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おやじ彼女  作者: ponta
天下無双
536/570

秘訣

図書館に行くと、典子がノートパソコンをなにやら扱っていた。


「典子、お待たせ」


「遅いよー」


「ごめんごめん。ところで、これ典子の?」


「うん。入学祝いに、パパが買ってくれたの」


典子は、俺の方を見ながら、キーボードを操作する。


「すごっ。何それ?!」


周りの人が、こちらを見たので、俺はぺこりと頭を下げ、

声のボリュームを落とした。


「典子、いつパソコン覚えたの? すごいじゃない」


「すごいって、ただのタッチタイピングよ。

 それに私、そんなに速くないし。

 ブログやってるから、ちょこっと打てるだけ。

 今だって、ネットを見てただけだし。

 テザリングじゃ、やっぱ遅いわ」


なんかよくわからんが、典子はいろいろとパソコンに

詳しいらしい。男だった時、あんまりわかんなかったんだよなあ。

キーボード打つのなんて、右手の人差し指一本でやってたし。

見積書作ったりは、派遣社員に任せてたもんな。

大学生になったことだし、パソコンを覚える必要があるな。


「今度、パソコン買いに行くから、付き合ってよ」


「意外ね。奈津美がパソコンなんて。

 奈津美は空手で、食べて行くんでしょ?」


「普通に就職もしたいじゃない?

 今は、パソコンできないと仕事になんないしさあ」


「ふーん。そうなんだ。じゃあ、行きましょうか」


「うん。行こう」


典子と大学を出て、大通りに入ってから、地下鉄で一駅行ったところに、

目的のカーディーラーはあった。


ガラス張りのショールーム前には、車が数台並べられている。

俺は、セダンが好きなんだが、ジューク、セレナ、ノートといった売れ筋の

車種が並べられていて、セダンはショールーム内に、スカイラインが一台あるだけだった。


「フーガとかないんだね。やっぱセダンは人気ないのかぁ」


「フーガ?」


「日産の高級セダンだよ」


「セダン?」


「ああいう形の車ね」


「ふーん。あれが、フーガっていうんだ」


「あれは、スカイライン」


「難しいなあ。なんでもいいよ」


女って車興味ない人多いんだよなあ。

俺も女が前面に出たときは、興味ないし。

運転すると楽しいのに。


ショールームに入り、カウンターにいた女性に典子が声をかける。


「バイトの面接にきたんですけど」


「お待ちしてましたよ。こちらへどうぞ」


衝立奥の事務所に通されると、奥から40代半ばの禿げ上がった

男性がやってきた。


「どうもどうも。店長の高木です。 

 二人ともかわいいねー。じゃあ、こっちにいいかな?」


隅の打ち合わせ机の席に、典子と並んで座る。

高木が、書類を手に、対面に座った。


「えっと、仕事の内容はわかってるかな?

 今週末から2週間、クジを引いてもらって、プレゼントするイベントやるんだけど、

 商品を渡したり、当たりーっ! って盛り上げてほしいんだよ。

 二人とも大学生だよね。平日もあるんだけど、大丈夫かな?」


「ええ。まだ授業始まってないですから」


「そうか。そりゃーよかった。君が渡さんで、こっちが大野さんだね。

 いやー、ほんと美人だね。女優さんとかじゃないよね?

 なんか、見たことある気がするなあ」


典子が悪戯っぽく笑う。


「この娘、有名人ですから。うふふ」


「え? そうなの? やっぱ、女優さんの卵か何か?」


俺は、軽く首を振る。


「いえ、空手です」


「あーっ! そうだ! 大野奈津美って、あの大野奈津美かー!」


高木が大声出して、立ち上がったので、事務所にいた他の人間が、

何事かとこちらを見る。


「あはは。店長さん、面白い方ですね」


「いやー、びっくりした。そうだった。福岡に住んでるんだったよね。

 こんな娘が、はー。自分の目が信じられんよ」


「いきなり暴れたりしないですから、ご安心ください」


「んー。この細い体でねえ。あれかい? なんて言うか、特殊な打ち方があるのかい?

 あんな大男を、一撃だもんねえ」


「たまたまですよ。たまたま」


「時給1500円で、来てもらうってなんか、悪い気がするなあ」


「そんなことないですよー。典子と時給がすごくいいって話を、さっきしてたところなんですから」


「じゃあ、金曜日からきてもらえるかな?」


「はい。よろしくお願いします」


それから、仕事の詳しい内容を聞き、帰宅した。


**************************************


数日が経ち、金曜となった。


空手部は、日々出席者が減っていき、

10人程になった。

このぐらいの人数なら、教え易いだろう。


履修届を出すため、大ホールに入ると、

紀藤が近寄ってきた。


「おはようございます! 押忍!」


「おはよう。張り切ってるみたいだね」


紀藤の両拳は皮が剥け、赤くなっている。

朝から巻き藁を叩いていたのだろう。


「押忍。自分は何やっても、どんくさいですから」


「あなた見てると、昔を思い出すわ」


紀藤は、戸惑いの表情を見せる。


「俺……、私もね、最初はそうだったよ。

 技はなかなか覚えられなかったし、

 年上の奴らには、アヒル空手ってばかにされてた。

 でも、俺はそれこそ寝る間も惜しんで、技を繰り返したよ。

 山下師範に言われたことを頭の中で反芻し、

 気付いたら、朝になってたとか、庭で気絶してることなんかもあった」


「大野さんがですか? 大野さんの動きは、とても同じ人間とは思えない。

 そんなセンスの塊のようなあなたが?」


「俺にはセンスなんて、なかったよ。

 あ、いけね。どうも空手のことになると、女を忘れてしまう。

大学生になったら、周りには女性らしいって思われようと、

 ひそかに目標立ててたのにさあ。

 いいか、紀藤。人より覚えが悪いなら、人の倍時間をかけろ。

 今勝てない相手なら、1年後、5年後に倒すことを考えろ。

 お前がやっていた駅伝なんかは、生まれ持った才能がものをいうだろう。

 白筋肉、赤筋肉の割合だったり、ヘモグロビンの含有量といったものが、

 大きく影響するからな。

 だが、空手は違うぞ。今、お前は自主的に鍛錬している。

 鍛錬は、嘘をつかない。お前を裏切ることはない。

 やがて、拳は固くなり、凶器となる。

 お前の五感は研ぎ澄まされ、相手の動きが見えるようになってくる」


「押忍! 頑張ります!」


「良い返事だ。というわけで、空手モード終わりな。

 こんな言葉遣いだと、変に思われちまう」


「押忍。普通に話します。あ、あの、そういえば先輩方が教科書を譲ってくれるそうですぅ……」


「何? その変な話し方?」


「いや、その、女性とあまり話す機会がないから、緊張しちゃって」


「そっか。私でよかったら、いくらでも練習台になるよ。

 気楽に話しかけて」


「押忍。しかし、その、大野さんは美人だから、よけい、その」


紀藤は、ひょろひょろしててスタイルがよくないし、ニキビ面だから、

女には無縁だったんだろうな。

空手とかやってて、モテる奴ってあんまいないもんなあ。

木村はモテルけど、あいつ変わってるし。


まてよ。入学したての今なら、俺の中身を知らない女子も多い。

上手くやれば、女を集めて、空手部と合コンさせられる。

よーし、モテないこいつらのために、人肌脱いでやるか。


「ガリ、喜べ。モテないお前らのために、俺が合コン企画してやる」


「合コン? 自分は別に……」


「お前なあ、そんなだからダメなんだよ。

 いいか、よく聞け。大学ってところは、学業だけじゃなく、

 社会にでるための準備の場なんだ。

 社会にでて困らないように、女性への免疫つけとけ」


「お、押忍」


紀藤と話していると、木瀬がやってきた。いつの間にか、

髪がすごく短くなっている。

相変わらず茶髪ではあるが。


木瀬は、椅子にどかりと座り、乱暴にバッグを置いた。


「オッス」


挨拶はするものの、前を向いていて、俺たちの方は向かない。

紀藤が困った顔で、話しかける。


「木瀬君、大野さんにそういう態度は」


「何でだよ? 部以外は、普通に接していいんだろ?」


「そうは、言ってもやっぱり挨拶はちゃんとしないと」


木瀬が俺をチラリとみる。


「そうなん?」


「ううん。構わないよ。そういったのは私だし。

 髪切って、根本まで染め直したの? おしゃれだね」


「地毛だよ。悪いかよ」


「そうなんだ。じゃあ、今日から茶髪って呼ぶね。

 よろしくね、茶髪君」


「お前、舐めてると……。止めた。どうあがいたって、

 お前には勝てない」


「茶髪って言われるの、嫌なんだ。紀藤くんは、ガリって呼んでも、

 なんのリアクションもなく、返事してくれたけど」


木瀬が苦笑いする。


「ガリに茶髪って何の捻りもないじゃないか。

 ちょっとは、考えろよ」


「メンドクサイもん。やだよ。あ、私のことは、

 超絶美女、大野奈津美様って呼んでいいよ」


「あー、もう突っ込むのもメンドくせえ。

 わーったよ。超絶美女、大野奈津美様、今日も稽古つけてください。

 よろしくお願いします」


「ん。素直でよろしい。ところで、典子みてない?

 今日からバイトなんだけどなあ。

 あ、私、夕方までバイトだから、部員の人たちに伝えといて」


「なっ?! バイトだあ? お前が教えてくれるって言うから、

 俺はなあ!」


「お前、まだわからないのか。俺が教えたところで、

 強くなれるわけじゃない。己の意思で強くなるしかないんだよ。

 5時にはバイトが終わる。5時半には道場に行けるだろう。

 それまでの時間、ぼさーっとしてようと、帰ろうと俺は何も言わないよ」


「わーったよ。やるよ。やってやるよ!

 ぶっ倒れるまで、体を苛めぬいてやる」


「そうそう。基本技を100本ずつでもやったら、時間なんてあっという間だよ」


「いいねえ。強いと。きついことなんて、もうやんなくても、いいもんなあ」


「仕方ないなあ。お前らだけ、特別な。

 強くなる秘訣教えてやる」


木瀬と紀藤が身を乗り出してくる。


「マジか?」

「お、教えてください!」


二人は俺の話に身を乗り出した。

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