決着
「ぎゃあああああ! 俺の足、足がー!!」
李は俺をじっと睨む。
「何みてやがる。こいつの足が無くなるとこ見てえのか?」
「マジか、てめー……」
「ふん、ハエみてえに、生意気に動き回りやがって。
お前みてえなアバズレは、黙って俺に殺されりゃいいんだよ」
俺はお手上げのポーズを取る。
「お前さー、嫌われてるだろ? 仲間にそんな真似してさー。
そんなんで友達いんのか?」
「うるせーよ。俺にゃー、手下と敵しかいねえ」
李が更に、刀を突きさす。
「ぎゃー! いてえ!! いてええよおお!!」
マジかこいつ。狂ってやがる。
「さあ、どうすんだ?」
「わーったよ。お前の遊びに付き合ってやる。動かなきゃいいんだろ?」
李が俺に近寄ってきて、刀を肩に担いだ。
「くくくっ。最初から素直にしてりゃー、いいんだよ。
お前、男いんだろ? ボクシングの。お前の体が傷もんになっても、
あいつ、お前と一緒にいるんかねえ? 一生消えねえかっこいい傷跡つけてやんよ」
「ふん。くっだらねえことばっか言いやがって。よーく狙えよ。
言っとくけど、それ外したらお前終わりだから」
「奈津美さん!」
後方の小森に、俺は振り返らずに答える。
「メガネ君、心配すんな。バットもって襲ってくるような奴らがどうなろうとしったこっちゃなねえが、
伝説の一つに、加えてもらおうと思ってさ。
素手で、日本刀持った馬鹿を一歩も動かず、軽くあしらったってな」
2mほど前にきて、李がにやりと笑った。
「この距離でどう外すって? 一歩でも動いたら、倒れてる奴刺すぜ。
避けんなよ?」
「避けねえって言ってんだろ? 早くしろよ」
「ボケが! 死ねー!!!」
刀が空気を切り裂き、頭上へと迫ってくる。
切っ先を見るんじゃない。
李の手を見るんだ。手の先に、刃がある!
感じる。刃が俺に迫ってくるのを。
俺は右の掌底を、額の前を払うようにして、思い切り振った。
李の振り下ろした日本刀を横に払い、体を戻す勢いを利用して、
左の真正の突きを、李の鼻面に叩き込んだ。
日本刀が床に転がり、李は後に倒れ込む。
「う、くくくっ。なんだ手前は……。素手で弾くだと。ほんとに人間かよ」
「ふー。なかなかスリルあったぜ。まあ、しかし素人の振りなら、こんなもんかな。
お前さ、気付いてなかっただろ? 自分の振りが遅くなってたの。
日本刀はさ、重いんだぜ? お前らの手下が持ってる金僕バットの2倍の重さはある。
しかも、空気抵抗がない分、速く振れる。倍の重さで、おまけに速けりゃ、
止める時に、倍以上の力がいる。その分、早く疲れるってわけさ。
もっともお前が剣道の有段者だったりしたら、こんな真似絶対しないけどな」
俺が近付くと、李はプルプルと左手を振った。
「あん? 何の真似だ?」
「俺の負けだ。勘弁してくれ」
「お前なあ、それはさすがに虫が良すぎるだろ?
もうちょっと痛めつけさせろよ。まあいいや、鎖骨でも折らせてもらうぜ」
「やめ、やめてくれ。勘弁してくれ!」
李は手をついて額を床にこすりつける。
「かあー。これが、朝鮮高校の頭? かっこわりいなあ。
田崎ー、こんななら、早いうちに潰せたんじゃねえの?」
後方の田崎たちを振り返ると、皆が驚いた顔をした。
「くっ。てめっ!」
縮地を使って、後ろに下がると、ブレザーの胸元が切り裂かれた。
「ひゃははは! 油断してんじゃねえ! お遊びは、これからだ!」
「あ……。替えの制服ねえのに、この馬鹿野郎がー!!」
右後ろ回しで、ナイフを蹴り飛ばし、左ミドル、右ロー、右猿臂、
左掌底、右膝蹴り、左ハイを叩きこむ。
崩れ落ちた李の左鎖骨に右の踵蹴りを落とすと、
鈍い音が響いた。
「ぐおおおっ」
俺は李の胸倉を掴む。
「何がぐおおっだこの底抜け脳足りんが!
この制服どうしてくれる? 俺みたいな超絶美少女が、
卒業式に、こんな破れた制服でいけってか?
このぐらいで許されると思うなよ!」
右の掌底を連続で叩き込んでいくと、李の顔はあっという間に、
赤く染まった。
「あ、う……」
「俺の怒りはこんなもんじゃおさまらねえ!」
「姫! ストップ!」
「大野、落ち着け!」
「奈津美さん、止めてください!」
いつの間にか、俺の周りに皆来ていて、俺の右手を小森が掴んだ。
「はぁはぁはぁ。これ見てくれよ?
制服おしゃかにしやがった。卒業式に何着ていけっつうんだよ。
あー、くそ。腹立つー」
皆に宥められ、階段へ行こうとすると、後で起き上がる気配があった。
振り返ると、李がふらつきながら、立ち上がっていた。
「おー。根性あんなあ。大したもんだ。なんて褒めるか!」
俺が李を殴りつけようと走りよると、李は腰に手を回し、ナイフをだした。
「またナイフかあ? お前、何本持ってんだよ?」
「うるせー。ボロクソにしやがって! 逃がさねえ。ぜってえ、逃がさねえぞ」
李の振り回すナイフをかわし、金的を蹴り上げると、李は股間を押さえて泡を吹いた。
「たく、危ないやろうだ。また、気絶した振りされちゃかなわんな」
「奈津美さん、何してんですか?」
「ナイフ何本隠してるか、わかんねえから、ひん剥いとくんだよ。
抵抗してんじゃねえ。大人しく脱げ!」
李の背中に、踵蹴りを落とし、動きを止めてから、
上着を剥ぎ取り、ズボンを脱がす。
上着のポケットから、ナイフが3本、ズボンのポケットから1本でてきた。
「ははは。刃物屋さんも顔負けだな。チビのお前がのしてくためには、
ナイフは必需品ってわけか」
俺は地面に落ちていた日本刀やナイフを拾い、衣服と共に屋上から投げ捨てる。
さらに、シャツとパンツも脱がせる。李は真っ裸になって、地面に突っ伏して、
小刻みに震えている。
「あれー。お前、色白だなあ。いいケツしてんじゃん。
今見てる奴らに、ケツ掘られたりしてな。うひひひ。
後で、勝ったとか嘘の噂流せねえように、写メ撮らせてもらうぜ」
俺は李を入れたアングルで自撮りしてから、皆のところへと戻る。
「まっ、完勝だな。なんか、食いにいこうや」
「さすが奈津美さんですね。李が子供扱いじゃないですか」
「うん。まあ、合わさってると、刃先のイメージが鮮明に描けるんだよ。
まったく当たる気がしない」
屋上から去ろうとしていると、李が立ち上がり、声をかけてきた。
「待った! 待ってくれ」
「あーん? まだ、やんのか? てか、お前、前ぐらい隠せよ。レディの前だぞ?」
「俺の負けだ。最後に握手してくれないか?」
「握手? いいけど。韓国とか北朝鮮って握手する文化だっけ?」
真っ裸の李の前まで行くと、右の鎖骨が折れているというのに、右手を差し出してきた。
おかしい。何かあるな。
その誘い、乗ってやる。俺が李と握手すると、李がぐっと力を入れてきた。
「死ね!」
李の左手には、いつの間にかナイフが握られている。
俺の腹目がけて、ナイフが迫ってくる。
俺は、李の左手の平側に左の掌底を当てて、右へ流すと同時に、
左へ避ける。
ナイフが俺の右手を裂く。
「ツウッ! この馬鹿たれが!」
李は俺の右手を放さない。
俺は無理やり左下にかがみ、李が左手を払ってくる前に、
伸び上がり、顎に頭突きした。
「ぐふっ」
李の口から鮮血が跳ぶ、俺は自由になった右手をみる。
右前腕が10cmほど切れている。
傷は案外深い。どくどくと血が流れだす。
李は腰を低くして、身構える。
「それぐらいで許してやろうと思ったのに、どうしても入院コースが
いいみたいだな」
「黙れ! 俺は、王族だ! 日本人なんかに舐められてたまるか。
女なんかに舐められるかよ!」
「はー。お前さ、そうやって自分で壁作って、生き辛くないのか?」
「生き辛くしてんのは、お前ら日本人だろうが!」
「ふん。ぶちのめす前に、言っといてやる。
俺たちがここに乗り込んできたのは、お前らの国籍が違うからじゃないぜ。
おまけに、俺は日本人の代表ってわけじゃない。お前はな、日本人に負けるんじゃなく、
この大野奈津美に負けるんだよ。
男だったらなあ、日本人が悪い、日本人のせいだって、批難するばっかじゃなくて、
なにくそ負けるかって、前に進むエネルギーに変えろや」
「お前なんかに、何がわかる! 俺はなあ、俺たちはなあ!」
「わかるわけねえだろ? 俺は、お前じゃないんだから。
だがな、俺にだって、在日の知り合いぐらいいるんだよ。
在日が、どういう差別されてんのかぐらい大方知ってるよ。
それ差し引いても、お前は許してやらん。
なぜかって? それは、俺の制服をお釈迦にしやがったからだ!
病院のベッドで後悔しな!」
俺は、腰を落として力を溜め、風のような速度で跳ぶ。
李の顔面に頭から体当たりすると、李は倒れ、ビクビクと痙攣した。
「ふん。いじけ坊主が。せいぜい反省しろ」
「奈津美さん、今度こそ幕切れですね」
「うん。顔面骨折してるみてえだから、演技は無理だろ。
ところで、メガネ君、いまの必殺技みた?
撃砕の派生技なんだけど、岩石ライナーって名付けようと思うんだ。
かっこいいだろ?」
「岩石……。え、ええ奈津美さんがいいなら、それでいいと思います」
松下と三野が腹を抱えて笑いだす。
「なんだよ。おかしかないだろ?」
田崎が苦笑いしながら、煙草をふかす。
「センスねえなあ。お前、男っぽいとき、中身おっさんだもんなあ」
「ああ? なら、なんて名前がいいんだよ?
わかったよ。なんかお前らにおごってやろつと思ったけど、
やーめた。制服も切られたし、帰ろうっと」
西田が肩を抱いてきて、にかっと笑う。前歯折れてると、なんか滑稽だ。
「じゃあ、姫、俺だけ奢ってくれよ。俺は、何も言ってねえぜ。
ついでに、ホテルとか行っちゃう?」
「この万年発情期が!」
右の裏拳を当て、振り向きざまに股間を蹴り上げる。
「ぐうううぅ。俺、今日は厄日……」
「たりめえだ。馬鹿珍が! ブレザーが汚れるだろうが!
って、ああ、制服ズタボロだよ。こんなんで卒業式でなきゃならねえのか。
なんか、泣きそう。くそっ、右手の血、まだ止まらんぞ。もうちょっと殴っとくかな」
小森がお手上げのポーズで、ふるふると顔を横に動かす。
「奈津美さん、こんな時に、僕を頼らないで誰を頼るんですか?
わかってない。わかってないなあー。奈津美さんはー」
「え? もしかして、メガネ君、制服も集めてんの? さすが、変態!
やるー」
「変態って、何ですか? 変態って。
僕はただ、制服を売っているところを知っているといってるんです」
「どこ? 学校の購買部じゃなくて?」
「ブルセラショップです。おまけに、女子高の制服は人気があって、高いのですが、
三鷹水産は、人気がないので、たったの2000円ですよ」
ぶるっと震えがきて、俺は両肩を抱いた。
「きもっ。そんなところの制服着れるわけないじゃん」
「うぐっ。なんか、奈津美さんにそんなこと言われると、胸にぐさっと刺さりますよ。
今のは冗談です。さっき、三野さんからこの前学校を辞めた女子がいるって聞きましたよ。
その方にもらわれては?」
「この前、辞めた? ああ、いたいた! チャコなら連絡先知ってると思う!
よーし! 制服が手に入るとなったら、私のおごりでなんか食べにいきましょう!」
この日の出来事は、小森はツイッターで拡散して、結構な話題となった。




