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おやじ彼女  作者: ponta
壮士凌雲
517/570

新手

「お前らの大将は、タイマン張って負けたんだ。

 うだうだ言ってると、金の恥になるぞ。

 それでも 文句のあるって言う奴は、前に出ろ! 俺が相手してやる!!」

 

金の配下は、皆下を向いて、押し黙った。

俺は、棒をクラブケースから出しながら、声をかける。


「いい勝負だったわ。勝負は時の運。胸を張りなさい」


俺の動きに気付いた奴が、声をあげる。


「今度は、その棒で俺らをやろうってのかよ!」


「うん? これ? ちょっと、お客さんたちを歓待しようと思ってね」


校舎からゾロゾロと男たちがやってくる。

校外からも男たちが現れて、あっと言う間に数十人の学ラン姿の奴らに囲まれた。


金が配下の肩を借りて、よろよろと立ち上がる。


「李、俺に任すんじゃ、なかったんか?」


集団が左右に割れ、一番後ろにいた160cmぐらいの小柄な奴が、

歩いてきた。

髪を逆立て、目つきが鋭い。なかなかすごみがある。


「金~。負けちゃあ、シャレにならんだろ~?」


「数に物言わせて、勝って男が立つんかい?」


「お前は甘い、甘いんだよ。負けた罰にお前らも一緒にしめてやる。じゃな」


李が囲みの中に消えていこうとしたとき、声が響き渡った。


『待たれーい! 待たれよー!』


囲みの後から声がして、ごめんなさい。ごめんなさい。と

人を分けながら、小森が近付いてきた。


「メガネ君、何やってんだ?」


「ふふふっ。こんな大一番を見逃がしてなるものですか。

 この知の小森に秘策あり。お任せください」


「また、妙なのじゃないよなー?

 今日は棒持ってきてるから、策なんてなくても大丈夫だよ」

 

「ふっ。奈津美さん、そんなこと言っていいんですか?

 朝鮮高校、総勢200。さすがに奈津美さんでも体力が持ちませんよ」

 

「うぇ。そんなに来てんの? ご苦労なことだなあ」


小森は、にやりと、笑い声を張った。


『兵法とは何ぞや! 兵法とは何ぞや!

 李王朝の末裔、李燕純よ! 答えられい!』

 

李の顔色が変わる。自尊心をくすぐられたのか、少し笑っている。


俺は、小森に耳打ちする。


「こいつ、王族なの?」


「奈津美さん、李王朝の末裔と言っている人間は、数万を超えているんですよ。

 彼らは生まれがいいと思うことで、自尊心を保っているんです」

 

李は、足を止め口を開く。


「ふん。何が聞きてえ? 見ての通り、俺には手駒が多くてな。

 数で圧し潰すのが、俺の主義だ」

 

「おやおや。李大兄ともあろうお方が、そんなことでいいのですか?

 せっかく福岡のトップを決める戦いだというのに」

 

「あん? だったら、どうするっていうんだ?」


「こうしてはどうでしょうか? 李大兄は校舎を城と見立て、

 校内で守りを固め、三鷹水産の5人は、中に攻め込んでいくのです。

 李大兄のところまで、この5人がいければ、彼らの勝ち。

 攻め込んできた無法者たちを、李大兄が追い払ったとなれば、

 あなたの名声はさらに高まるでしょう」

 

「たった5人を追い払ってか?」


「誰が5人で攻めてきたという言葉を信じるでしょうか?

 最強と呼び声高い、朝鮮高校を攻めたとなれば、少なくとも数十人規模だと、

 思うのが普通です」

 

李は、少し考える素振りを見せたが、すぐに右の口角をあげた。


「乗ってやる。暇つぶしにはちょうどいい」


李は配下に目配せして、金一派を校舎の外れの方へ連れていかせ、

自ら配下を率いて、校内へと入っていく。


松下が、心配そうに声をかけてくる。


「めちゃくちゃ多いじゃねえか。その策とやらは、大丈夫なんだろうな?」


小森は、メガネをくいっと上げ、胸を張る。


「おやおや。三鷹水産の特攻隊長ともあろうものが、随分と弱気ですね。

 いいですか? まず狭い場所にいけば、多人数の優位は半減します。

 そして、もう一つ。あなた達には、この知の小森がついている。

 大船に乗った気でいてください」

 

松下は露骨に嫌な顔をする。


「ふっ。その顔、数時間後には笑顔になりますよ。

 さてさて、李たちは素直に校舎に入っていきましたか。

 まあ、こちらの人数を見て、侮るのは無理もない。

 見せてやりましょう。現代戦において、数の差が、そのまま戦力差に結びつかないという事実を!

 うははははは!! 刮目せよ! 愚民ども!!」


俺は、危ない世界に入っていこうとしている小森の頭を叩いた。


「メガネ君、現実世界に戻って来いって」


「痛いなー。奈津美さんは、暴力的だー」


「ほら、バリバリのヤンキー4人ですら、メガネ君みて引いてるぞ。

 4月から東京の大学なんだろ? ちょっとは、一般人に溶け込むようにしないとだめだぞ」

 

「奈津美さんにそう言われると、何だか寂しくなってきます。

 皆さんに種明かししますよ。催涙弾です。これで、大半を戦闘不能にします」

 

小森がバッグを開けると、中に大きな弾が数個入っていた。

これに催涙ガスが入っているのだろう。


それを見て、田崎がへっと言って、馬鹿にするような顔をした。


「横から出てきて、妙な真似すんなよ。

 雑魚が何人来たってなあ……」


その時、頭上で、ガラスが割れる音がした。 

校舎から椅子が落ちてきて、地面に激突する。


それを見て、田崎の顔が引きつった。


「おや、僕の手助けなど必要ないとおっしゃる?

 李は勝つためなら何でもする凶悪な男だというのに。

 僕も無駄なことはしたくありません。では、お暇することにしましょう」

 

俺は田崎に目で注意して、小森のエリを掴んだ。


「ほらほらー。そんな意地悪言わないでよー。

 メガネ君がいないと、勝てないんだからさー。

 お願いしますよー。小森大明神さまー」

 

「仕方ないなあ。奈津美さんにそこまで言われては、やらねばなりますまい。

 では、作戦です。まずは、この催涙弾を撃ち込みます。

 これで、1、2階にいる連中は戦闘不能にできるでしょう。

 しかし、問題は李の親衛隊です。一人一人は皆さんに比べて、

 大したことはないですが、集団になると恐ろしい。

 少年院に行くことも厭わず刃物を持って襲いかかってくると聞きます。

 彼らのようなものを相手にするのは厄介ですよ」

 

「ああ、それなら大丈夫。今日は棒持ってきてるから。

 手足の一本でも折ったら、大人しくなるっしょ」

 

「ふむ。奈津美さんの棒術なら、制圧は可能ですかね。

 他のアイテムもあるし、いけるかな」

 

小森は、とことこと校舎の方へと歩いていく。

校舎の至るところから浴びせられる罵声に、緊張の面持ちの三野が、

あきれ顔をする。


「なんなんだあのメガネ。ダサ坊のくせして、なんでビビりやがらねえ」


「肝据わってるだろ? メガネ君はね、俺と一緒にいる間に、頭のネジが飛んだみたいなんだ。

 いつの間にか、こういうやばいところが大好きになったみたい」

 

小森は歩きながら、筒を取り出し、何やら組み立てている。

あれで、発射するつもりか。ほんと、どこでこんなの手に入れてくるんだろうか?


小森は手慣れた様子で、催涙弾を装填すると、1階と2階の窓に2発ずつ打ち込んだ。


「さあ、皆さんの出番ですよ! はりきってどうぞ!」


三野や松下は、どんなテンションだよ? とぶつくさ文句を言いながら、

目や口を押えて、校舎から出てきた奴らを次々と木刀で殴り倒す。


田崎は、余裕の表情で煙草を吸いだした。

西田が、足を引きずりながら、二人に加わろうとしたので、

俺は手を引いて止めた。


「無理しないで、休んでていいって。まだ始まったばかりなんだから」


「なら、ちょっと休んどくわ。マジで、きちー」


西田がしゃがみこみ、俺が頭を撫でてやっていると、校舎の裏から朝鮮高校の生徒が、

十数人走り出してきた。

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