入部
「おっと。変な真似は、止めてもらえますか?
私、レイプされたっていって、警察に駆け込みますよ。
困るんじゃないかなあ。4年生になって、退学とかになると」
「俺らはなんもしてねえだろうが!」
「そうですね。でも、私がこんな格好で駆け込んだら、警察はどっちを信じるでしょうね?」
俺はブラウスのボタンを引きちぎり、ブラを露出させる。
「なんだ、この女? 頭おかしいんかよ?」
「馬鹿なお前らに、世の中の厳しさ教えてやる。ありがたく思え。
お前ら、黒帯締めてるな? かかってこいよ。強いんだろ?
俺をぶちのめせたら、大人しく空手部に入ってやるよ。
俺、いい女だろ? 奴隷にできたら、楽しいぜえ?」
男たちは、ごくりと唾をのみ込み、俺の周りを取り囲む。
「あーあー、やだやだ。揃いも揃って、俺のこと知らないんだな。
俺は大野奈津美だよ。聞いたことあんだろ?」
男たちは顔を見合わせ言葉を交わす。
「大野奈津美?」
「ほら、年末のブレイブにでてた」
「神明館の試合で優勝した女か?」
「うわっ。本物はじめてみた」
「馬鹿、偽物だよ。こんなに華奢なはずない」
正面の奴が、ぺっと唾をはいた。
「お前な、年上をからかうなよ。
本物だっていうなら、俺を倒してみな」
「あ、そ。じゃあ、おやすみなさい」
正面の男の顎に二段跳び膝蹴りをいれると、男は血を口からしたたらせ、
後に倒れた。
残った男たちは、驚き、恐怖の顔で俺から距離を取る。
「あれ? もう降参か?
なら、俺の勝ちってことで、空手部の看板はもらっていくな」
「看板だと? ふざけんな!」
右から殴りかかってきた奴の拳をスウェーでかわし、股間を蹴り上げる。
男は泡を吹きながら、前のめりに倒れる。
「よわいねえ。下級生いじめが忙しくて、練習さぼっちゃったかなあ。
ほれ、どうした? 二人同時にかかってくれば、俺を倒せるかもよ?」
「石井!」
「お、おう!」
左からの蹴りを縮地を使ってかわし、右からの突きをダッキングでかわし、
前へ数歩動いて、振り返る。
「おしい! いまのおしい! せめて、今の1.5倍速なら、かすったかもしれないのに」
「馬鹿にすんじゃねえ!」
一人が、正面から左右の回し蹴りを連続で放ってくる。
俺は鼻先で避けながら、乱れた前髪を、右手ですく。
「あたれ! あたれ、この!」
俺が軸足に、ローキックを当てると、男は尻もちをついた。
「ほら立て。今度は受けだ。俺の突きをかわしてみな」
「女の突きで、俺がやられるとでも!」
立ちあがったそいつの顔面に、右の真正の突きをぶち当てる。
男は鼻血を出しながら、後に倒れ痙攣する。
「女の突きがなんだって? あれま。失神してやがる。
ほれ、どうした。あとはお前だけだ。かかってこいよ」
「ば、化け物だ!」
残った一人は、脱兎のごとく駆け出し、すぐに校舎の陰に消えた。
「歯応えないなあ。準備運動にもなりゃしない。
上島、見たか? これが、光臨会の」
振り返ると、いつの間にか、騎馬立ちをさせられていた連中が、
後に集まっていて全員膝をついていた。
「おわっ。びっくりした。何かようか?」
同じように膝をついていた上島が、手を地面についた。
「磯野さん、空手部に入ってください。お願いします!」
「お願いしますってお前なあ」
上島の後にいた奴らも全員地面に手をつき、頭を下げる。
『お願いします!』
「うーん。そういわれても、光臨会に行く時間が減るのは嫌だし、
第一、ここって光臨会じゃないだろ? どこの流派なんだ?
普通の門下生ならいざしらず、山下師範の愛弟子である俺が、
はい、そうですかって入れないよ。
ほら、見っともないから、みんな立って」
上島は、額を地面にこすりつける。
「どうかお願いします! ご指導ください!」
「入部しろから、指導しろに要求があがってるじゃねえか!
俺は、まともに人に教えたことなんてないよ。
指導してほしいなら、木村か伊藤に頼め」
「お願いします! 磯野さんのように強くなりたいんです!
お願いします! お願いします!」
通りかかった人が、何事かという顔で、足を止める。
だんだんとその人数が多くなっていく。
くそっ。なんか、俺が悪いことしてるみたいじゃないか。
「あー、もうわかったから、とにかく立て。
これじゃあ、俺が土下座させてるみたいに思われちまう」
「押忍! ありがとうございます! ほら、みんな立て!」
『押忍!』
空手着姿の奴らに混じって、新入生4人の姿もある。
「あなた達、もう帰っていいわよ。悪い奴らは退治したから」
がりがりに痩せている奴が、顔を紅潮させながら、正拳突きの真似をする。
「自分は感動しました! 綺麗な人だとは思っていましたが、あなたがあの大野奈津美さんだとは!
自分も強くなりたい。空手部に入って鍛えたい」
「うーん。空手って、きついよ? 汗臭くて女にもてないよ? せっかく大学に入ったんだから、
楽しいことした方がいいよ?」
茶髪の奴が、うんうんと頷く。
「俺も同感! あんなすごいの見たことない。空手習ってみてえ」
困ったな。でもまあ、少し稽古みてやったら根をあげるだろうし、
いいか。
「そこまで言うなら、一緒に空手部に入りましょう。
あ、それと、上島! ……さん」
「押忍! 磯野さん、上島でいいっすよ」
「そんなわけにはいかないでしょう? 光臨会ならいざ知らず。
あ、それと、部内では私のことは、大野って呼んでください」
「なぜですか?」
俺は上島を睨む。
「おい。俺が言うことには素直に従え」
「お、押忍! 失礼しました!」
「ん。よろしい。では、上島さん、空手部の指導に来てくださってる方の
連絡先を教えてください」
「押忍。携帯にいれてあるので、少々お待ちください」
上島が、芝生のところから、スマホを持ってくる。
「押忍! この方です」
「真鍋さんって、龍泉会の真鍋さん?
龍泉会なら、大丈夫かな。
ちょっと、スマホ借りていいですか?」
上島のスマホから、電話をかけるが、留守電となってしまった。
「でないな。しかたない。後で連絡するか。
じゃあ、全員道場へ。駆け足!」
部員たちが、一斉に走っていく。
俺が引きちぎったボタンを探していると、新入生の一人が、傍に立っていた。




