対峙
「残るは屋上だね。もうみんな逃げちゃったかな」
「体面を気にする李が、逃げるとは思えません。おそらく、どこかに潜んでいますよ」
「まあ、楽しませてくれたらいいんだけどねー」
屋上へと続く階段を上る。
いる。屋上へと続くドアから、びんびん殺気が漂ってくる。
「さて。行きますかね」
「待って。奈津美さん、スタングレネードを投げ込みます」
俺がドアを開けると、小森はスタングレネードを投げ込んだ。
けたたましい音と、閃光がドアの隙間から漏れる。
数秒待って屋上に入ると、ドア付近で10人程が蹲り、奥に30人程がいて、こちらを睨んでいた。
真ん中には、椅子に座っている李の姿がある。
「用心深いんだー。離れてて、よかったわね」
「汚ねえ日本人がやりそうなことだ。お前ら、生きてここから出れねえぞ」
李が右手に持っていた日本刀で、床を叩くと男たちが、左右に広がりながら、近付いてきた。
「はぁ? 工夫なしか? 仕方ないなあ。おねんねさせて」
男たちが一斉に、刃物を抜いた。
ゾクッとした寒気が背筋を走る。
目が座っている。刺すつもりだ。
刃物を持って、突進してくる男たちの姿に、皆、固まっている。
「メガネ君、みんなの顔殴れ! フリーズしてる!」
「奈津美さん、テイザーガンで僕が!」
「人数が多すぎる! いいから速く! 止まってたら、さすがに守れん!」
俺は突進してくる奴らに向かって走り、思い切り跳び、正面の奴の横っ面を棒で、
打った。
着地して、思い切り棒を振り回し、寄ってくる奴らを次々に殴り倒す。
「セアッ! リャー! シャッ!」
光臨会では、攻撃時の掛け声をよしとしない。
声を出しながら攻撃を出すと、力は入り威力は出せるが、
正確さと、相手の反撃への柔軟な動きができなくなる。
しかし、距離と威力が素手の比ではない棒術なら話は別だ。
急所など狙わなくとも、頭部に当たれば相手を昏倒させ、手足に当たれば容易に骨を砕ける。
右から襲ってきた奴の脛を打って足を折り、左から襲ってきた奴のナイフをかわして、
膝蹴りを腹にいれ、後頭部に肘を落とす。
さらに、後方からきた奴の顎を棒で突き、正面からきた奴の腹を棒で突き、
左のハイキックを入れて倒す。
次々に襲ってくる奴らの攻撃をかわし、棒で打ち蹴りを入れて倒していく。
どうしたことか、こいつらの目には俺への恐怖がない。
これだけ圧倒的に、倒しているというのに。
何か他のものを恐れているのか。
十数人倒し、棒を担いで大きく息を吐くと、李がにやっと笑った。
「空手日本一なんだろ? 頑張れよー。息があがってきてんぞ」
「余裕だな。お前の取り巻きは、もう十人ちょっとしかいないぜ?」
「ふん。俺はな、旨いもんは最後に食う主義でな。おう、お前らいけ」
また、十数人が襲ってくる。俺は思い切り正面の奴の手の甲を、殴った。
「ぎゃー!!」
骨が飛び出て、血が周りに飛ぶ。
続いて、右の奴の足を思い切り殴り、左の奴の口を殴ると、歯と血が飛び散った。
血が飛び散る様を見て、やっと男たちは恐怖の面持ちで、動きを止めた。
李の眉がぴくっと上がる。
「何やってんだ? 俺はかかれって言ったんだぞ?」
「はははは。一回、恐怖を覚えたらかかってこれねえって。
もったいぶらねえで、そろそろ来いよ」
「馬鹿にしやがって。日本人風情が」
李が立ち上がり、日本刀を抜いた。
この光り方、模造刀じゃない。真剣だ。
俺は棒を、小森に投げ渡す。
「え? ちょっと、奈津美さん?」
「預かっといて。こういうの中々ないから、楽しまないとさあ」
李が顔を真っ赤にして、怒りを露わにする。
「てめー、死んだぞ」
俺は両手を額の高さにあげ、ゆらゆらと揺らす。
左踵を上げ、猫足立になる。
「お前こそ、舐めてないか? ちびのお前が、日本刀を持ってやっと俺と対等……。
いや、やっぱ力不足だな」
「舐めんなー!!」
李が、斬りかかってくる。俺は右に避け、突いてきた刀を後に下がって避ける。
躊躇なく斬りかかってくるか。いいぞ。ゾクゾクする。
風切り音が、屋上にこだまする。顔の十数センチ前を、刀が通り過ぎる。
あの刀が当たれば、皮膚は裂け、骨は断たれる。
距離の取り方をさらに変える。腕の数センチ前を刀が通り、手の甲に風を感じる。
刀が切り裂いた空間に、空気が流れ込むのを感じる。
あと少しタイミングをずらしたら、大怪我を負う。場合によっては死ぬ。
その事実に、どうしようもなく興奮してしまう。
いかん。マジで股間が濡れている。
本当に頭がいかれてるな。
「この! この! 逃げてんじゃねえ!」
「捕まえてごらんなさい。うふふふ」
「日本人風情が、ざけた真似をー!!」
李の攻撃を避け続けていると、李は肩で息をしながら、しばし俺を睨み、
何を思ったか、倒れている奴の傍へと歩み寄った。
「追っかけっこは、もうたくさんだ。そこから一歩でも動いてみろ。
こいつ一生歩けなくなるぞ」
「はぁ? そいつはお前の仲間だろ?」
俺が一歩踏み出すと、李は倒れた奴の太ももに刀を突き立てた。




