表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おやじ彼女  作者: ponta
天下無双
530/570

指導

「あなたは、行かないの? まあ、空手なんてきついばっかりだから、

 それが正解よ。遠慮せず帰りなさい」


「違うんです。僕、運動苦手だけど、何かの役に立てたらと思って」


メガネはかけていないものの、どことなく雰囲気が小森に似ている。


「そう。でも、空手部にマネージャなんていらないわ。

 自分のことは自分でするのが基本だし」


「いえ、空手部ではなく、あなたの役に立ちたいんです」


「あー、私の外見に釣られたわけね。

 止めといた方がいいわよ。私、狂ってるから」


「僕、格闘技が好きなんです。と言っても、見るのが専門ですけど。

 ボクシング、キック、レスリング、空手、柔道、今まで様々な格闘技を間近で

 見ましたが、あなたのような人は初めてです。

 スピード、破壊力、どれも桁違いだ。

 そして、美しい」


「美しいって、お前なあ。そういうことを真顔で言うんじゃないよ。

 聞いてるこっちが恥ずかしい。おっと、こっちが恥ずかしくなっちゃう」


「それです! その二面性! 矛盾したものをあなたから感じるんです。

 あなたから感じるオーラは、美女のそれと、猛々しい男性のものだ。

 僕はなんというか、そういうことに敏感なんです。

 あなたのような人は会ったことがない。どうして、そんな感じを受けるのか、

 僕は知りたい」


こいつ霊感があるのか。俺の魂が、普通ではないってことに気付いてるな。

仲間にしておくほうが得策か。


「わかったわ。じゃあ、いろいろ手伝ってもらっていい?」


「はい! 喜んで!」


「あなたお名前は?」


「野村実です! よろしくお願いします!」


「よろしくね。野村君。それじゃ、行きましょう」


校舎裏の道場に行くと、先に戻っていた部員たちが、

道着の襟を正して、待っていた。


俺は素足になり、道場に入る前に一礼してから、皆の前に進んだ。


「改めまして、大野奈津美です。さっき言った通り、私は指導の経験がほとんどありません。

 アドバイスを少しすることはあっても、人をじっくりみたことはありません。

 なので、指導ということではなく、いつもやっていることを一緒にやっていただくということで、

 よろしいでしょうか?」


『押忍!』


「いい返事ですね。稽古を始めるまえに、言っておきます。

 きつかったり、ついていけなくなったら好きに休憩してもらって構いません。

 また、都合が悪い日、来たくない日は、自由に休んでもらって構いません。

 全て自主性に任せます。

 ただし、これを教えてくれ、この練習をしたいといったことは一切認めません。

 私がやることと同じことを、黙ってやること。

 よろしいですか?」


『押忍!』


「では、始めましょう。今日は空手着を持ってきていないので、

 軽めにやります」


俺は三戦立ちから、左右の突きを出す。

部員たちも同じように、突きをだし、声をだす。


『せい!』


「私がいま、声を出しました?」


俺の言葉に、部員たちは戸惑いの色を見せる。


「では、いきます」


俺が左右の突きを出すと、部員たちも同じように出す。

俺は黙々と突きをだす。


道場には汗だまりができ、20分を過ぎたあたりから、

だんだんとついてこれないものが出てきた。

それから、更に30分。俺は突きを出し続けた。


俺が突きを出すのを止めると、大半の者はその場にへたりこむ。

俺の方を見て、三戦立ちを続けているものは、3人。


上島は、当たり前にしても、意外だったのは他は新入生2人だったことだ。


「へー。上島さんは、別にしても他の二人はよくついてこれたね。

 なんかやってた?」


がりがりの奴が、肩で息をしながら、答える。


「え、駅伝部にいました。

 でも、こんなきついの初めてです」


なるほど。長距離走で、肺活量が鍛えられているのか。


「そっちの彼は?」


「野球をやってた。はぁはぁ。うっぷ。吐きそう……」


「なるほどね。はい。休憩おわり。両足のつま先と踵をぴったりとつけて。

 で、こう蹴る。わかった? じゃあ、いくよ」


俺は、閉足立ちから、右前蹴りを出す。

三人とも真似するが、バランスを崩し、手をつく。


足を戻して、左前蹴りをだす。

上島は、何とか堪え、がりと茶髪もぐらつき片手をつきながら、

体勢を整える。


いいガッツだ。鍛えれば、こいつらものになるかも。

俺は蹴りのテンポをあげ、わざと三人がついていけない速度で、

左右の蹴りを出し続ける。

三人とも何とかついていこうとして、蹴りを止めない。


「いいね。そうだ。その調子! 限界を超えろ!

 吐きそうになったら、吐いていい。ぶっ倒れるまで、

 蹴りをだせ!」


『げぶっ!』


茶髪が戻し、腹を押さえて片膝をつく。

こいつは、ここまでか。

さて、あとの二人はどうかな?


がりは、苦しそうな顔をしながらも、蹴りを出し、

上島は必死の形相で、蹴りをだす。


そのまま、10分ほど続け、俺は蹴りを止めた。

二人は、床に大の字に倒れ、大きく腹を上下させる。


俺も肩で息をしながら、見学していた野村を手招きした。


「はい! 何でしょうか?」


「喉かわいたから、スポーツドリンク買ってきてくれない?

 えっと22人いるから、全員分ね」


俺が万札を渡すと、野村は喜んでかけていった。

自分のゲロを掃除し終わった茶髪が、青い顔できく。


「こんなきついことしないと強くなれない?

 いや、でも納得か」


「ん? 今の? あんなこと何時間やっても、強くなんかならないよ?」


「はぁ?! ならなんで、こんなきついことやらせんだよ!!」


「あら? 文句あるんだ。なら、帰っていいわよ。さようなら。ごきげんよう」


「ば、馬鹿にすんなよ! ちょっとかわいいからってなあ!

 やっていいことと悪いことがあるんだよ!!」


「んー。今日は初日だから、特別な。明日から、そういう質問したら叩き出すから。

 今みたいなことをしたら、体は鍛えられるよ。体を鍛えたからって強くはならないけど、

 強くなる基礎はできる。わかった?」


「意味わかんねえんだけど」


「仕方ないなあ。ほんと特別な。俺、ごちゃごちゃいうの嫌いだからさ。

 体が弱かろうが、強い奴は強い。反対に強靭な肉体を持ってても、

 弱い奴は弱い。 その差はな、覚悟があるかないか。

 相手を思い切りぶん殴るって、勇気がいるよ。

 そして、思い切り殴られることもな。わかったか?」


「わかった。なんとなく、わかったよ」


「返事は、押忍。言ってみ?」


「押忍」


「そう。それでいい。押忍という言葉にはな、利己心を捨て、

 他人を助けるという意味が込められている。

 お前らは俺に従うといった。ならば、押忍の精神で、己の正義に準じて生きろ。

 間違っても、さっきのような横暴な奴らから、目を逸らすような真似はするな。わかったな」


部員たちは、声を合わせて返事をする。


『押忍』


うーん。指導したことないだけに、これでいいのかわからんぞ。

まあ、いいか。そろそろ光臨会に行きたいから、ここらへんで切り上げとこう。


「では、最後に勝つコツを一つ教えてやる。相手が自分より強いと感じたら、

 視界を奪え。砂を投げつけるとかしてな」


ガリが、顔を曇らせる。


「それは、卑怯な気が……」


「お前、名前は?」


「紀藤です。紀藤博」


「紀藤、お前、自分の大事な人が殺されそうになっていても、

正々堂々と戦うのか?」


「いや、そういう時は……」


「同じさ。喧嘩にルールなどない。参ったといえば、相手は許してくれると思うか?

 違うね。男なら、命の危険を感じるほど痛めつけられ、金を奪われる。

 女の俺なら、犯されるだろうね。

 そうされないためには、何が何でも勝つことだ。

 汚い手でも、なんでも使ってな。そういうの嫌なら、今のうちに退部しろ。

 光臨会の空手は喧嘩空手。礼儀よりなにより、強さを求める」


「お、押忍……」


部員たちの顔はこわばり、道場は静まりかえる。

これぐらい脅したら、明日には半分になってるかな。

こいつらには悪いが、空手部がどうなろうとしったことではない。


「はーい。じゃあ、今日の稽古はおしまい!

 筋肉痛にならないように、お風呂にはいってマッサージしてくださいね。

 私、用があるので、これで失礼しますね。それでは、さようなら」


俺はさっさと道場を後にして、駐輪場へと向かう。

買ったばかりのクロスバイクにまたがると、茶髪が追いかけてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ