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おやじ彼女  作者: ponta
天下無双
525/570

平穏

中央駅前で、私は大平君を待っていた。


待ち合わせは、10時だというのに、9時前についてしまった。

久しぶりのデートで、ワクワクしすぎて、気が急いているのだ。


こんなことじゃ、大平君に笑われてしまう。

落ち着け私。強敵と対峙したときこそ、冷静でいろと山下師範に言われたはず。


そう思っても、嬉しいという感情があふれてきて、すぐにソワソワしてしまう。

さっきから、腕時計を何度確認したことだろう。


早く会いたい。大平君の笑顔を早くみたい。


「やあ」


「ううん、全然待ってないよ!」


声のする方を振り向くと、見知らぬ男性が立っていた。

私はがっかりして、そっぽを向く。


「君みたいな素敵な娘を待たすなんて、最低な男だね。

 そんなやつ、ほっておいて、お茶でも飲みにいかない?」

 

私が無視して、スマホを取り出すと、男はさらに近付いてきた。


「君、もしかして、大野奈津美さん? 

 うわー、テレビで観て、綺麗とは思ってたけど、実物はさらにいいね」

 

「それは、どうも。人を待ってるんです。ナンパなら、他を当たってください」


「つれないなあ。いいじゃん、ちょっとだけ。髪も綺麗だね」


男性が、私の髪に触れようとしたので、私は男性の手を払い、

左に動いて、距離を取った。


「いてて。手荒いなあ。別に痴漢したわけでもないのに」


「あなた、何なの? 勝手に、触れないで!」


「おいおい。随分な言い方だな。大野奈津美に暴力振るわれたって、

 言いふらしたっていいんだぞ。困るんじゃないのー?

 有名人だしさー」

 

「最っ低。恥ずかしくないの? いきなり絡んできといて」


「だからー、ちょっとお茶に付き合ってって、言ってるだけじゃん。

 それか、連絡先教えてくれるんでもいいからさー。

 大野奈津美と知り合いだって、自慢したいんだよね」

 

「なんて迷惑な人なの! 恥を知りなさいよ! 恥を!」


「ちょっとちょっと、そんな大声出してると、人が集まっちゃうよー。

 困るんじゃないの? そういうことになるとー」

 

歩いていた人たちが足を止め、何事かと集まってきている。

中には、私に気付いた人もいる。

確かにまずい。


「わかったわ。そこの喫茶店でいい?」


「おっけー。いこいこー」


男性から手を掴まれそうになって、避けると男性の後に大平君が立っていた。


「大平くんダメ!」


大平君は、男性の腰付近に拳を打ち込んだ。

腎臓うちだ。

激痛が走り、下半身がしびれる。


「うごぉぉ」


男性が体を九の字に曲げると、大平君は男性の髪の毛を掴んで、顔をあげさせた。


「お前、何してんの? 死にたいのかな?」


大平君が、男性のボディにまた一発いれる。

男性は、胃液を吐き出し、涙を流す。


「んん? 浅かったな。じゃ、もう一発」


もう一発と言ったのに、大平君は二発、三発と男性の腹を殴る。


「うげっ、げええ」


男性が歩道に、胃の中のものを吐き出すと、大平君は男性から離れた。


「まだ、血が混じってないな。もう2,3発いっとくか」


大平君の言葉に、男性は腹を押さえながら、這うようにして逃げて行った。


「何だあれ? 情けなー」


「ちょっと大平君、ダメじゃないの!」


「おいおい、俺助けたのに」


「大平君、プロでしょ? プロが素人殴っていいと思ってるの?」


「殴るって、顔殴ったわけじゃないんだからさー」


「顔もお腹も一緒でしょ? まったく、しょうのない人ねー」


「ははは。じゃあ、いこいこ」


「うん!」


大平君と並んで歩くと、私たちは周りの人々から注目され、

あちこちで、「あれ大平じゃん」とか「大野奈津美じゃない?」

といった声が聞こえてくる。


私は見られていることを意識して、背筋をピンと張り颯爽と歩く。

対して大平君は、気にしていない風で、いつも通り肩を怒らせ、

少し猫背で歩く。


大平君が、私の方をみて恥ずかしそうに、頭をかいた。


「なーに? どうしたの?」


「いや、綺麗だなって思ってさ。マジでモデルみたいだ」


「褒め過ぎよ。モデルでこんな手をしている人いないでしょ?」


そう言って、私は右手を見せた。

私の手は、古い傷跡や生傷がたくさんある。初めて私の手を間近で見た人は、

皆一様に、驚く。


「かっこいいじゃん。歴戦の猛者って感じでさ」


「そう? なんか、今日はお世辞ばっかり言ってくれるのね」


「そんなことないよ。俺はお世辞とか言えないし」


駅ビルの百貨店に入り、適当にお店を見て回っていると、時計屋さんの前を通りかかった。


ショーケースには、様々な高級時計が並んでいる。


「ねえねえ。これなんか、大平君に似合うんじゃない?」


「うわっ。これ、50万だってよ。こんなの買えないよ。高すぎる」


「どうしてー? 高給取りなのに」


「俺はこれでいいよ」


そう言って、大平君は左手につけている腕時計を見せる。

大平君がしているのは、2000、3000円の安物だ。


「ちゃんとしたの買いなよ。世界チャンピオンになるんでしょ?

 あれだったら、私が買ってあげるから」

 

「いいよー。それに俺だって、貯金ぐらいあるし。500万はあるんだぜ?」


500万? そんなはずない。大平君は、試合のたびにファイトマネーがいくらだったか

教えてくれる。試合のたびにその額はあがり、用具メーカーとのスポンサー契約もある。

大平君は、散財していない。どう少なく見積もっても、1億以上はあるはず。


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