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おやじ彼女  作者: ponta
天下無双
538/570

バイト

更衣室で、典子とコスチュームに着替える。


コスチュームは、ビニール素材の白の上下で、

身に着けると、モーターショーのコンパニオンといった感じだ。


「さーて稼ぎますかねえ」


俺がそう言って、伸びをすると、典子が俺の臍を触ってきた。


「女子大生の肌は最高ねー」


「ちょと典子、気持ちいいって」


典子とじゃれ合いながら、更衣室を出ると、通路に太った男が鼻息荒く立っていた。

なんか妙な感じだな。ここの社員だろうが、痴漢のそれと印象が似ている。


男は、ただ俺たちを舐めるように見ているだけで、何も言わない。

典子は、男に恐怖を覚えたのか、俺の後ろに隠れる。


「こんにちは。通していただけますか?」


「あ、ああ。うん。どうぞどうぞ」


男は営業スマイルを作る。

おかしな雰囲気は消えている。女子大生を見て、興奮しただけだろうか。


ショールームへ行くと、店長が待っていた。


「今日は金曜だから、人少ないと思うけど、よろしく頼むよ」


「はい!」


俺たちの役目は、見積書まで作った客、つまり買う可能性が高い奴らに、

くじを引いてもらって、景品を渡すといったものだ。


しかし、来たお客はオイル交換とか、故障とかばかりで、

車の購入を検討するようなものは、現れない。


1時間もすると、典子は、だいぶ退屈してきたようで、さっきから枝毛探しに夢中だ。

バイト中に、露骨に鍛錬をするわけにもいかないし、確かに時間がもったいないな。


「あー、ひまー。こんなことなら、バイトなんてしなけりゃよかったよー」


「バイトしようって言ったの、典子でしょ? お金もらうんだし、我慢しようよ」


「だってさー。奈津美と一緒なら、アイドルみたいに囲まれるかと思ったんだもん。

 写真なんて、バシバシ撮られてさー」

 

「そりゃ、ここでバイトしてるなんて、誰も知らないもん。

 それに、変なところとられて、ネットにアップされたりして、気持ち悪いよ?」

 

「でもさあー。アイドル気分に浸りたいじゃない?

 奈津美の知り合いに拡散してもらえばよかった」

 

「拡散? そうか、宣伝すればいいんだよね。こういうのは、メガネ君が得意だよ。

 連絡してみよう」

 

小森の携帯にかけると、ワンコールで小森はでた。


「あ、メガネ君。ちょっとお願いがあるんだけど」


『はいはい。何でしょう。この知の小森にできることなら何なりと』


「実はね、典子とミニスカートはいて、景品渡すバイトしてるんだけど、

 お客がこなくて、暇しててさー。メガネ君、うまいこと宣伝してくれない?」

 

『ほうほう。それは大仕事ですね。場所はどこですか?』


「唐町のとこの日産わかる? 地下鉄1号線の方の」


『わかります。しかし、宣伝ですか。それは手間も費用もかかりそうですね。

 奈津美さんのミニスカ姿送ってくれたら、考えないでもないですよ』


「相変わらず、変態だねえ。ミニスカ姿でもナース姿でも今度こっちに帰ってきたときに、

 生で見せてあげるからさ。お願い」

 

『そこまで言われたら、断れませんね。というか、今電話している間に、ツイッターにあげときました。

 すごい勢いでリツィートされてます』

 

「さっすが、仕事早いね。ありがと。助かったよ」


スマホをポケットに直し、典子に説明しようとしていると、

急ブレーキの音がして、バタバタとショールームにおっさんが入ってきた。


首から大きなカメラを下げている。

男は突然カメラを構えると、俺のことを撮影しだした。


どうしたものかと迷っていると、社員の女性が男に声をかけた。


「あの、お客様。そういったことは、ちょっと……」


男は女性を一睨みすると、腕章を女性に見せた。

腕章には、"撮影中、声かけ厳禁"と書いてある。


女性社員が、困惑していると男はまた撮影を再開する。


殴り倒すと店に迷惑がかかりそうだな。

なるべく穏便に済ますか。


「お店の迷惑になりますので、やめてもらえますか?」


「おー! 生の声聞いちゃったよ。気にしないで」


男は俺にまとわりつき、次々とシャッターを切る。

典子が男性の肩を押した。


「止めろって言ってるじゃん!」


「なんだと、年下のくせにー!」


「年下も年上もないでしょ?! あんたばっかじゃないの?」


男が典子につかみかかろうとしたので、俺はその間に入る。


「わかりました。撮らせてあげますから、あと5枚とったら帰ってもらえますか?」


「じゃあ、正拳突きのポーズしてもらえる?

 それから、横蹴りをしてるところをいい?」


「わかりました。こうですか?」


俺は右の正拳突きを男の腹に入れた。

男は腹を押さえ、苦しそうな表情になる。


俺は男の耳元に口を寄せる。


「大人しくしてやってりゃつけ上がりやがって。

 顔潰される前に消えろ。いますぐにだ」


男は這うようにして、入り口前まで行くと、

捨て台詞を吐いた。


「君が、こんな暴力女だったとはな! 失望したよ!

 誰が、こんな店で買うか!」


男が、車で走り去ると、女性社員が俺のところにきて、

手を握った。


「すごい! すごい! 空手チャンピオンってホントなんだ!」


「失礼しました。もっと早くに叩き出せばよかったですね。

 次から同じようなのが来たら、有無を言わさず叩き出しますから」


「かっこいい! 私、断然ファンになっちゅう!」


「恐れ入ります」


その時、挙動不審な二人組が店に入ってきた。

おどおどしていて、みすぼらしい。


店内をきょろきょろして、俺を見つけ、

満面の笑みになった。


早速か。まあ、種を撒いちゃったの俺だけど。


俺は笑顔で、男たちに近付きながら肩を回す。


「どうもー。どっちから、ぶっ飛ばされたい?」


メガネをかけたデブが、あわてて否定するように手を振った。


「違います! 僕ら大野さんのために、車を買おうと思ってるんです!」


「嘘つくなら、もっとマシな嘘つきましょうか?

 話すのめんどいから、あなたからぶっ飛ばしますね」


「ちょちょちょ! ほんとです、ほんと! 貯金だって、ほら!」


男が預金通帳を渡してきたので、俺は受け取ってちらりとみた。

意外だ。200万もある。これなら、十分だ。


俺は店員の女性を手招きし、男たちを席に案内する。


「おほほほ。失礼しました。さぁ、こちらへどうぞ」


男たちは、顔を見合わせ安堵の声をあげる。


「驚いたー。いきなり戦闘モードですからねぇ。

 拙者生きた心地がしませんでしたぞ」


「御意。奈津美スマッシュを食らうところでしたな。

 それはそれで、僥倖ではありますが」


なんか変な奴らだな。まあ、買ってくれるならいいだろう。

お姉さんの成績になるだろうし。


お姉さんが、笑顔で駆け寄ってこようとすると、

長身の男が、さっと間に入った。

40代半ばぐらいだろうか。いかにもやり手の営業マンといった感じだ。


お姉さんは、あっと声を上げ、肩を落として受付付近に戻っていった。


営業マンは、すらすらと車の説明を行い、男たちから何事か聞くと、

俺と典子の方へ、立ちより、にこっと笑った。


「ありがとう。成立しそうだよ。気持ち悪いだろうけど、笑顔で接してやってね」


営業マンは、事務所の方へと足早にさっていく。

見積書を作りにいったのだろう。


男二人がクジを引きにやってきたので、俺と典子はやっと仕事にありつくことができた。

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