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おやじ彼女  作者: ponta
天下無双
535/570

稽古

「うおー!」


首藤が棒を振り下ろす。

上島は下がらず、上段受けした。


"ボギッ"


鈍い音が道場に響き、上島の前腕があらぬ方向を向く。

上島は、顔をしかめつつ、逆突きを首藤の顔面に当てた。


首藤は殴り倒され、びくびくと痙攣する。


「あくっ……。つう」


上島は、うめき声をあげると、折れた左手を見てから、

倒れた首藤の傍まで行き、右足を上げた。


「そこまで!」


俺の言葉に、上島は脂汗を顔に浮かべながら、振り向く。


「見事。上島、腕が治ったら、昇段試験を受けろ。

 俺が推薦してやる」


「押忍!」


「病院へ行け」


上島が左手を押さえ、道場を出ようと俺の横を通る。

俺は肩をポンと叩き、よくやったと耳打ちした。

上島は、笑顔を見せ、道場を出て行った。


「頼みの綱の首藤さんは、やられちゃいましたね。

 さてさて、さっきの話、覚えてますか?」


残った男たちは、小刻みに震えている。


「か、勘弁してくれ。もう手は出さない」


男の一人が、少し震えた声で懇願してくる。


「信用できないなあ。じゃあ、端から膝を砕かれたいか、拳を潰されたいか、

 選んでください」


端の男は、返答せずただ震え、涙を流す。


「あらら。泣いちゃったよ。この人。情けなあ。

 じゃあ、次の人、選んで」


二番目の奴は、びくっと震え、その場に土下座する。


「許してください! お願いします! お願いします!」


他の奴らもそいつを真似して、土下座する。


「あらら。土下座ですかー。

 じゃあ、私も鬼じゃないから、指を折ることで許してあげます」


俺は土下座している奴らの前で屈み、笑顔で一人の手を取ろうとすると、

そいつは、後ろ手にして、顔を振る。


「ははは。冗談ですよ。冗談。そんな残酷なことするわけないじゃないですか。

 じゃあ、お帰りください。練習の邪魔ですから」


男たちは、顔を見合わせ、出ていいものかと迷っている。

俺は立ち上がり、柔軟体操を始めながら、横目で男たちを見る。


「あ、そうそう。私のことは襲ってもらって構いませんよ。

 そういうの大歓迎です。

 ただ、私以外にちょっかい出すと、泣いても、土下座しても許してあげませんから、

 そのつもりで。ほら、さっさとそこの倒れてる人たち連れて、出て行ってください」


男たちが、倒れた奴らを連れて道場から出ていくと、部員達が、歓声をあげた。


「すげえ!」

「痺れました!」

「やるぞー! 光臨会は最強だ!」


「はいはい。静かに静かに。じゃあ、時間ないから始めますよ。

 ところで、昨日の練習の後、自主練した人は手をあげてください」


数人の手が上がる。

俺は軽く手を上げて、手を下げるようにジャスチャーする。


「では、いま手を上げなかった人は、グラウンドを100周してきてください。

 手を挙げた人は、今から基本技をやりましょう」


部員たちは、互いに顔を見合わせる。

一人の部員が、手をあげた。


「あの、質問よろしいでしょうか?」


「そういうのは、初日にしてくださいよー。

 まあ、いいわ。どうぞ」


「あの、自分たちは、上級生のしごきが嫌だったから、

 大野さんの教えを乞おうとしているわけでして、

 そのー」


「ああ、そうだったんですね。私はぬるい稽古が嫌で、

 私に教えてと言っているのかと思ってました。

 昨日も言いましたけど、やりたくない人はやらなくていいです。

 休みたい人もどうぞご自由に。

 ほら、グラウンドに行った行った。早く行かないと、夜までに帰れませんよ?」


部員たちのほとんどが、道場から出ていき、5人だけが残った。

ガリと茶髪の姿もある。

この二人は、ものになりそうだ。


「5人もいたのは意外です。では、始めましょう」


前屈立ちして、左右の上段回し受けをする。


「昨日は、ただ繰り返してもらいました。

 今日は、イメージをしっかりすること。

 相手の突きを流すイメージで」


『押忍!』


俺は上段回し受けを繰り返しながら、一人一人にアドバイスを送る。


「右端、名前は?」


「押忍! 佐々岡です!」


「右の受けがなってない。肩をもっとスムーズに。

 筋トレだけじゃなく、今日から柔軟を1時間以上やれ」


「押忍! ありがとうございます!」


「木瀬! お前は力を入れ過ぎだ! リラックス!」


「押忍!」


「紀藤! ふにゃふにゃするな! 力を抜けばいいってもんじゃない!」


「押忍! 失礼しました!」


「真中の後! 名前は?」


「押忍! 山下です!」


「はぁ? 部内で山下は名乗るな! 下の名前は?」


「押忍! 隆です!」


「隆、手首で受けようとするな! 肘に近い部分で受けるイメージだ!

 イメージ、イメージ、イメージ! 全員、数をこなすことに気を取られるな!

 相手の突きが当たれば、鼻は砕けるぞ! 蹴りが当たれば、失神する!

 常に防げたイメージを持て!」


『押忍!』


それから、小一時間ほどアドバイスを続け、この日の練習を切り上げた。

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