入学式
4月1日、入学式の日となった。
オリエンテーションや手続きで、4月は中旬にならないと講義は始まらない。
履修手続きや、教科書購入などの時だけ、大学に行き、他は光臨会で鍛えようと思っていたのに、
美佐江が出ろとしつこく言うので、入学式にでることになった。
おまけに、普段着姿で行こうとしたら、スーツを着て行けというので、窮屈なスーツ姿だ。
俺のスタイルだと、何を着ても似合うのだが、スーツを着て、髪をアップすると、
仕事ができる女といった風情になる。
ぴったりとフィットしたパンツも、足の長さが強調されている。
講堂に入ると、男共が、俺を羨望のまなざしで見る。
悪い気はしない。
退屈な入学式を終え、帰ろうと正門の方へ歩いていると、ジャージ姿の男が話しかけてきた。
「綺麗だねー。ねね、アンケートいい?」
どうやら、どこかのサークルか部活が新入生にアンケートをとっているらしい。
周りの新入生も、同じように声をかけられている。
「いいですよ」
アンケート用紙の氏名欄に記入し、簡単な質問に答える。
「はい。それじゃ」
立ち去ろうとすると、ジャージ姿の男は他の奴らに目配せした。
「5名様、ごあんなーい」
俺と同じように、アンケートに答えた他の新入生たちも、立ち尽くしている。
ジャージ姿の男たちは、俺たちにアンケート用紙の裏側を見せる。
入部届と書いてある。
「ほら、サインしたんだからさっさと来いよ」
新入生の一人が抗議する。
「こんなの詐欺じゃないか。誰が行くもんか」
ジャージ姿の一人が、抗議した新入生の肩に手を回し、顎に拳を軽く当てる。
「怪我したくないだろ? おとなしく来な」
面白くなってきた。大学はいろんなのがいるな。
「こんなことで、怪我しちゃつまらないわ。黙ってついていきましょう」
「おっ。彼女、話がわかるねえ。マネージャ頼むわ。君にはきついことさせないから。
男共は覚悟しろよ。うちは甘くないぜ」
ジャージの奴らに囲まれ、他の新入生4人と連れていかれる。
校舎裏の芝生のあるスペースまで行くと、芝生の上に寝そべり何事か野次を飛ばす、
空手着をきた数人と、上半身裸で、バケツを頭に乗せ、騎馬立ちをしている20人程の集団がいた。
「おらおら、気合いれろー! バケツ落とした奴は、グラウンド100周させっからなあ」
こいつら空手部か。
たしか、光臨会にいる中尾が主将をしていたはずだが、中尾は卒業したんだったかな。
芝生に寝そべっていた一人が立ち上がり、にやつきながら、こちらにやってくる。
男が、向こうに行けとジェスチャーすると、ジャージ姿の奴らは、また正門の方へとかけていった。
俺たちのような獲物をまた探しにいったのだろう。
「ようこそ、空手部へ。入部したからには、部の掟にしたがってもらう。
退部したけりゃ、明日までに10万もってこい。
それが無理なら、さっさと上半身裸になり、練習に加われ」
新入生の一人が震えながら、抗議する。
「け、警察にいいますよ。こんなの暴力団と一緒だ」
男が新入生を睨む。
「なんだって? もう一遍言ってみろ!」
さて、そろそろ頃合いか。
その時、寝そべる男たちの後方にいた奴が、駆け寄ってきた。
「磯野さん! 入部してくれたんですか! 感激です!」
「あれ? 上島さん。南西大学でしたっけ?」
「押忍! 南西大学の3回生です!」
「中尾さんは?」
「中尾さんは、卒業されました!」
「ふーん。そうですか。よろしくお願いします」
男が、上島をヘッドロックした。
「この野郎! こんなかわいい娘と知り合いか?
紹介しろー!」
「いてててっ。首藤さん、やめてください。
光臨会の先輩です!」
首藤は、ヘッドロックを外すと、へらへらと笑って、
俺をみた。
「いやー、それにしてもかわいいね。
こんなマネージャー入ったって知ったら、他の部がうらやむぜ。
磯野さんって言ったかな? 彼氏はいる?」
「はい」
「そっかー。そうだよなー。当たり前かー。
まあ、いいや。君は見学しててよ」
「あの、質問というか二点よろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「まず、一点目は、どうして稽古してる人としてない人がいるんですか?」
首藤は、ぴらぴらと帯を俺に見せる。
「俺、黒帯なわけ。強いんだよ。稽古なんて弱い奴がやってりゃいいの。
わかった?」
「なるほど。そうなんですね。納得です。
二点目はですね、首藤さん、口が臭いです。話しかけないでもらえますか?」
「なっ……」
首藤は目を白黒させ、顔が見る間に真っ赤になっていく。
「なんだと、こら!!」
「きゃっ。怖い。上島さん、助けて」
俺は上島の背中に隠れ、上島に耳打ちする。
「上島、こいつお前の先輩なわけ?」
「押忍、四回生の首藤さんです」
「ふーん。そっか。上島、光臨会、破門になるのと、空手部、退部するのとどっちがいい?」
「え? 磯野さん、それはどういうことですか?」
「どうしたも、こうしたもねえ。そのまんまの意味だよ。
いま、ちょっと見ただけで、この空手部が腐ってるってわかった。
光臨会は、先輩ってだけで、理不尽を通すような奴は許さない。
そして、そういうことを黙って観ている人間もな」
「勘弁してください。破門になんて、なりたくないです。
自分、もうちょっとで黒帯になれそうなんです」
「上島、お前、紫帯だったな? 勝手に、黒帯しめやがって」
「お、押忍」
「なら、こいつやれんだろ? こいつぶちのめしたら、破門は勘弁してやる」
首藤が、がなり立てる。
「上島! 何、こそこそやってんだ! さっさとその女に空手部の厳しさ教えてやれ!」
「うおおお!!」
上島は、首藤の腹に前蹴りを入れ、首藤が前のめりになったところで、
裏拳を眉間に入れ、倒した。
「よし! それでこそ、光臨会だ。
後は任せな。お前に光臨会の空手がどういうものか、みせてやる」
「上島ー!」
「ふざけんな、てめえ!」
芝生で寝転んでいた4人が立ち上がり、駆け寄ってこようとしたので、
俺は言葉で制した。




