オリエンテーション
次の日。
オリエンテーションをすり鉢状になった大ホールで受けていると、
隣に典子が座ってきた。
「おはよう。昨日、どこ行ってたのよ? 探したのに」
俺は法学部、典子は商学部だ。
入学前から一般教養は、なるべく一緒の講義をとろうと話していた。
4月からは皆、ばらばらになってしまった。
小森は、東京理科大学へ、橋本は福大、優子ちゃんは福岡女子大にそれぞれ進学。
なかなか気軽に集まるということは難しい。
美由と桂子は、九大に進学したので、同様だ。
「ごめんごめん。なんか、空手部に入ることになっちゃってさ」
「空手部? なんとかって道場行ってるじゃん。大学でも空手するわけ?」
「うん。なんだか流れで、そうなっちゃって。教えてくれってさ」
「いいんじゃない? 奈津美に教わったら、めちゃくちゃ強くなるでしょ。
でさ、話は変わるんだけどバイト一緒にしない?」
「バイト? 典子、お金あるのになんで?」
「そこは社会経験でしょう? ね、やろうよ。表通りの日産で、キャンペーンガール募集してるんだ」
「キャンペーンガール? 水着になんの? まだ、寒いよ?」
「それはレースクイーンでしょ? にこにこして景品配ってればいいみたいなの。
やろうよ。ね?」
「ふーん。わかったよ。面接とかはいつ?」
「それがね、今日なんだー。ちゃんと奈津美の分も申し込みしといたから」
「また勝手に、そういうことするー」
典子と面接のことを話していると、隣に紀藤がやってきた。
「押忍。今日もよろしくお願いします」
「おはよう。そんなに緊張しなくていいよ。同じ一年生なんだし」
「そういう訳にはいきません。ご指導いただいておりますから」
典子がからかうように笑う。
「あらあら。奈津美はもう下僕を作っちゃったわけ? 相変わらず悪女ですなー」
「そんなわけないじゃない。同じ一年生なんだよ? 紀藤君は、何学部?」
「押忍。文学部です」
「文学青年なんだ。へー」
その時、前の席に座っていたちょっとぽっちゃりした女性が、振り返った。
てっきり話がうるさいと注意されるのかと思ったら、女性は笑顔で、
話しかけてきた。
「うわー。感激ー。大野奈津美さんでしょ? 仲良くしようよー」
「え? 私? えっと。どうぞ、よろしく」
「そんな他人行儀なー。私、梅田香苗っていうのー。かなって呼んでね。
奈津美って呼んでいいでしょ?」
何だろうこの娘。初対面なのに、いやに馴れ馴れしい。
梅田の隣に座っていた女性が振り返り、同じように笑顔で話しかけてくる。
「ちょっと、カナ抜け駆けはずるいよー。うち、高田由美子。由美って呼んでね」
こういうのが、今の若者のやり方なのか? まあ、郷に入りては郷に従えというし、
合わせとくか。
俺が笑顔を作り、返答しようとすると、典子が話に割って入ってきた。
「ちょっと、気安いわね。何なのあんたたち?」
梅田と高田は、一瞬典子を見たが、また俺に話しかけてくる。
「仲良くなった記念に、お昼食べにいこうよ」
「賛成! ケンタいこう! ケンタ!」
典子が顔を真っ赤にして、机を叩いた。
途端に周囲の人間が、こちらを向く。
「ふざけんじゃないわよ! 馬鹿にしてん……」
立ち上がった典子が周囲の視線に気付き、黙って座った。
「あのさ、仲良くしようとしてくれるのは嬉しいんだけど、
今日は典子とバイトの面接に行くから、また今度ね」
「えー? 仕方ないなあ。次は絶対だよ。
それから、友達は選んだほうがいいと思うよ。ねえ、由美?」
「そうそ。TPOを考えなれない人間とかは特にねー」
典子は怒りに肩を震わせいる。
「そうだね。ありがと。ほら、説明してる人が、変な顔してるよ。
前向いたほうがいいよ?」
俺の言葉に、梅田と高田は典子を馬鹿にしたような顔で見た後に、
前をむいた。
俺は典子に耳打ちする。
「ちょっと変わってる人たちみたいだから、あんまり相手にしないほうがいいよ。
大学なんて広いんだから、そう顔合わせることもないって」
典子は鼻息荒く、前の二人を睨んでいたが、しばらくすると落ち着いてきた。
「そうね。馬鹿相手にいちいち腹立てるのも馬鹿らしいもんね」
「典子大人になったじゃん。前だったら、つかみかかってたところじゃない?」
「そりゃそうでしょ。なんていっても、女子大生だし」
オリエンテーションが終わり、生徒たちホールを出ていく中、
前の二人は、典子を鼻で笑って去っていった。
「なんなのほんと!」
「まあまあ。いいじゃん。あんなの相手にするの時間無駄だって」
「押忍。大野さん、道場に行きましょう」
「先行ってて。今から典子とランチだから」
「押忍。失礼します」
典子は駆け足で、ホールを出ていく紀藤をあきれ顔で見送る。
「奈津美は変なの引き寄せるよねー。さっきの二人組といい、
いまのもやし君といい」
「まあ、そういう星のもとに生まれたんだろうね。
さ、いこいこ。お腹すいたよ」
典子と大学を出て、西町商店街に向かうと、前から目つきの悪い集団が近付いてきた。
俺たちが避けようと、横にどくと先頭にいた奴が、俺の前に立ちふさがった。




