イベント開始
最初こそ異色だったものの、式は普通でやがて、卒業証書の授与となった。
こんな格好で、檀上にあがてよいものか迷ったけど、三野君を最初に、
幹部のみんなは平気で、あがっていくので、私もそのまま上がることにした。
名前を呼ばれ、壇上の校長先生の前に進みでる。
「おめでとう。これからも空手頑張りなさい」
「はい! ありがとうございます。お世話になりました!」
席に戻って、卒業証書を眺める。この紙自体には何の価値もないけど、
高校を卒業したという証だ。
眺めているだけで、胸が熱くなってくる。
自然と涙が溢れてくる。
いま、この時を大切な思い出として、胸にしまっておこう。
溢れてくる涙を拭っていると、松下君がハンカチを差し出してきた。
「そうしてっと、ほんとに普通の女の子だよな。
鬼のように、強ええなんて、外見からは想像つかねえよ」
「ありがと。松下君もこんなに優しいなんて、友達になるまで知らなかったよ。
最初なんて、後ろからいきなり鉄パイプで、襲われたし。
仕事頑張ってね。応援してる」
「立派な社会人になってやるぜってなもんよ。
でもな、メインイベントはこれからだぜ。さて、そろそろやるか」
司会進行の先生が、卒業生退場というアナウンスをしても、誰も席を立たない。
そんな中、松下君が立ち上がり、演壇まで歩き出すと、卒業生の代わりに、先生たちが
体育館を出ていく。
「ぎゃははは! さあ、はじめんぜ! 俺ら幹部に挑みたい奴は前に出てこい!
置き土産に、ぶっ飛ばしてやっからよー!」
松下君が皆に呼びかけると、在校生の中から立ち上がる者たちが現れた。
「今年は少ねえな。まあ、去年は俺が頼之さんやっちまって、幹部ガタガタだったから、
無理もねえか。ほれ、お姫さん、前にいこうぜ」
田崎君に促されて、私も前へ歩いていく。
上履きが木の床に触れて、ゴム底特有の音をだす。
こんな音を聞くことも無くなるのかと思うと、もの悲しい音に聞こえてしまう。
在校生で前に出てきたのは、5人だけ。
前に私が倒した2年の頭、新宮と1年の頭、竹内。
それから通学の電車で一緒だったカズくん、ガネ君、ヒロ君。
「五対五か。一応、好きな幹部に挑めることになってっけど、田崎君どうする?」
「松下、お前が決めろ。お前の仕切りだ」
「うん。わかった。じゃあ、挑みてえ幹部の前に並べ。相手が決まったらタイマンだ」
相手は一人か。ちょっとつまらないけど、仕方ないかな。
さて、私の相手は誰だろう。
おそらく、新宮だろう。金髪で鋭い目つきの新宮が、私をじろりと一瞥する。
うんうん。いいわー。その目。私を殺してやるって目をしてる。
さあ、来なさい。
予想に反して、新宮は田崎君の前にいく。
私は、肩透かしをくらって、ちょっとがっかりする。
「あれー? 新宮君は、私に借りがあるんじゃないのー?」
「ねえっす。大野さんには、完敗しましたから」
「そう。じゃあ、私の相手はだれかなあ?」
180cm、120kgの堂々とした体格の竹内は、
松下君の前にいった。
あれれ? 私じゃないの?
でもまあいいわ。通学が一緒だったカズ君たちは、私を指名してくれるでしょう。
最後に本当の打撃がどういうものか、教えてあげるのも悪くない。
三人の誰がくるのか、それとも三人ともなのか、笑顔で待っていると、
カズ君とヒロ君は、西田君の前に、ガネ君は三野君の前にたった。
「よーし、決まったな。じゃあまずは、三野からでいいか?」
「ちょっとちょっとちょっと! 私、総長なんでしょ?! なんで、私に挑んでこないの?
おかしいじゃないの! あなた達、最初からグルでしょ? これは、私への嫌がらせ?
転校して半年だから、こんなことするの?」
松下君が、焦った顔で私の肩に手を置いてくる。
「落ち着けって。お前は強すぎんだからさ。こいつらビビッてんだよ。
今日は、大人しく見とけって」
松下君の言葉に、私の中の男がぐっと増した。
「はぁ? 俺が強すぎるから、ビビってるだあ? お前ら、それでも男か!
俺が、全員ぶっ飛ばしてやるから、そこ動くんじゃねえ!」
「落ち着けって。子供みたいに我儘言うなよ」
「うー。わかったよ。我慢する」
不満を残しつつ、三野とガネのタイマンを眺めていると、
三野の右ストレートで、ガネは倒れ、参ったと負けを認めた。
「おいおいおい。一発入れられただけで、負けを認めるってなんだよ?
ふざけんな!」
俺が声を上げると、三野が苦虫を噛み潰したような顔で、反論してきた。
「これは、イベントなんだから、マジでやるわけねえだろ?
自分が相手にされないからって、やっかむなや」
「むー。そうだよ。やっかんでんだよ。俺だって暴れたいんだよ。
ええい。もう我慢ならん。三野、お前が俺の相手しろ」
「無茶いうなよ。幹部同士でやるなんて、聞いたことねえ」
俺は財布を取り出し、札を三野に見せる。
「ここに10万ある。俺に勝ったら、くれてやるよ。
どうだ? これなら、やるだろ?」
「ダメダメ。姫相手じゃ、10万でも安過ぎる」
「じゃあ、お前が勝ったらキスしてやるよ。それでどうだ?」
三野のまゆがピクッと動く。もうひと押しか?
「それって、舌いれていいのかよ? いや、やっぱダメだ。
勝てる気がしねえ」
「じゃあ、胸を触らせてやる。おまけに、俺の面に一発入れたら、お前の勝ちにしてやるよ。
どうだ?」
「胸?! マジかよ。それって、直か? 直でいいのか?!」
「はっ。乗って来やがったな。エロ坊主が。
直に触らせてやるよ。俺の面に入れれたならな」
「おっぱいもらった!!」
三野が飛び掛かってきて、左右の拳を振り回す。
スウェーバック、ダッキング、パリングと3発しのぎ、右フックに右の掌底をカウンターで合わせ、
三野の膝が折れたところで、左の跳び膝蹴りを顎にあてて、倒した。




