表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おやじ彼女  作者: ponta
壮士凌雲
524/570

卒業

松下は、俺の右手を握ったまま、左手で軽く拳を握っている。


「ジャブか。お前、いつの間に」


「前に、お前が攻めてきて、負かされただろ? あの時からずっとだ。

 使えるのは、ジャブだけ。フットワークも右のパンチも練習してない」

 

「つまりは、俺を捕まえて左の勝負で俺を倒すってわけか」


「その通り。お前はさ、実際すげえよ。その細い体で、ずしんと骨に響くパンチや蹴りが出せる。

 お前みたいに速く動ける人間なんて、いままで見たことない。

 でも、体の自由が奪われたら、そういう真似できないよな?」

 

松下がジャブを放ってくる。一発目をブロックすると、二発目はこめかみをかすり、

三発目をパーリングで、防ぐ。


鋭い。こいつ相当練習してきてる。

各校を攻めに行った時には、ジャブなんて一発も見せなかったのに。


「やるな。今まで実力を隠してたってわけか」


「隠してた訳じゃない。お前のためのジャブだ。それに、喧嘩でジャブじゃ相手を倒せない」


「俺なら倒せるって? 舐めんじゃねえ!」


頭突きしようと踏み込むと、松下にぐいっと右手を抑え込まれ、左のショートボディを食らった。


「うぐっ」


松下の左手首を、掴もうと左手を伸ばすと右足を踏まれ、

振り下ろした左ストレートをまともにもらった。

視界がゆがみ、膝がガクガクして、バランスを崩してしまう。

俺は必死になって、松下に抱きついた。


「悪いな。勝たせてもらうぜ!」


俺は松下の首に左手を巻き付け、倒れそうになるのを堪える。


「好き、好きなの」


「へ?」


「私、松下くんが好き!」


俺がそう言って、離れると松下は手を放した。


「気付いてなかったの? 私がずっと好きだったこと」


「いや、そんなこと……。だって、お前、男いるだろ?」


左頬にキスすると、松下は驚き固まって、

真っ赤な顔になる。


「大野、今のって」


「うん。でも、好きになっちゃったんだもん!」


「うっそ。マジかよ」


「嘘に決まってんだろ? 食らいな!」


俺は左ミドルで、松下の体を前かがみにさせ、右のミドルで、

松下の頭を蹴りぬいて、倒した。


「いてて。こんな美女に、鼻血ださせやがって、タコ助が」


鼻血を拭っていると、田崎が学ランを脱ぎ、ランニング姿になる。

すごい筋肉だ。肩が盛り上がって、首が短く見える。


「松下に、やられちまうかと思ったぜ」


「やられるかよ。年季が違うわ。

 お前もやられたいんだろ?」

 

「俺は借りは返す主義でね」


「松下みたいに、なんか手を考えてきてるってわけか」


「御託はいい。やろうぜ」


田崎が半身になり、腰を落とす。


「跳足か。俺の撃砕と比べっこしてみるか?」


俺も腰を落とし、力を溜める。

田崎の口角が上がっていく。


「いくぜ、おら!」


田崎の掛け声を合図に、前へ跳び着地と同時に撃砕を放つと、田崎の姿が消えていた。


反射的に左を向くと、蹴り足が迫っていた。

前に流れた体を戻す時間がない。

俺は顎を引き、蹴りを額で受ける。


激しい衝撃に、視界が一瞬消え、右へ倒れる。

後頭部を打たないように右手で、カバーしすぐに立ち上がると、

田崎は追っては来ておらず、半身になって構えていた。


「跳び上がっての蹴りか。偏差値一桁のくせして、

 考えてるじゃねえか」


「ふん。手前とやるために、行きたくもねえジジイの家に行って、

 片っ端から書物読み漁ったんだ。これだけだと思うなよ」

 

「修行してきましたってか。ご苦労なことだな」


田崎がじりじりっと距離を詰めてくる。

俺が左ミドルを放つと、田崎は蹴りが掠る位置まで下がる。


蹴りも見えてるか。田崎は、攻めの強さに比べて、受けが弱かったんだが、

受けも上達したと思った方がよさそうだ。


右ロー、左関節蹴りを出すが、田崎は後に下がり、蹴りが届かないぎりぎりの距離を保つ。


「えらく慎重じゃないか。逃げ方ばっかり練習してきたのか?」


「お前は、ほんと人をムカつかせてくれるぜ」


不意に田崎の体が大きくなった。

まずい! 跳足だ!

後に下がれば、狙いすました右にやられる!


俺は前に跳び込み、左肩から体当たりする。

体重のない俺は、後に弾き飛ばされる。


頭の上を、田崎の右が掠る。

俺はそのまま、後に倒れてから、右に転がり左足を立て、

中腰になる。


「さすがにうめえな。光臨会の五段は伊達じゃねえってか」


「ふん。お前もよく稽古してきてるじゃないか。

 松下もお前も役者だよ。他校に攻めに行ったときは、

 そんなことおくびにも出さないんだからな」

 

「福岡の高校全部しめるってのも、面白かったけどな、お前を倒すってこたあ、

 それ以上に、魅力があんだよ」

 

田崎が跳足で迫ってくる。俺は裏拍子を使った。

田崎の右のストレートに合わせ、俺の体は反応し、ダッキングの後に、

伸びあがりながら、左膝蹴りを田崎の腹にめり込ませる。


田崎は胃液を吐きながら、後に下がり再び構える。


「忘れてただろ? 俺は反射的に交差法を使えるんだ。

 技の名は、裏拍子。どうだ? 骨身にしみるだろ?」

 

「うくくくっ。舐めんじゃねえ!」


田崎が再び、跳足を使ってくる。

俺は田崎の右ストレートをかいくぐりながら、左膝蹴りを出す。


田崎は左膝蹴りを腹に食らいながら、俺を左手で抱えてきた。

ゾクリとした寒気が、背中を走る。


田崎は俺を抱えたまま、前に跳び倒れ込む。

俺は咄嗟に顎を引いた。

次の瞬間、背中から床に叩きつけられる。


「ぐふっ」


息が止まり、衝撃で体がしびれる。

田崎が伸し掛かってきて、俺の右手を掴み、右手を振りかぶる。

俺は両膝で田崎の胴を押し、距離をあける。


田崎の右が振り下ろされる。

俺は頭を右に振って、田崎の右を避け、股間に膝をあて田崎が怯んだ隙に、

下にずりさがって、すりぬけ、立ち上がる。

田崎は股間を押さえ、苦笑いする。


「いつつつ。背中いてー。今のは効いたぞ。まさか投げとはな。めちゃくちゃしやがって、

 もう、頭にきた」

 

「てめーこそ、金玉蹴りやがって。お前に女は期待してねえが、相変わらず無茶やってくれるぜ」


「田崎、よく鍛えたな。お前は、間違いなく高校生で最強だよ。まあ、俺を除いてだが。

 褒美に、普通は拝めない技で倒してやる」

 

俺は腰を落とし力を溜め、田崎の目の前に跳ぶ。

着地して、すぐに左跳び膝蹴りを出し、ガードさせてから、右の膝蹴り、左膝蹴りを田崎の頭に当てる。

田崎は、後に倒れ、起き上がろうと首を上げる。


「三段跳び膝蹴りだ。長いこと空手をやっているが、お目にかかったことはない。

 おそらく、これができるのは世界で俺ただ一人」


「世界一の技か。ははは。負けたぜ。立てねえよ」


いつの間にか、松下達も目を覚まし、俺と田崎の勝負を見ていた。


「よーし、すっきりしたところで、飯でも食いに行こうか?

 貧乏人のお前らに奢ってやるよ」

 

松下に支えられ、田崎が立ち上がりながら、苦笑いした。


「最後まで我儘なお嬢様だな。俺らの姫は」


それから、五人で食事にいき、朝まで騒いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ