘いもんじゃないんだ!」


「甘いもんじゃない? なら、俺がお前より車売ったらどうするよ?」


「馬鹿らしい。売れるわけないだろう。第一、売れなかったら君はどうするつもりだ?」


「売れなかったら、ショールームでストリップしてやるよ」


俺はそういって、ウエストに手をやり、くびれを強調する。

吉田は、俺の体を見て、ごくりと唾をのみ込んだ。


「ふん。騙そうたって、そうはいかんぞ。無理やりストリップさせたなんて、なったら大事になる」


「約束してやる。俺は無理やりされたなんて絶対言わない。

 でも、俺はお前より売るけどね」


「私は、これでも九州で2位に入ったこともある人間だよ?

 素人に負けるわけがない」


「なら、負けたら藤田さんに土下座して謝れ。あ、それと一人中途社員を採用してもらおう」


「中途?」


吉田が、少し思案する顔になる。

藤田が俺に耳打ちしてきた。


「ダメ。絶対にダメよ」


「大丈夫。こんな下種に負けないって。俺の人気みたでしょ?

 あいつら殴ってでも、買わせればいいって」


「ダメだって! 来週、タクシー会社の車両の入れ替えがあるの!

 吉田課長の古くからの知り合いなんだよ!」


「タクシー会社? 何台?」


「に、20台……」


「うおっ。マジ?」


吉田はいやらしく笑い、舌なめずりをした。


「バカな娘だ。止めてという気になったか?

 私も鬼じゃない。いますぐここで、手をついて謝れば、

 許してやるよ。生意気な口をきいてすみませんでしたって

 謝りなさい」


吉田は腕を組み、踏ん反り返る。

その顔を見ていると、更にムカムカしてきた。


「誰が謝るか! お前も忘れんなよ。負けたら土下座と、中途採用だからな」


「いいだろう。そこまで言うなら、受けて立つ! 

 店長いいですね?」


いつの間にか、居眠りしていた高木が、びくっとして目を開け、

あいまいな返事をした。


「あ、ああ。いいんじゃない?」


「よーし、決まった! 4月31日まで売った台数で勝負だ!

 ここにいる全員が、承認だからな。

 女子大生のストリップを楽しみにしてるよ!」


「俺もあんたの土下座みるの楽しみにしてるぜ!」


こうして、俺は吉田と勝負をすることになった。


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