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おやじ彼女  作者: ponta
壮士凌雲
521/570

卒業の日

3月1日。


高校を卒業する日となった。

三鷹水産には、転校して半年ぐらいで、特に愛着があるわけでもないが、

高校生活を終えるというのは、感慨深いものがある。


登校すると、教室は賑やかだった。

いつもは半分ぐらいしか埋まっていない席が、すべて埋まっている。


「チャコ、おはよう。こんなに人いたんだね」


「真面目に学校出てくる奴少ないからさあ。そんなんで、どうして卒業できるのかって、

 あたしゃ、それが不思議でならないよ」

 

いつもの紺の制服ではなく、白い学ランを着た松下くんが、近寄ってきた。


「おっす。これか? かっこいいだろ?

 三野が用意してくれたんだ。大野の分もあるぜ」

 

松下君は、バッグから白い学ランを取り出した。

背中に、総長と赤い刺繍がされている。


「これ、私が着るの?」


「あたりめえじゃん。そのために、三野が苦労してくれたんだから。

 あいつのお手製だよ? てか、今日は、女なのな。困ったなあ。最後のイベント大丈夫かなあ」

 

ださい。無茶苦茶ださい。こんなのを着て、高校生活最後の日を送りたくない。


「あのさ、松下君。せっかくだけど」


その時、白い学ランを着た、田崎君、三野君、西田君が教室に入ってきた。

三野君の手は、絆創膏だらけだ。


「姫、なんだまだ着てねえの? 俺、このために二日徹夜しちゃったよー。

 裁縫できるって言っても、5着も一辺つうのは、きつかったわ。

 ねかぶって、自分の手をミシンで縫っちまったよ。あははは」

 

言えない。着たくないなんて、言えない。

どうしよう……。


「あ、うん。かっこいいね。式の後に、着させてもらうね」


「おいおい。姫ー何言ってんのー。白ラン着れるのは、幹部だけなんだぜ?

 これを着るために、鎬を削ってきてんだから。さあ、早く着ろよ」

 

しぶしぶ袖を通すと、コートのような感じで、サイズはぴったり合っていた。

背中の総長という文字が余計だけど、それほど悪くない。


「どうかな? 似合う?」


左右に体を振ってみると、三野君が満足気な笑顔になった。


「いい! いい! 最高じゃんか!

 でもよー、姫って、今日は女なのな。式の後、大丈夫かあ」

 

田崎君が、ふっと鼻で笑う。


「大丈夫だろ? 女の時でも、こいつは並じゃねえよ。

 もっとも、手加減できない分、心配ではあるがな」

 

「ねえ、松下君もさっき何かあるって言ってたけど、

 式の後に、何かイベントがあるの?」

 

「幹部はよ、だれの挑戦でも受けなきゃならねえ。今日まで俺らは幹部。

 ってわけで、式の後に、俺らに挑戦したい奴が、待ってるってわけさ」

 

胸がどきどきする。三鷹水産の生徒は、200名程。

素人200人なら、今の私ならやれる。


「もう! そういう事は、早く言ってよ! そうとわかってたら、ローファー履いてこなかったのに~。

 200人かー。ワクワクするわー。全員病院送りにしていいんだよね?

 早く卒業式終わればいいのにー」

 

「くくくっ。相変わらず狂ってやがる。

 挑んでくるつっても、代表で何人かだ。しかも後輩たちだぞ。

 手加減しろや」


「うーん。それも、そうね。でも、楽しみ」


教室に担任の林先生が入ってきた。


「なんだー? 田崎、三野、西田! バカ騒ぎは、

 卒業式の後にしろ! 自分の教室に戻れ!」


田崎君が、苦笑いで答える。


「林先生よー。今日は大目に見てくれや。

 だって、ほら」

 

田崎君が私の背中を林先生に向ける。


「おお。そうだったな。大野がお前らのボスだったな。

 しかしなあ、まだ信じられんぞ。大野のような真面目な生徒が、

 お前たち悪ガキを束ねるとは。

 よし、では体育館へ移動しろ」

 

教室からゾロゾロと、柄の悪いクラスメイト達が出ていく。

金髪に、パンチパーマ、角刈り、長髪と一見して、不良とわかるものたちばかりだ。

半年前までは、三鷹水産で卒業するなんて、思ってもみなかった。


今朝からご機嫌の松下君が、不思議そうな顔をする。


「なんだよ? にやついて」


「ううん。どうもしないわ。ただ、本当に今日で高校生活終わっちゃうんだって思ってね」


「俺は清々してるよ。大野と違って、勉強嫌いだし。田崎君と離れるのは寂しいけど」


「松下君は、ほんとに田崎君大好きね。何だかうらやましい。ここには、そんなに仲いい人いないから」


突然肩を抱かれ、私はびくっと震えてしまった。

驚いてみると、西田君が私を抱き寄せていた。


「何言ってんだよ? 姫は俺らの仲間だろ?」


田崎君、三野君も軽く頷く。


「仲間? そうね! そうだね!」


「そうそう。ってわけで、卒業記念に一発やらせてくんない?」


「調子に乗らないの!」


右の猿臂を鳩尾に入れると、西田君は鼻から、液体を噴き出した。

それを見た、3人は、腹を抱えて笑っている。


体育館へ移動しようとすると、松下君が私を止めた。


「俺らは、最後だよ。メインキャストは、最後って相場が決まってる」


「メインキャストねぇ。目立つのは嫌いじゃないけど。なんか、ちょっと」


「不満そうじゃんか。田崎君を差し置いて、総長の白ラン着てるってのに」


「あ、うん。この白い学ランは、名誉なことだと思ってるよ。

 三野君が、苦労して作ってくれたんだし。

 うまく言えないんだけど、私は地位とか興味なくて、

 ただ強いと言われたいの。

 それも、女なのになかなか強いとかじゃなく、あいつとやり合うとただじゃすまないって、

 思われたい」

 

田崎君が、笑いながら私の頭をぽんと軽く叩いた。


「三鷹水産の人間は、少なくともそう思ってるぜ。

 お前、全校生徒の目の前で、俺の腕折ったの忘れたのか?

 それに、うちだけじゃなく、やりあった高校の奴らはそう思ってるだろうぜ。

 大野奈津美とやり合うと、面倒なことになるってな」

 

「そ、そう? ほんとにそうかな?」


「お前、転校してきたこの半年だけで、何人ぶちのめしたと思ってるよ?

 まったく、あきれるぜ。このお姫様は」

 

「そっか。そうだよね。それに今から200人とやるんだもんね」


「後輩だっつてんだろ? まったくよ。そろそろいくぜ。

 お前ら、気合い負けすんなよ」

 

『おう』


体育館の中では、在校生が左右に分かれ、私たちのために花道ができていた。

私たちは、5人並んで、拍手の中をゆっくりと進み席についた。

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