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おやじ彼女  作者: ponta
天下無双
534/570

試練

道場に入ると、なぜか1,2年生が正座していて、

10人程の集団と、上島、茶髪、ガリが対峙していた。


俺のことに気付いていないようなので、俺はそのまま成り行きを見守ることにした。


昨日、上島が倒した首藤が、がなり立てる。


「こんなことして、ただで済むと思ってるのか! 俺たちだけじゃねえ、OB全員がお前らの敵だぞ!

 これから、お前らは生き地獄が続く! 上島! 次期主将に指名してやった恩を忘れた、

 てめーは、入院ぐらいじゃ、すまさんぞ!」


首藤の後にいた奴らも、声をあげる。


「上島! 新入生の、それも女と、同期の俺ら、どっちとるんだよ!

 俺らは、仲間だろうが!」


後の奴らの中には、昨日、声をかけてきた奴の顔も見える。

どうやら、4年と3年がお礼参りにきているらしい。


「何と言われようと、俺は磯野さんについていく。

 お前らにタコ殴りにされようが、俺の意志はかわらん」


ガリが震えながら、目を剥く。


「だ、だいたい、あなた達が、ヤクザまがいのことをするからでしょうが!

 こ、光臨会は、間違ったことを許さない!」


首藤が、ガリをぎろりと睨む。


「一年坊主が、生意気いってくれるじゃねえか!」


茶髪が顔を強張らせて、口を開く。


「やったろうじゃねえか! こっちは3人、そっちは12人。

 これぐらい倒せなくて、何が空手だよ。

 何が強くなるだよ。やってやらあ!」


首藤のこめかみが、ぴくぴくと痙攣する。


「てめえら、全殺しだ!」


俺は、ぱちぱちと拍手する。


「よく言った。なかなか言えることじゃない。

 ここで正座してる奴らみたいに、強そうな相手には従う方が楽だからな。

 でも、ちょっと違うから訂正するよ。

 光臨会は、正義の味方じゃない。誰でも彼でも助けるわけじゃない。

 俺が助けるのは、仲間だけだ。他がどうなろうと、しったこっちゃない。

 だから、勝負に非情になれる。相手が死んでも構わないと技を振るっているからこそ、

 相手の骨を砕ける。

 そういうわけで、元空手部諸君、俺が来たからには、ただでは帰れないよ。

 俺は外見に似合わず残酷だぜぇ?」


首藤たちの顔に緊張が走り、男たちはそれぞれ、棒やナイフといった凶器を手に持った。

道場の空気が張り詰めたものになる。


「あはははは。えっと、誰か撮影してくれるか? 

 俺、たぶんこいつら、殺しちゃうと思うから。正当防衛の証拠になるように」


そういいながら、俺は道場奥へと無造作に歩く。


男の一人が、バットで殴りかかってくる。

俺は縮地で、バットを避け、カウンター気味に、右の貫手を男の喉に突き刺した。


「空手家が、素手の相手にバットで殴りかかるかあ。

 いいねえ、いいねえ。クズって、無茶していいから、嬉しいよ。

 ほら、かかってこい。人数が多いうちに、何とかしないとジリ貧だぞ」


ナイフを手にした奴が、突進してくる。

俺は跳び上がり、二段蹴りを顎に入れた。


男が倒れ、起き上がろうとしたので、

ナイフを持った右手首に踵蹴りを落とし砕く。


「ぎゃあああ!!」


俺の足を左手で掴んでどかそうとしたので、右足をあげ、顔に踵蹴りを当てる。


「ぐぎゃっ」


「おう、お前。俺、殺そうとしたんだ。これで、終わると思うなよ」


俺は男の右膝に踵蹴りといれて砕き、左ローを頭に当て、失神させた。


俺にかかってこようとしていた奴らが、恐怖の顔で後ずさりする。


「おいおい。まだ、二人しか倒してないだろ?

 まだ10人いるんだから、かかってこいよ。

 びびらずにさあ」


挑発しても、男たちはかかってこない。完全に、恐怖に支配されている。


「あーあ。つまんないなあ。首藤!」


首藤は、びくっと体を震わせる。


「……さん、でしたよね?」


「お、俺に手を出したら、OBがだまってないぞ!」


「びびった相手やっても楽しくないから、やりませんよ。

 ただ、上島さんはどうでしょうねえ」


「上島さん、紀藤君、木瀬君、この人たちが素手なら、勝てますか?」


上島は、こいつらの実力がわかっているはず。

さて、何と答えるか。


「押忍。一対一なら勝てますが、全員でかかられては、難しいと思います」


茶髪が、上島を非難する目で見る。


「やれる。やれるに決まってんだろ? こんな汚い奴らに負けてたまるか!」


「なるほど。紀藤君は?」


「ぼ、僕は、喧嘩はそもそもしたことがありません。

 でも、大野さんが行けと言われるならいきます」


「そう。さてと」


俺は傍観者を決め込んでいる正座をしたままの空手部員に語り掛ける。


「あなた達は、いつまでそうしてるの? あなた達が加勢すれば、状況は一変するでしょうに」


首藤が、驚きの声をあげる。


「なっ?! ふざけるな!」


「卑怯だって言いたいんですか? 武器もって、乗り込んできといて、偉そうにまあ。

 いまだって、私一人に集団でかかってきといて。

 じゃあ、こうしましょう。

 上島さんとあなたが、一対一で勝負して、勝ったらこのまま返してあげます。

 あなたが負けたら、どうしようかなあ。

 一人ずつ、膝を砕くか、拳を潰すか、自分で選んでもらおうかな。

 私は、そういうこと平気でやる人間だということは、もうおわかりですよね?」


3年の奴らは、青ざめた顔で、首藤に救いの目を向ける。


「く、狂ってやがる……」


「あら。知らなかったんですね。

 光臨会と事を構えると、面倒なことになるって」


俺は一番近くにいた三年に、跳び膝蹴りを当てて、倒す。


「もう、面倒だから全員やっちゃおっと」


「待て! やる、上島とやればいいんだな?

 そしたら、本当に無事に返してくれるんだな?」


「くどいなあ。私の気が変わらないうちに、さっさとやった方がいいですよ。

 そのぐらいの人数じゃ、私の敵じゃないってわかるでしょ?」


首藤は、手に持っていた棒を捨て、拳を握り構える。

上島は、オーソドックスな右構えで、眼光するどく、首藤を見据える。


やれやれ。素手じゃ、上島の敵じゃないだろ?

自分の実力ぐらいわかっとけや。


「首藤さん、棒持ったままでいいですよ」


「え?」


「棒持ったままでいいって、言ったんです」


首藤は、俺と上島を交互に見て、上島の動きを警戒しながら、棒を拾った。


「上島さん、私の仕打ち、酷だと思いますか?」


「いえ」


「なら、やれますね?」


「押忍!」


「首藤さん、戸惑っている場合じゃないですよ。

 あなたの勝敗に、後輩たちが無事に帰れるかがかかっているんです」


首藤が、覚悟を決めたのか、目を見開き身構えた。

上島は、大きく息を吐き、動かない。


武器を使った訓練を積んでいるものは別だが、

素人の場合は、武器を持たせた方が、攻撃が限定され、

戦いやすい。


問題は、平常心を保てるかどうかだ。

首藤が持っているのは、60cm程の棒だ。

成人男性の腕力で振り回したものが、当たれば骨折は免れない。


上島のことは、伊藤から聞いている。

技は申し分ないが、覚悟がないと。

痛さを恐れ、思い切りが足りず、そのせいで伸び悩んでいて、

昇段試験を受けさせてないとのことだった。


この恐怖に打ち勝った先に、一段上がった強さがある。

この試練を乗り越えれば、上島は一皮むける。


しかし、失敗すれば大怪我をするだろう。

そして、さらに痛みを恐れるようになり、空手をやめることになるかもしれない。


今まで、才能があっても、途中で空手を辞めた者を何人も見てきた。

鍛えれば、俺より強くなれるような者でも、痛かったり辛かったりということが、

我慢できず、辞めてしまう。


痛みは乗り越えることが難しい。痛みを恐れることは本能だ。

しかし、武道家は本能を抑え込むことが要求される。


俺は以前、骨が見えるまで巻き藁を突いていたことがあって、

山下師範に驚かれたことがある。


普通は、殴られればその痛みを恐れ、一度手ひどくやられた相手には、

恐怖を覚えるものだが、俺は逆に復讐に燃える。


こればかりは、教えてどうなるものでもない。

さて、上島の場合は、どうなるか。

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