突入
田崎は、煙草を投げ捨て、金属バットを肩にからう。
「おう、メガネ。自慢の策が効いてねえぞ? どうすんだ?」
「むー。別の出入り口を使うとはなんと姑息な。
えーい、各個撃破です!」
「はっ。それが策かよ! いくぜ、おらー!」
田崎は文句を言いながら、走り寄ってきた男の木刀の一撃を避け、思い切り男の脛をぶったたく。
「三鷹水産なめんじゃねえ!」
男が二人、俺に接近してくる。二人とも手に角材を持っている。
「とったー!」
俺は振り下ろされた角材を縮地を使って避け、一人の横っ面を棒で殴り、もう一人の喉を棒でついた。
「まったく、こんな美人に角材振り下ろすかあ?」
俺の周りを取り囲んだ奴らを威嚇しながら、俺は倒れた一人の顔面に踵蹴りを落とす。
「お前ら、そういう危ないものを持っているってことは、自分がやられる覚悟もあるんだろうな?
俺は武器もってかかってくる奴には、手加減しねえよ?」
俺は棒を体の前でバトンのように回す。回す速度をあげ、風切り音のテンポが速まると、
男たちの顔に、戸惑いの色が見えた。
「あれあれー? びびっちゃったかなあ。
逃げてもいいよー。追わないから。
武器おいて、回れ右しな」
俺の言葉に、顔を見合わせ、逃げようと目で合図している二人に、
俺は棒を振り下ろし、倒す。
倒れた二人を見て、男たちは後ずさりする。
「話聞いてたか? 武器おけつったんだよ。
いうこと聞かない悪い子は、お仕置きしちゃうよーん」
「じょ、冗談じゃねえ。こんな女、相手できるか!」
「逃げようぜ!」
「お、おう」
「俺も」
木刀や金属バットを投げ捨て、男たちは学校の外へ逃げていく。
俺にかかってきていた一団が逃げたのを見て、田崎たちを取り囲んでいた連中も、
顔色を変えた。
俺は鼻歌交じりに、歩きながら朝鮮高校の生徒を殴り倒す。
悲鳴が上がるたびに、一人、また一人と逃げ出していき、松下と三野の傍に行った時には、
朝鮮高校の生徒は3人しか残っていなかった。
「汚ねえぞ! んなもん使いやがって!」
「金属バットやら、木刀やらで武装した奴らがよく言うよ。
ガタガタ言わんとかかってこいよ」
「同時にかかるぞ!」
「おお!」
長髪の奴と、ピアスをした奴が、金属バットで殴りかかってきた。
俺は長髪の脛を棒で払い、ピアスをした奴の金属バットをかわし、膝蹴りをみぞおちにいれた。
倒れた二人を見て、残った一人が木刀を投げつけてくる。
俺が木刀を首を傾けてかわすと、男は唾を地面に吐いた。
「やってくれんじゃねえか。勝負せいや。おお?!」
「あら。一対一がお好み? でも、それは虫が良すぎるんじゃないかなあ?」
「ああ? 逃げんのか?!」
男の背後にいた松下が、裸締めを決め、締め上げる。
男が落ちると、松下は手を放し、大きく息を吐いた。
「いってー。思いくそバットで殴られたぜ」
「怪我はない?」
4人が集まってくる。
少し怪我をしているものの、どいつも平気そうだ。
田崎が、血の混じった唾を吐いてから、煙草を咥える。
「しっかし、見事なもんだな。棒もってりゃ、お前ひとりでいいんじゃねえのか?」
「ははは。いくらなんでも、200人を相手にしてたら、体力が持たないって。
ああいう集団はな、最初の数人を力の差を見せつけて倒したら、かかってこなくなるんだよ」
「さっすが俺らの姫は違うねえー。なあ、姫、最初に頑張った俺に褒美くれよ。
キス、キスがいい」
俺の肩を抱いてくる西田の顎に棒を当てると、西田は顎を押さえて蹲った。
背後の妙な気配に気付くと、どこかに隠れていた小森が、俺に抱きつこうと身構えていた。
「メガネ君、西田みたいに棒をくらいたいか?」
「おほん。今のは奈津美さんが、油断してないか試したのです。
さて、いまので敵の戦力は、半減したとみていいでしょう。
いよいよ校舎に突入しますが、今の戦いを見ていたら相当警戒するはずです。
気を引き締めてください」
三野が小森の胸をポンと叩いた。
「うちらの姫がいたら、問題ねえって。朝鮮高校なんて、軽くやっちまわあ。
なあ?」
「三野さん、さっきの戦いが上手くいったのは、敵が油断してたからですよ。
ほら、ご覧なさい。あんなに威嚇していた連中が、いまは息を潜めている。
何かあると考えるのが普通ですよ」
「何かってせいぜいが、棒きれもっておそってくるぐれえだろ?
ちゃちゃっとやっちまおうぜ」
「うーん。そうだといいんですが。では、正面に奈津美さん、田崎さん、真ん中に西田さんと僕、
後を三野さんと松下さんで固めて、用心していきましょう。
このフォーメーションは崩さないでくださいね。分断されたら途端に飲み込まれますよ」
校舎内は、まだ少し煙っているものの目や鼻には、それほど影響がなく、
俺たちはゆっくりと進んでいく。
物音はしないもののどこかから見られていると感じる。
2階への階段を上っていると、前から2人木刀を持った男が現れて跳びかかってきた。
俺は木刀をかわし、棒を顔面にあてて、一人を倒す。
もう一人は、田崎が右の拳で殴り倒した。
「やっぱ俺はこれだな」
そういって、田崎は持っていた木刀を捨てた。
「おいおい。大丈夫かあ? こいつら危ねえぞ?」
「はっ。この程度ならなんぼでも来いって。
それによ、奇襲が二人ってことは、大半が逃げたんだろ。
なあ、メガネ?」
小森は、うーんと言って渋い顔をする。
「まだ、親衛隊が出てきてないんですよねー。
とにかく用心して進んでください」
2階にあがり、廊下を見るが人の気配はない。
「メガネ君、どうする? 教室の一つ一つを調べる?
それとも上に上がる?」
「敵の大多数が逃げ出したとしても、
相手の数の有利がなくなったわけではありません。
囲まれることをもっとも警戒する必要があります。
手間はかかりますが、教室を一つ一つ調べましょう」
「そうだね。そうするか」
廊下を歩き、教室を見るが誰も残っていない。
同じように、3階、4階を調べたが、教室に居た形跡はあるものの、
誰もいなかった。




